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流れる

幸田文の同名の小説を映画化した作品です。
傾きかけた置屋で女中として働くことになった梨花の目を通して時代の中で変わりゆく花柳界と女達が描かれます。
日本映画の黄金期のスター、総出演の豪華キャスト。なにせ高峰秀子、岡田茉莉子の2人が小娘に見えるほどです。田中絹代に山田五十鈴、杉村春子の演技が素晴らしい!また栗島すみ子が貫禄の存在感でいい味出してます。
小娘に見えてしまう、と言ってしまいましたが、高峰秀子は本当にかわいらしい!自分の意見をはっきりと口に出す気の強い娘ですが、将来やこれからどう生きていくか思い悩む繊細さもあって、微妙な年齢の娘らしさがすごく出てます。
岡田茉莉子はもう輝くばかりの美貌。髪型もあいまって、A・ヘップバーンを彷彿とさせる日本人離れした美しさです。これだけ美しければそりゃ驕慢にもなるでしょう、と思っちゃいます。美しいだけでなく売れっ妓らしいはすっぱさやちょっと嫌味な感じや、男にふられて大仰に嘆く玄人女“らしさ”もあって魅力的に演じています。
山田五十鈴の芸者としてのプライドの高さとそれを曲げざるをえない悲哀はもう秀逸です。あけすけに話しているようで、自分の芸者としての矜持を曲げようとしていることを抱えている芸妓や家族には隠そうとする切なさにほろりとさせられます。
杉村春子はほんっっとうに凄い役者であることを改めて思わされますねぇ。下手な女優がやったら印象に残らない脇役になってしまったことでしょうが、杉村春子は愛すべき滑稽で哀しい年増芸者を生き生きと素晴らしい存在感で演じています。開き直っているようでいて脆い、明るい滑稽な人物のようでいて切々と哀しい。さすがの名演です。
田中絹代はもう本当に不世出の名女優だと思います。言葉少なで控え目で、にもかかわらず彼女の演じるお春さん(梨花)の視線は雄弁で優しい。終盤のほんの僅かな視線の動きと仕種で、彼女のつたの屋の人々に対する思いや奉公人の立場を越えるべきか思いとどまるべきかという逡巡、全てが溢れるように伝わってきます。ほんっとうに素晴らしい女優です。
栗島すみ子の腹の底の見えない狡猾さはインパクト大。海千山千の芸者上がりらしさがなんとも言えない味です。この人だけは何があっても動じないし損もしなさそう、そんなたくましさと貫禄のある姐さんぶりです。
中北千枝子の脳天気な我が儘ぶりもいいです。出戻りでも全然遠慮しないし、つたの屋の窮状を感じていながらやることは的外れ。そういう浅はかさや愚かさがなんとも効いてます。
巧者な役者陣、成瀬監督の淡々とそれでいてリアルに精緻に人間を描き出す技が重なり合った最高の映画です。
山田五十鈴の女らしい愚かさ、弱さ。杉村春子の滑稽な哀しさ。田中絹代の優しくも人々を見つめる冷静な視線、聡明さ。栗島すみ子のしたたかさ。高峰秀子の娘らしい潔癖さ、不安定さ。岡田茉莉子の美しい若い芸妓独特の驕慢さ。
一つの置屋の凋落を題材に人間の哀しさや滑稽さ、弱さ強さが生き生きと、けれど静かに浮かび上がります。
ここにあるのはもしかすると滅びゆくものの持つ独特の美しさなのかもしれません。でもどこか懐かしく愛おしいそんな世界。
名だたる女優達と名監督の作り上げる本当に素晴らしい作品です。しみじみと心に染みてくる、映画っていいなぁ、これが映画だよなぁ、と思える宝物のような映画です。


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