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新刊本はどのようにして書店に配られるのか?(午郎’S BAR 7杯目)

『踏み出す一歩』発売


10月13日にブックダム出版事業第1弾『踏み出す一歩 そして僕は夢を追いかけた』が発売されます。著者は現在米大リーグ、テキサス・レンジャーズ投手育成コーチ倉野信次さん。
倉野さんが、日本プロ野球福岡ソフトバンクホークスの投手コーチを辞めて、単身大リーグの投手コーチになるために渡米し、1年後正式に契約するところまでのチャレンジをまとめたものになります。
是非皆さんにもお読みいただきたいのですが、今回は踏み出す一歩の宣伝ではなく、こうした新刊書籍はどのように全国の書店に並ぶのか?を紐解きます。

新刊書籍はどうやって書店に配布されるのか


例えばSNSで著者や出版社が「新刊出版しました」投稿したものを見て、「買いに行こうか」と思い立ち、近所の大きめの書店に行ったけれども1冊も置いていなかったことはありませんか?「あぁ、結構人気なんだな。もう売り切れてる」と思ったあなた。それは大間違いです。そもそもその書店にはその本が配本されていなかった、と言うことなのです。
新刊書籍は一部の出版社を除いて、取次店(日販やトーハンなど)を介して書店に届けられます。どの書店に何部届けるのかは大きく2つのルートで決まります。
1        書店指定注文
これは出版社からアナウンスされた新刊情報を見た書店が、自分のチェーン、または店舗で欲しい数量を事前に出版社に発注するものです。人気があって初版部数(最初に印刷した部数)がそれに比べて少ない場合を除いて、書店の希望数がそのまま書店に発売に合わせて配本されます。


こうした注文書を書店に配布します。


2        見計らい配本
これは取次店が自分の取引書店で売れそうな書店(上記の指定注文が無かった書店)に配本することを言います。書籍は再販価格が設定されているために、一定期間返品が可能な「委託販売制」を取っており、また年間約8万冊の新刊が発行されている現状では、すべての新刊の情報を全書店が追うことが難しい状況であり、さらに出版社側も全書店を営業的にカバーできないところが多いので、取次店が過去の類書等から合計の配本数を定め、配布先を決めるものです。
つまり自店で発注をしておらず、且つ取次の見計らい配本から漏れた書店の店頭には例え新刊といえども本が来ないことになります。

大きな変化


以前は指定発注が少なくても、見計らい配本がそれをカバーしてくれたため、ジャンルによって異なりますが、出版社から取次店に最初に入れる本(初版)の数量はトータルで最低3000部くらいでした。3000部ですから全国の書店数からすると全然足りないわけです。多く売れる店舗には山ほど入る、なんてこともありますから3000部だと配布される店舗数は全国で多くて500店くらいではないでしょうか?ただ文芸や新書等は初版数が多いので多くの書店に配本されるようにできています。
しかし、この1年ほどでこうした配本数は大きく変化しています。今は下手をする初版で1000部出せない場合もあり得ます。
これは長年出版業界の課題とされてきた返品率を低減する、が要因になっています。委託販売制度の中で返品はどうしても発生するのですが、その割合が高すぎると物流(取次)の利益を圧迫し、且つ、出版社の売上にも響きます。
そこで大手取次は双方とも返品率を減らすために、日販は新刊における送品の数を減らし、書店側にも行き過ぎた発注で発生した返品にペナルティを課すようにしました。トーハンはまだ具体的な行動はありませんが、日販と同じで返品の温床になりかねない「見計らい配本」を見直す方向になっているようです。
その結果書店の指定発注数は減り、且つ見計らい配本が減った結果、初版の総数と初版が配本される書店の数が減っています。

