本屋発注百景vol.17 サンブックス浜田山
精力的にフェアを開催。知的好奇心を刺激する、人文書に強いまちの本屋
前回は郊外のイオンモールの中にある大型書店を取り上げたが、今回は街場に戻る。人文書の良いところのフェアを開催、しっかりと売り上げているサンブックス浜田山である。
SNSで「平凡社ライブラリー全点フェア」や「白水社 文庫クセジュ ほぼ全点フェア」といったフェアを見るたびに、感嘆したものである。しかも、SNSでは売上実績も端的だが公開していて、よく売れているのも分かり、祖師ヶ谷大蔵の弊店でも真似しようかと本気で考えているところである。
とはいえ、サンブックス浜田山の良さはフェアだけではない。雑誌や文庫、コミック、学習参考書など日常遣いのお客さんに向けた棚もちゃんとあり、それでいながら人文書を中心とした棚もある。フェアも入口すぐのところだけでなく、いくつか違うフェアが店内に散りばめられるように展開されているのも魅力だ。
棚の上には、「社会人力をUPさせる棚」や「売れて欲しい本と新刊」など独自の手書きPOPが並び、どんな本があるのかと棚をじっくりと検分したくなる。
本好きとしてこんな本屋が最寄り駅の近くにあったら言うことはない。そんな良き街の本屋がサンブックス浜田山なのだ。
今回、お話を伺ったのは店長の木村晃さん。高校時代から同店で働かれてきた方である。街の本屋の日常を聞いてみた。
街の本屋の一日
――朝は早いんですか?
木村 店に来るのは9時少し前ですね。オープンの10時を超えて、10時半頃まで、届いていた段ボール箱を開け、雑誌の付録詰めも行います。
――「本来、出版社が付けるべきであろう雑誌の付録を書店員が行うことはどうなんだ」と問題※になりましたが、実際はどうなんでしょうか?
木村 近頃は雑誌の配本自体が少ないのでそんなに時間は取りませんね。よくないことですけど。昔は雑誌を見に来るお客さんが多かった感じがありましたけどいまはそういうことがないので、雑誌の配本がどんどん減らされている感じです。
――本屋発注百景vol.6 誠品生活日本橋※でも伺いましたが取次からの配本はやはり少なくなっているのですね。さて、10時半以降は何をしているのでしょう?
木村 書籍の新刊も段ボール箱から出してとりあえず文庫や書籍といったざっくりとした分け方で棚の前に積みます。レジを見つつ、時間のあるときに棚に本を入れていきます。午前中のうちに前日の客注商品や補充が必要な本を出版社に電話して注文しますね。特に客注についてはできるだけ早く処理するようにしています。
――在庫データの登録はどうしていますか?
木村 在庫データはトーハンのサイトTONETS-Vに自動で登録されているのでしなくて良いんです。ですが、八木書店など神田村から仕入れたときは登録が必要で、毎週金曜日は神田村で本を仕入れてきて、夕方頃に店に戻り在庫を登録します。
WEBPOS※というサービスですね。TONETS-Vとも連携できるので店のデータがWEBPOSからすべて見られるようになっています。
――お昼休みはどうしていますか?
木村 アルバイトが12時くらいから昼休みなので、その間はひとりでレジに立ちつつ品出しの続きをしています。交代で13時からお昼休みですね。
――お昼ごはんはやはりお弁当?
木村 いやいや。近所の定食屋が多いですね。王将やラーメン屋などです。ずっと店にいるのでお昼は外に出てリフレッシュしたいんですよね。
――午後の動きはどうでしょうか。
木村 品出しの続きをしつつ、返品作業もしていきます。毎週水曜と土曜はこのタイミングで近所の美容院などにスクーターで配達します。
――上がりはいつですか?
木村 火曜・水曜は18時ですが、それ以外の日は21時ですね。アルバイトは17時までなので、そのあとは一人でレジに立ちつつ品出しや棚のメンテナンスなどの作業をしています。
――大変ですね。
木村 商売人はそんなものですよ。週休2日なんてなんのことかわからないです(笑)
浜田山の街の本屋に聞く「発注、どうしてる?」
――近刊情報はどこから
木村 トーハンのen CONTACTからですね。すべてではないですが主だったものは事前予約できるのはこちらからしています。
――すべてen CONTACTなんですか?
木村 いやいや。うちは元々、人文系はダイレクトメールかFAXを送ってもらって直接出版社に返信して注文しています。en CONTACTには人文系はほとんど入っていませんし、人文系の出版社は見計らいがまったくないので直接交渉します。10何年も前のことですが、みすず書房には断られたこともあります。
――さすが厳しいですね。
木村 そのあと色々なツテで知り合いになってお話して、フェアをしたいみたいな話をして実現しました。いまは仲良いんですけどね。
――補充注文はどうですか?
