自殺願望を語る人に何をどう伝えるか
数年前、ある人が外来で自殺願望を語った。
そこで、こんなことを話した。
これに同意が得られたので、とりあえずの危機は去った。
もしも、そんな約束はできないと言われていたらどうしたか。
それは分からない。
やっぱりそのときは必死になって頭を悩ませるだろうし、なにか見つかっていたはずだ。現場には、そういう力がある。
逆に、遠目で冷静にああでもないこうでもないと考えても、きっと大したものは出ない。
その人と築いてきた関係があるからこその「こちらの頭の中の開示」で、これを誰にでも当てはめてうまくいくとは思わない。
それから、文章にすると理路整然と話しているように見えるが、実際には行きつ戻りつ、表現を変えて繰り返したり、反応を確かめるため沈黙していたりする。
「頭の中の開示」は、いつ誰にやっても有効というものではないだろうが、なにかの提案について、こちらの思考過程まで含めて説明することで、相手の安心や理解につながる場合はあると思っている。
また、こういう話をしたこともある。
これらはあくまでも関係の土台があってのもので、違う人には違う声かけをするだろう。 こういうときは、「信頼関係がある」「関係が悪い」といった関係の質より、その関係の土台に無理なく乗っかる言葉を探すことのほうが大切だ。
なぜなら、患者さんが自殺願望を語るような緊迫した状況で、これまでの関係が良いか悪いかを気にして論じるような余裕はないから。 今すぐには関係を変えようがないので、まずは今ある関係に合った言葉を探す。 関係を変えていくのは、その場をくぐり抜けてからで良い。
関係、状況は千差万別であるから、同じ言葉の使いまわしでは太刀打ちできない。言葉を探す努力は、惜しまないようにしたい。
余談ではあるが、冒頭のケースのあとには、この人のカウンセリングを担当している心理士とも話し合い、家族に知らせないままなにか起きてしまったら、それはもう私がひっかぶるしかないと思っていると伝えた。この心理士とは密にやりとりする仲で、彼にこういう話をできたことで心理的負担は軽減された。こうやって自分自身へのケアを忘れないことも重要だ。
【2023年10月追記】
詳細は記さないが、このときに期待したような結果や関係とはならず、途切れてしまった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?