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水遊び大会で1番強かったもの

高校3年生の7月。

部活の最後の大会も終わり、
いよいよ本格的に受験勉強一色に切り替える時期。
今年は海にも夏祭りにも行かずに毎日8時間は勉強しなければならない。

とは言っても18歳。少しでも夏らしい思い出が欲しいと思っていた。

そんなある日のホームルーム、
1人のクラスメイトが立ち上がり言った。

「明日の昼休み、水遊び大会をします。」

最高じゃん。
彼がヒーローに見えたし絶対参加しようと思った。

そして続けて彼は言った。
「参加する人は1人1つだけ、武器を持って来てください。」

アナウンスが前日だったこともあり、
お金も時間も無かった私は100均で100円の小さい水鉄砲を買った。

当日。
朝から何だか皆そわそわしていた。

家にあった大きい水鉄砲、
大量の水風船、
100均で300円で売っていたというウォーターポンプなど、
各々が自分の武器を見せ合っていた。

3限終わり。
10分くらいでお弁当を食べて、水風船勢はその間に自分の手榴弾の準備をしていた。

時は来た。
結局クラスの半分、20人くらいが下駄箱前の水道に集まった。

特に始まりの合図などはなく、
誰かが試しに水鉄砲を誰かにかけて、それに水風船でやり返し、それがどんどん派生する形で水遊び大会は開幕した。

私の100円水鉄砲は、威力も弱くすぐにタンクの水が無くなってしまうので最弱だった。
同じくらい最弱なのが、1発の威力は強いものの1発しか打つことができないウォーターポンプだった。

水道がある場所で開催していて、しかも「水の補給中は攻撃してはいけない」というルールもあるわけがなく、
制服も下着も靴下もローファーも3分でビッショビショになった。

そんななか、他を寄せつけない最強の兵士がいた。

彼の武器は、



柄杓



Wikipediaより

家にあったという、たぶんお墓参りとかで使うからであろう、ただの柄杓。これが強すぎた。

まず、飛距離が結構長い。
水風船や弱目の水鉄砲を確実に当てるためにはかなりの接近戦が必要になり、そうなると自分が食らうダメージも大きくなる。
柄杓は持ち手の部分が割と長いし、自分の力加減で水をそれなりに飛ばすことができた。

そして、補給→攻撃の時間が圧倒的に短い。
これが最強たる所以だった。
どんなに強い水鉄砲でも必ずタンクの水は切れ、またタンクをいっぱいにするのにはかなりの時間がかかった。

柄杓の彼は、水道の前にずっと構えていた。

そして射程圏内に人が来ると蛇口を捻って水を溜め、投げ飛ばす。
溜めるまでの時間が1.5秒、そこから発射まで0秒の
べリークイックな攻撃が可能だった。

もう誰も敵わなかった。

水風船のストックが尽きた者たちは、下駄箱前に放置されていた傘で防戦する一方となった。

15分ほど経過して下駄箱の前が水浸しになった頃、
19人の死体の上に柄杓を持った男が1人立って笑みを浮かべた頃、
「やめなさーーーーーい!!!!!!」
体育教師の怒号が飛んできて終戦の時は呆気なく訪れた。

その後、全員で落ちている水風船の残骸を拾い終わったあたりで
本当の終戦を告げるチャイムが鳴った。

1番原始的な道具が1番強いなんて、
文明も受験勉強も少し馬鹿らしく思えてしまった
夏の思い出。

ちなみにこの後ずぶ濡れで向かった4時間目の授業は化学の実験で、
その実験もとても記憶に残っているのでnoteに書いています。

こちら↓

ろくでも無い受験生ですね。。。


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夏の思い出

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