指定注文を取るのは大変

さて見計らい配本数が減ってしまった現在、多くの本を市場に供給するためにはどうしたらよいか、となると、やはりまずは指定注文を如何に取れるか、です。発売後に一定数書店に配本できないと、当然読者の目に留まる機会も減ります。そうなると売り上げもあまり期待できません。配本できたとしても1店舗に入る数量が5部未満だと、ほぼ平積みは期待できません。平積みされていないとお客様の目に留まる確率もまた低くなるわけです。
つまり出版社の営業は書店からの注文も大事なのですが、どこにどのように置かれるかも気にしていないといけません。
とは言え、少なくなったと言えど全国にはまだアクティブに8,000軒ほど(推計だが)の書店があり、その全部のカバーはなかなか難しい。弊社のように2人しか営業のいない出版社は尚更です。
ではどのように書店から指定注文をいただくのか?
大別すると3つの方法があります。
①書店チェーンの商品仕入れ担当に新刊情報を流し、本部で全店舗の発注数を取りまとめてもらう。
②営業が直接店舗に伺い、新刊情報を案内し、そのお店から直接注文をいただく。
③全国の書店向けにFAXで注文書を流し、その帰りを待つ。
比率としてはやはり①が1番多く大体7割程度、②が2割、③が1割というところ。ところが①もそう簡単に注文はいただけません。毎日200近い新刊の情報が入ってくる中で、書店の本部仕入れ担当者は全てに対応できるわけではないからです。
ナショナルチェーンの書店の場合、5人程度担当者がいますが、それでも1人毎日40以上の新刊情報を捌くことになります。大抵の書店は新刊指定を必ず行う出版社が決まっていて、あとはどう人間関係を構築するか、または、リマインド等をこまめに行い、集約してもらえるようにするかを腐心することになるわけです。
またリージョナルチェーン(地方を拠点にそのエリアで10店舗前後書店を運営しているチェーン)ではナショナルチェーンと異なり仕入れ部門にそれほど人数が多い訳ではないので、特約店契約をしている大きめの出版社分は取りまとめをするのですが、同書店で販売実績のあまりない出版社や、新興の出版社はこうした対象に入らず、発売後取次の発表する各ジャンルの売れ筋で自社店舗に在庫のない出版物を「後追い」で手配するケースもある、と聞いています。やはりこの部分においてもいかにこちらの存在を書店側に意識してもらえるかが重要になってきます。一番の近道は「売れた」という実績を残すことなのですが。
②の店舗から直接注文をいただく場合、2つのターゲットがあります。
一つは旗艦店と呼ばれる書店でジャンル担当者や店長等、決済権限を持つ相手に案内し、且つ、出版後の売り場イメージをその場で共有する方法です。返品が厳しくなった昨今、書店員全員が発注できるわけではありません。チェーンによっては複数の店舗をマネジメントする「エリアマネージャー」しか発注権限を有していない場合もあり、そうしたチェーンの場合、毎日どこにいるかわからないその相手を捕まえないと話にならないわけです。的確に発注権限者と話をすることが重要です。そして旗艦店で売り上げを伸ばすサポートをして少しでも売り上げ上位に食い込ませることで、前出の後追い手配のチェーンからの発注を待ち、且つ、他の店舗にも「売れているな」という感触を持ってもらい、売り場の面積を広げるきっかけにしていきます。
また、もう一つは著者のお膝元を攻略する方法です。地元書店には著者の関係者が買いに来るからでもあるのですが、地方に行くと「地元の著者」は大事にされる傾向にあります。
今回の『踏み出す一歩』の場合、著者の倉野さんは三重県伊勢市出身。前作の『魔改造はなぜ成功するのか』も1番売れていたであろう書店は伊勢市の書店です。今回もそのデータを手に、伊勢市及びその周辺の書店はおおよそ営業して回りました。そうなると東京の旗艦書店よりも多くの受注が入ることもしばしばあります。
また、倉野さんの場合、長い間プロ野球選手やコーチとして現福岡ソフトバンクホークスに在籍していらっしゃったので、福岡もある意味地元と考えられます。こちらも同じように大所には案内をして回りました。
三重県ではちょうどTBS系の日曜劇場の10月からの放送が三重県の無名の高校が甲子園に出る話で、その原作本が売れ始めている、という情報を聞き、その本と併売を提案するなど、売れる可能性を模索しています。こうした情報は書店に行かないとなかなか掴めないので、書店本部からの受注比率が高い、とはいえ、発売後の売り伸ばしを考慮すると、こまめに店頭も回る必要があるわけです。

大事なこと


我々出版社が書店からの受注を大事にしなければならないのはそれだけではありません。書店は我々に代わって本の情報を読者に伝えてくれる場所だからです。前述の通り、毎日約200冊の新刊が出ている状態でも、その情報はほとんど出回っていません。マスメディアに載せる(新聞広告等)はそれなりにコストも掛かりますが、効果が一過性である場合が多いと考えられます。テレビで取り上げられるのは本当に偶然の産物です。(取り上げられるための努力手法もあるのですが)
この業界で一番不足しているのはメーカー側の発信です。それはやはり今まではその部分を書店が店頭に並べることでカバーできたからではないでしょうか?
書店への配本のハードルが以前よりも高くなった現在、書店店頭での読者による気付きに頼るのは最早無理のように感じます。そうなるとどうやってメーカーである出版社が直接読者に情報提供をするか、なのですが、現在各社SNSに力を入れていますが、フォロワー数を見る限り、効果的な情報発信を行えている出版社は本当に少ないのが現状です。
ブックダムではそうした部分を解消するために我々社員一人一人がフォロワーを多く有する発信者になるために頑張っています。しかしまだまだ理想の域までには到達できていないのですが。

今までの出版業界はうまい仕組みでまわっていました。しかし今その調和が崩れています。それは悪いことではありません。メーカーと流通の仕組みがあるべき姿に変わっていく過渡期がきているだけでなのです。各々のプレーヤーが各々のやるべきことを粛々と進めて、読者に本を読んでいただきやすい環境を作っていく、だけです。

『踏み出す一歩』を店頭で見かけたら、「なるほど、この書店は注文したか、見計らいできたのだな」と思い出して頂けた上で、お買い上げいただけると幸いです。

午郎’S BAR 7杯目「TALISKAR」

なかなか厳しい出版業界。ツラいことも多い。
「ツラい」と「カラい」は同じ漢字「辛い」。
カラい、と言ってもいろいろなカラさがあるが、TALISLARは胡椒のカラさ。
しかし深みのあるウィスキー。