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【本088】『とわの庭』

著者:小川糸 出版社:新潮文庫

盲目のとわにとって、お母さんが全て。お母さんが言葉を教え、お母さんが説明をすることで、とわは世界を作っていきます。そんなお母さんが突然、とわの前から姿を消してしまいます...ひとりぼっちのとわ。壮絶な孤独のなかを生き抜き、やがて、近所の人に助けてもらいます。

前半は、とわとお母さんの関係が苦しくて読むのがかなり辛かった。けっこう飛ばし飛ばしで読んでしまいました。学校にも行かず、外の世界を知らないとわにとって、お母さんが全て。その世界が消えることへの恐怖と戦いながらも、母親の愛を探すとわの語りに、いたたまれない気持ちになりました。

そして、後半。とわが、盲導犬のジョイや施設の人、近所の人たちに助けられ、外の世界に踏み出し、成長をしていく姿が描かれています。目が見えないとわだけど、多くの出会い、四季のにおい、本等を通じて、闇に光がさし、世界が彩りに満ち溢れていきます。

特に「におい」の描写が素敵で、人との関係、四季の移り変わり、「生きる」そのものを、においで描いています。

「年が明けると、少しずつ、空気中に紛れる香りのカプセルが増えてくる。(略)そうすると、自分の世界がまた一段と豊かになるのを実感する。」

とわの世界は、とわが作っていく。目がみえなくても、孤独や束縛から解放された、とわの世界は賑やかで鮮やかです。四半世紀の孤独な時をこえ、成長していくとわを、とても美しく感じました。

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