木村 売上データを見ながら夕方のタイミングで注文しています。使っているのはs-book.netやBookインタラクティブ、ウェブまるこなどの各版元共同受注サイトですね。最近はスリップがない本も多いので、データを見ないといつの間にか売れている、ということもあります。注意しないといけないところですね。
フェアは出版社に提案して仕掛け、売れ行きをXで配信。
――フェアについてお伺いします。いつ頃から始めたのでしょうか?
木村 創元社の「知の再発見」双書や平凡社ライブラリーフェアから始めました。たしか平成16年頃ですね。別冊太陽フェアもしましたし、新潮文庫の100冊のラインナップに納得がいかなくなったので自分で100冊選んでフェアにするといったこともしました。出版社単体でお願いしたのは藤原書店がはじめでしたね。そのときは1ヶ月で100冊程度売りました。
――藤原書店の本は高いのにすごいですね。
木村 そうですね。単価の高い本が売れたときの喜びは大きいですね。
――商売人としての喜びですね。
木村 特に好評だったのが品切本フェアでした。岩波書店や平凡社、晶文社などで行いました。
――平凡社の品切本フェアはSNSで見て面白そうだなと思った記憶があります。
木村 僅少本でなくて普通では流通しない品切本を「汚れててもいいので出してください」ってお願いしましたね。
――直接出版社に提案するんですか?
木村 お願いして、リストをもらってって感じでしたね。一ヶ月から2ヶ月くらい開催しました。
――好評でしたか?
木村 品切本フェアで一番売れたのは晶文社でした。実売で64%が売れました。370点入れて240点売れました。
――おー、売れましたね。
木村 平凡社でも150冊くらい売れました。岩波書店は90冊くらい。
――フェアの企画はお店から提案するんですか?
木村 いま開催中の求龍堂フェアは、求龍堂にお勤めの方の親戚が浜田山にたまたまいたのでそこからご提案いただいた感じです。ああいうがっつりした芸術書のフェアってやったことがなかったからお客さんからの反応が良かったのかな、と。自分で企画するとしたら今回みたいなことはできなかったので、うちのお客さんにいろいろな本を見せることが出来てよかったです。
――ほかの企画はどうですか?
木村 基本的にはこちらから提案しますね。知っていれば直接連絡しますし、知らなければ出版社のサイトから問合せします。
――やれるものですね。
木村 やる気になれば交渉次第ですよ(笑)
――掛率も交渉するんですか?
木村 それは決まっているものなのでしませんよ。買い切りでやるものでもないですし。
――支払日はどうですか?
木村 トーハンを通してやる場合は3延※で交渉します。八木書店に関しても3ヶ月くらいですね。返品して精算して売れただけ請求来るって感じですね。
BookCellarでこの本発注しました
――BookCellarで発注して印象的だった本を教えてください。
木村 BookCellarではトランスビュー取引代行の出版社のものしか頼んでいませんが、『14歳からの哲学』(トランスビュー)は売れますね。それと『月曜か火曜』(エトセトラブックス)が動きますね。はじめこそ平積みしましたが、最近は棚挿しなのに毎週1冊は動きます。目立たせていないのに不思議ですが。
――『鬱の本』(点滅社)はどうですか?
木村 置けば売れる本です。ずっと売れ続けていますね。毎週ってほどじゃないですけど置いておけば売れるのでずっと並べておきたい本ですね。そういう本はありがたいですよね。いまの本は最初にぼーんて売れてそのあと売れない本っていっぱいあるじゃないですか。でも棚に置いておいてちゃんと回転する本ってすごいありがたいです。
イベント情報
―――最後に、お知らせしたいイベントなどありましたらお知らせください。
木村 現在予定してるのは12月初旬から河出書房新社の僅少本フェアを開催予定です。
メインのフェア台は1月いっぱいまで日記やカレンダーの年度商品で占拠されしまいますが、2月初旬からは出版社フェアなど独自のフェアを定期的にやっていきます。
―――木村さん、ありがとうございました! フェアの開催状況は、お店のXをチェックしてみてください。
サンブックス浜田山で仕入れた本・売れた本
・『14歳からの哲学』(トランスビュー)
・『月曜か火曜』(エトセトラブックス)
・『鬱の本』(点滅社)
BookCellarをご利用いただくと、サンブックス浜田山・木村さんが記事内にて紹介した本を仕入れることができます。
注文書はこちら。
「本屋発注百景」とは
本屋さんはどんなふうに仕入れを行い、お店を運営しているのか。様々なお店の「発注」にクローズアップして取材する月イチ連載企画です。
過去の連載もどうぞチェックしてみてください。
https://note.com/bookcellar/m/m8ef6b6ddeb0b
取材日:2024年10月31日
取材・文・写真 和氣正幸