6杯目の答え合わせ(午郎’S Bar 9杯目)
6杯目の予測は正しかったのか?
6杯目で、日販・紀伊國屋書店・カルチャーコンビニエンスクラブ(以下CCC)の合弁会社「ブックセラーズ&カンパニー」(以下BC)の設立背景とその目的や今後の動き等を予測してみたが、あれから半年近く経過し、いろいろな情報が明らかになってきた。
6杯目での予測はリリースをベースに、私なりにそれらを推測した内容になっているが、ちゃんと答え合わせをしないといけない。
6杯目の際、私が強く感じた部分を整理すると
「新しい座組を活用した日販の出版社に対する条件改定」
が隠れた目的ではないか?と推測したが、その後出てきた記事や、関係各所からの情報では、どうもそれは偶然の産物のようであった。
そもそもこのBCは、以下の記事にあるように、CCCから紀伊國屋書店に持ちかけたことが発端であった。
つまりそもそもの目的は
「書店の粗利を増やす(現行20数%→30%へ)ことがメイン」
(記事では出版業界を川下から改革する、とされている)
出版業界全体の売上の減少、返品率の高止まりや物流経費の高騰、運送業2024年問題等での取次業の業績悪化、相次ぐ書店の閉店等、出版社の倒産等、閉塞感漂う出版業界の改革は以前から叫ばれているものの、一向に変わる気配は見られない。
そんな中で川下と呼ばれる小売(つまり書店)が主導して、出版業界を変えよう、という動きである。
しかし、BCには日販も出資している(全体の30%)。この理由としては日販とCCCは以前から強い関係性があったし、下記の記事では、日販の奥村社長はCCCを「友好的なビジネスパートナー」と評している。
また、10月末に開かれたBCの出版社への説明会では、BCは出版社から仕入れた商品の書店への配送業務と精算業務を日販に委託する、と資料上に掲載している。(この資料は出席者から見せてもらったもので、ここでの掲載は控えます)
ここから読み取れることは、CCCが紀伊國屋書店に川下主導の出版業界の変革を持ち掛け、一定の方向性を打ち出した後(この部分は推測の域を出ない)、課題となる物流と、対になるお金の精算の部分を日販に委託するためにBCに日販を引き込んだ、或いはその動きを察知した日販がそう提案し、座組に加わったのかのどちらかであろう。(信頼できる筋からは、後から日販がこの座組に入っていった、との情報をもらってはいるが)
半年の情報で読み取れるBC設立の流れと日販の苦悩
これらの情報を総合してBCという会社がどのような流れで出来てきたのかをまとめると
①CCCが紀伊國屋書店に「川下からの出版業界改革」を提案。
②改革すべきポイントの整理と、改革に向かた具体案(BC設立)を検討
③その動きを察知したCCCのビジネスパートナーである日販がBC事業に参画
④BCがカットオーバー
⑤CCCの持つTSUTAYAフランチャイズ事業を日販とCCCの合弁会社MPDに譲渡し、新たにカルチャーエクスペリエンス(以下CX)を設立
⑥BCが有力出版社約200社に事業内容の説明会を開催
という形になる。
こう見るとこの一連の流れの発端はCCCであることが分かるのだが、なぜCCCは川下からの出版改革を目指したのかについては、今回の主題から離れるため別の機会に。
前出の東洋経済オンラインの記事(前出はどちらも東洋経済オンラインの記事でライターも一緒なのだが)、日販奥村社長の記事では6杯目執筆時にはわからなかった、日販としての取次の今後の位置づけがある程度伺える。
6杯目では
*日販が出版社との条件改定を首尾よく進めるために紀伊國屋とCCCをうまく使った
*BCをメインにしていくと、それ以外の日販帳合の書店もこちらに参画させなければ、ダブルスタンダードとなり、日販の業務効率が著しく落ちる。因って帳合書店のBC参画は必須であろう
と書いたのだが、東洋経済の記事で日販の奥村社長は「(日販がコンビニだけでなく)書店ルートの配送もやめる」という風説も立っているようだが、やめるわけがない。そんなことは絶対しないし、それを守るためにコンビニからの撤退を決断した。」(東洋経済オンライン記事引用)
と発言している。
これを考えると、やはり日販にとってBC設立は想定していなかった大きな変化であり、それを前提に事業再編を図るわけではなかったでのでは、と推察する。BC設立のリリースが出てから日販の考えが分からずにいたので、いろいろな推測をしてみたが、BC設立の余波で、取次の3つの機能である
①物流
②金融(書店と出版社の間での精算等)
③情報(マーケティングやマーチャンダイズ、小売チャネルの売上支援等)
のうち、BCへの参画書店については③の機能はBCが持つことになるため、6杯目で指摘した業務効率の低下は免れないであろう。そうなると今まで以上に送料のマージンを上げ、且つ返品を著しく下げることと、同社での事業収益の拡大及び不採算部門の縮小は必須になってくる。日販としては悩ましい選択を迫られているようにも感じる。
残されたプレーヤーの反応は?
