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白バラの祈り-ゾフィー・ショル、最期の日々

『白バラの祈り-ゾフィー・ショル、最期の日々』を見ました。想像以上に良い映画でした。
白いバラ(Die Weise Rose)は第二次世界大戦中のドイツにおいてミュンヘン大学の学生が中心となって行われた非暴力主義の反ナチス運動です。そのリーダー格であったハンス・ショルとゾフィー・ショルの兄妹が逮捕され処刑されるまでを描いた映画です。
戦闘シーンなどの惨たらしい場面はなく、取調室と留置所と法廷のシーンで作り上げた映画ですが非常に優れた反戦映画です。言論の自由とはなにか、思想とは、信念とは-。非常に厳しい問いが投げ掛けられてきているようです。
彼女達はただ信念を伝える言葉の強さを、平和を望む言葉の強さを信じたにすぎません。けれどナチ統治下のドイツでは許されない行為。当たり前でなければならないことが当たり前でない不自由な時代。
けれどゾフィー達は己の信念を貫きそれに殉じます。彼女を取り調べる係官に「法律に頼らないならば何に頼るのか」と言われて真っすぐな瞳で「良心よ」ときっぱりと言い切る彼女のなんと美しいことか。ホロコースト、精神障害児の抹殺、ナチスの罪を「礼儀とモラルと神の問題」と言い切る彼女にナチスの論理を滔々と語る係官の言葉はひどく弱々しい。係官の語る考え方が当時のドイツの一般的な考え方でしょう。ヴェルサイユ条約締結後のすさまじい混乱にある意味終止符をうったナチス。しかしナチスがまた新たな混乱をもたらしたことは係官もわかっていたことでしょう。彼女の放つ真摯で美しい言葉に揺さぶられながらもナチスを捨てることはできない。それが彼の言葉から力を奪います。
法廷でユダヤ人虐殺をやめなければドイツは世界から見放されるだろう、という彼女に「我々は支配民族だ!」と返す悪名高い判事フライスラー。あらんかぎりの罵倒の言葉を尽くす彼に一歩も退かず、「支配民族は平和を望むわ!人間の尊厳を望みます。神と良心を望みます。…愛も。」と真っすぐに答える彼女。彼女は有罪判決を受けますが、それはけして敗北ではありません。彼女の言葉に揺さぶられた取調官、彼女の言葉に顔を伏せずにいられなくなった傍聴するナチの将校達。彼らの心を真っすぐに彼女の信念は撃ち抜いた。この瞬間彼女は有罪となったけれど、彼女の信念は勝利した。私はそう思います。
裁判のシーンの途中から、なぜか泣けて泣けてしかたありませんでした。彼女の強さはどこから湧いてくるのか。死を賭してまで貫き守り通した彼女の信念はあまりにも眩しく美しい。その言葉の一つ一つの持つ強さと力に胸を打たれます。彼女達の姿は思想に殉ずるということの単純なヒロイズムやナルシシズムではけしてありません。彼女達の求めた理想と良心の美しさと正しさ、そして言葉だけでなく死をも覚悟して貫き通す潔さは、その純粋さゆえに厳しくその言葉を聞く者の信念と思想を問うてくるのです。それは思想と言う言葉とは無縁になってしまった現代の私にも非常に厳しく迫ってきます。
判決からわずか数時間でギロチン刑に処せられた彼女。その最期の時にも「太陽は輝き続けるわ」とその思想の正しさを揺るぎなく信じた彼女。強く潔く生きた彼女の姿は鮮烈です。
作中には彼女の当たり前の女学生らしい姿や最後の手紙を書くように言われて入った小部屋で慟哭する姿なども描かれています。彼女だって当たり前のまだ幼さを残した一人の女性であったことを思うとまた言いようの無い思いに襲われます。
もしかしたら幼いほどの純粋さゆえに成し遂げることのできたことなのかもしれません。けれど彼女達の思想の美しさと正しさは揺るぎなく、なんら傷つけられるものではないでしょう。
思想とは、信念とは、良心とは。そして本当の言論の自由とは。厳しい問い掛けと強い信念に心の底から揺さぶられる映画でした。


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