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ミルク& ハーヴェイ・ミルク

I ask this, that if there be an assassination, I would want five, ten, a hundred, a thousand to rise.
If a bullet should enter my brain, let it destroy every closet door.
I ask for the movement to continue becouse it's not about personal gain, and it's not about ego, and it's not about power.
It's about the “us's” out there.
Not just the gays but the blacks, and the Asians, and the seniors, and the disabled.
The “us's”.
Without hope, the “us's” give up.
And I know you can't live on hope alone.
But without hope, life is not worth living.
So you, and you, and you, you got to give them hope.
You got to give  them hope.

もし暗殺があったら、5人、10人、100人、1000人が立ち上がるのを望む。
もし弾丸が僕の脳を撃ち抜くなら、その弾丸に全てのクローゼットのドアを撃ち破らせてくれ(=もし私が暗殺されたなら、クローゼットに隠れて生きていたゲイたち、カミングアウトしてほしい)
運動の継続を求めるのは、個人の利益のためではなく、エゴのためでも権力のためでもない。
それは、世の中の 「私たち」 についての話である。
ゲイに限らず、黒人、アジア人、高齢者、障害者。
「私たち」 。
希望がなければ 「私たち」 は人生を諦めてしまう。
希望だけでは生きていけないのはわかっている。
しかし希望がなければ、人生は生きる価値がない。
だから、あなたも、あなたも、あなたも、彼らに希望を与えなくてはならない。
彼らに希望を与えなければならない。
ガス・ヴァン・サント×ショーン・ペン、ショーン・ペンがアカデミー主演男優賞を受賞した、『ミルク』、そしてその映画の元となった1984年のロブ・エプスタイン監督のドキュメンタリー映画、『ハーヴェイ・ミルク』こちらもアカデミー賞受賞作です。
最初に載せた文章は、ハーヴェイ・ミルクの遺言の一部です。
どちらも見て良かった、と素直に思える素晴らしい作品です。
『ミルク』の方はガス・ヴァン・サント監督の丁寧な描き方とショーン・ペンの役作りが素晴らしいし、『ハーヴェイ・ミルク』の方は実際の映像と関係者のインタビューから彼の起こしたムーブメントの熱さが伝わってきて、追悼行進のシーンは涙モノの感動。静かに深い感動を与えてくれます。
ガス・ヴァン・サント監督自身もゲイであることを公表していて、『マイ・プライベート・アイダホ』でも男娼や同性愛的な感情を描いていますが、今作でもセンシティブで印象的なシーンがたくさん。いわゆる『モーリス』や『マイ・プライベート~』のような美しい男同士のラブシーンではないし、生々しくもあるのでダメな人はダメかもしれないけど、そこはやはり監督と俳優陣の力の凄さ、どんどん彼らが切なく悲しく、そして暖かく感じられてくるのです。エミール・ハーシュ、ジェームス・フランコ、ディエゴ・ルナら、若手陣の熱演も見もの。
70年代のゲイの置かれていた現実、ヒステリックなキリスト教原理主義者達の反応。セクシュアリティという極めてプライベートな部分で差別され、公民権が奪われる。そのことに憤り、当たり前に生きられるように戦う彼らの熱さが痛いほどに伝わってきます。そして理解されない辛さ悲しみ、痛み。家族や友人、同僚、身近な人々に言えない、言っても受け入れられない孤独と絶望。
ミルクはそんな彼らに希望という光を与え、そして孤独の暗闇から引っ張り出してくれる存在なのです。
そして彼はゲイの為だけでなく、全ての差別されている人々の人権の為にも戦う。それはきっと全ての差別、マイノリティの為に戦うことが自分達が受容される為に必要だと知っていたから。自分達が他の人間の持つ差異を認め受け入れなければ、自分達もまた受け入れられることはないと知っていたからではないでしょうか。だからこそ、ゲイだけでなく労働者や中国系社会からも支持を受けることができた。
『ハーヴェイ・ミルク』の中で、彼の支持者だったトラック組合員は「彼に会わなければ、警官がゲイを迫害したからって何がいけない?と思っていたよ」と語る姿が全てを物語っていると思います。共に闘うことで、ホモフォビアとまではいかないでも、偏見を持つ者の意識も変えてしまった。それは彼の「問題は僕達だけの問題ではないんだ」という思いが強かったからこそでしょう
もちろん、彼も聖人君子ではないし、そんな風には描かれていません。政治的な駆け引きもするし、計算して自分を演出することもします。時には目的の為に人を傷つけもします。けれどそんな人間的な弱さや強かさ、それらを含めても彼の成したことの大きさには変わりはありません。
自分の為の幸福だけを考えるならば、彼がニューヨークでそうしてきたようにゲイであることを隠しながら暮らしてもよかったでしょうし、カストロ通りのゲイ・コミュニティで恋人と穏やかに静かに暮らすこどもできたでしょう。でも彼はそうしなかった。当たり前であるはずの権利を、本来皆が持つはずの権利を皆の手に取り戻す為に闘った。恋人を失い、命を脅かされながら。
彼は凶弾に倒れますが、彼の灯した希望の火が、3万以上もの人々の灯す蝋燭の灯りとなり、静かな行進となるのです。そしてその人々の姿に重ねられる彼の遺言。静かな深い深い感動に涙が溢れてきます。
今当たり前のように様々な権利を有している自分自身が恵まれているということ、そして持つ者の無意識の傲慢さを突き付けられるような、そんな作品。
ちなみに個人的な意見ですが、『エンジェルス・イン・アメリカ』と『ボーイズ・ドント・クライ』も一緒に見るのをおすすめしたいです。


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