さて、こう見ていくと6杯目の予測はまず起点が異なっているため、大外れであったと言える。もし日販で私の予測通りの絵を描いた人が居たのなら本当に尊敬に値するところだったのだが。
おおよそBCの成り立ちと向かう先が見えてきているのだが、あくまでそれは当事者の話であり、このスキームの他の関係者の反応はまだ良くわかっていない。それは今後参画が期待される他の書店であり、且つ、この座組が行われる際のカギを握る出版社の反応だ。
まず書店についてだが、東洋経済オンラインの日販の記事にも、紀伊國屋の記事にもそれについては触れている。日販奥村社長は「TSUTAYAがほかの書店など、いろんな立場の人たちから毛嫌いされているのも知っている」(東洋経済オンライン引用)とした上で「もちろんCCC以外の書店にも、一緒に持続的な形をつくっていくため、今後もさまざまな施策を提案する。誠心誠意お付き合いさせてもらいたい。」(東洋経済オンライン引用)とあり、他の書店の参画を期待しながらも、反面それが厳しいことも覚悟されているようだ。奥村社長の発言は前半の部分はBCに出資している立場としての発言、後半の部分はBCではなく、日販そのものの発言としてとらえることもできよう。
一方、紀伊國屋書店高井会長は「トーハン系列の書店は、そもそも参加が難しいだろう。こういった部分は仕方ないんじゃないの。」とトーハン帳合の書店の参画まではあまり期待できないとしつつも、「売上高の上昇や返品率の抑制によって、(現状は2割程度の)粗利率3割が見えてきたら雪崩を打ちますよ。」(東洋経済オンライン引用)と自信があるようにも読み取れる。
では、このようなケースの場合、多くの書店はどう反応、対応するのだろうか?あくまで一例に過ぎないが、過去の私の経験での出来事を記述します。
かつて私が当時所属していた会社の役割として、hontoカードをDNPと資本関係のない書店への普及を目指し活動していた際、書店側は概ね「総論賛成、各論反対」であった。結果そうした書店でhontoカードに加盟した書店は1書店のみに留まった。原因はどこにあったのか、と言えば、DNPが丸善CHIホールディングスという書店運営会社を100%子会社にしているからに他ならない。要は同業他社である丸善CHIと同じ(場合によっては下位の)仕組みで動くことへの違和感である。多分DNPが丸善CHIを持たずに独自のサービスとしてこれを進めていた場合、多少違った結果になったのではないか、と考えている。
BCの場合も同様以上にハードルが高い可能性がある。これは仕入の数量をBCのAIで予測することにより、他の書店にもこれと同じスキームがが適用され、換言すれば自社の仕入のボトルネックを他書店が運営する会社に押さえられることになり、それへの不安感はぬぐえないだろう。BCが日販だけで運営するのならば多少話は違うのかも知れないが、その場合は間違いなくトーハン帳合の書店は参画しづらくなる。
もう一つはAIで仕入部数を予測することへの不安感かも知れない。
出版社はどうかと言うと、正直まだよくわからない。具体的にBCから出されている条件が見えないからだ。出版社から見れば返品が少なくなることは望ましいのだが、反面出荷数が絞られることは痛しかゆしの部分がある。その上で現在の取引条件よりも粗利率が下がることが想定される。下がった分の粗利率を補える粗利額を確保できるのか?(つまりこれは今まで以上に本が売れる状態を書店で作り出せるのか?という疑問)。それを考えればまだBCと出版社の間での協議等が行われるであろうし、それを見守りつつ、弊社のような小さな出版社はどうすれば良いのかは、良い方向に行くような仮説を立て、BCからお声が掛かるまでになるような実績も残すことをまず先にしなければならないだろう。
終わりに
今回は6杯目の答え合わせを中心に若干ではあるが推察も加えた。書こうと思えばまだ書ける部分もあるのだが、これ以上の分析はあまり意味がなく、そもそもこれを取り上げた主旨は、今後の出版業界のあるべき姿を見出すための現状分析でしかない。
川下からの業界変革には意味があると思うし、きっかけができたことは出版業界として望ましい事である。それも含めて、これから持続可能で、且つ読者を大切にし、読者含めた関係者がWin-Winになるような、まだ出てきていないキーワードや仕組みを提唱することを行いたい。
9杯目 BOWMORE 12年
コミックス「美味しんぼ」で紹介されてから国内での人気が高まったシングルモルトスコッチウィスキー。
映画「容疑者Xの献身」で、主人公湯川学(福山雅治)が、大学時代の友人、石神哲哉(堤真一)のアパートで17年ぶりに再会した際に、手土産として持って行った。二人がロックで呑む姿、「あぁ、美味い」というセリフに負け、その夜すぐに酒屋に買いに行ってしまった。ストレートで呑むには荒いが、ロックは本当においしい。