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ボルベールー帰郷

アルモドバル監督、ペネロペ・クルス主演。
娘と失業中の夫とマドリッドで暮らすライムンダ(ペネロペ・クルス)。ある日彼女に二つの死が降りかかります。娘のパウラが義父に犯されそうになり、台所で彼を刺し殺してしまいます。
娘を守るため夫の死体をなんとかしようとする彼女に、今度は最愛の叔母が亡くなったという知らせが。
葬儀に行けない、とライムンダに言われた姉、ソーレ(ロラ・ドゥエニャス)は一人叔母の葬儀に出るのですが、そこで故郷ラ・マンチャで数年前に火事で焼死したはずの母(カルメン・マウラ)の姿を見た、という噂を耳にします。
本気では取り合わなかったソーレの前に現れる母。幽霊なのか、生きていたのか。そして彼女はなんの為に戻ったのか。
そしてライムンダとの再会。戻ってきた母はある秘密を抱えていたのですが…。
女性の描き方に定評のあるアルモドバル監督作品だけあって、どの女性も強く魅力的です。色使いも美しく、明るいスペインの陽射し、鮮やかな赤やオレンジ。美しく明るい画面とは対象的に重いストーリーなのですが。
娘を守る強き母でありながら、一方では複雑な母への思いを抱えた少女のような一面もみせるペネロペ・クルスの演技が光ります。そしてカルメン・マウラ演じる自分の罪を背負い、死んだものとして隠れ住まいながらそれでもなお娘達を思い、そして自分の罪を贖なう為に生きる母親もすごく魅力的です。
連鎖してしまったドメスティックな悲劇、それを通して取り戻されていく母子の絆の物語。湿っぽさもなく淡々と綴られていきますが、息づく女性の力強さ、愛情深さが伝わってきます。
彼女達の罪の原因となった男達はあくまで影が薄い、むしろ男性を廃除するかのように描かれているのですが、それによって彼女達の罪を軽く感じさせることもなく、監督の巧みさに唸らされます。
ラストはかなり宙ぶらりんです。わかりやすい答えなど出るはずもないテーマなのだからこれはこれでアリだと私は思います。
何より彼女達の罪は消えないし、和解即ハッピーエンドとするにはあまりに複雑な事情を抱えた彼女達。
これからどれほどの歳月が彼女達の間に流れるか、どんなことが起こるのかは誰にもわからないけど、再会した彼女達の物語はまたここから始まるんだと思います。
リセットではなくリスタートの物語。
彼女達は何からも逃げることなく、後悔も罪も全てを抱えたままこれからも生きていくんだ、と思わされました。
わかりやすい感動はないけど、見終わった後にじわじわくる映画でした。
ペネロペ・クルスが『ボルベール』を情感たっぷりに歌うシーンは必見です。彼女にはやっぱりスペインが似合います。


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