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フランスのウェブトゥーン事情の備忘録

皆さん、こんにちは! 書肆喫茶moriの店主です!

さいきんlibroさんが書いておられる北米エンタメニュースをチェックしています。

11月25日に公開された上の記事に面白いニュースが載っていたんですよね。
それが米国でマンガやアニメの記事を書いてるDeb Aokiさんによるフランス旅行レポートです。

2024年5月29日から11月4日までパリのポンピドゥー・センターで開催された大規模な展覧会「Bande dessinée (1964 - 2024)」のレポートも大変詳しく紹介されていて、行っていないのに行った気分になるありがたい記事ですが、そのあとのフランスのウェブトゥーン事情に関する記事が興味深い!

フランスのウェブトゥーンについては一時期いろいろ調べていたのですが、さいきんの状況をちゃんとフォローできていませんでした。 
そういう意味で最新の情報を知ることができてとてもありがたい。

ということで今回の記事では、以前に調べたことも含めてフランスのウェブトゥーンについてまとめておこうと思います。
ただしこれはあくまで個人的な備忘録であり、情報の正確性は自信がありません。参考程度にご覧ください。


ONO

この「ONO」。知らないうちにリリースされていたのですが、どうやらフランスで一番のウェブトゥーン・プラットフォームになっているようです。

アプリの情報を見るとリリースは2022年。そして提供元がIzneoと知って、いろいろ合点しました。

フランス語圏のマンガ市場では紙が強いため電子書籍の占有率は数パーセントらしいのですが、そんなフランスで大手の電子書籍プラットフォームがIzneo。
そして以前はIzneo内でウェブトゥーンの配信もしていたのですが、どうやらONOを立ち上げることで電子書籍とウェブトゥーンを分離させたようです。

さて「ONO」。
アプリでは全年齢だけですが、ウェブ版ではR18マンガも掲載されてます。
そしてぱっと見、韓国のマンガが中心で一部中国のマンガもありそうですが、フランス産ウェブトゥーン(Créations françaises)も60作品以上掲載されています!
アクションものやスライス・オブ・ライフ(Tranche de vie)、BLにGLにいろんな作品がありますね!
なかなかフランスのウェブトゥーンってどうなんだろうって思ってたんですが、ちょっと楽しくなってきました。

Webtoon Factory

フランス産ウェブトゥーンと言ってまず思い浮かべるのがこの「Webtoon Factory」。
フランス産ウェブトゥーンを作るぞという熱い思いで、2017年、デュピュイ(Depuis)が立ち上げたプラットフォームです。
ちなみにこの記事(http://animationbusiness.info/archives/15447)を見ると、デュピュイはフランス・ベルギーで売上規模で第3位の大手出版社で、『スマーフ』『ラッキー・ルーク』などの人気作品を送り出した欧州を代表するマンガ出版社だそう。

ざっと見るとオリジナル作品は80作品くらい掲載されているので、やはりフランス産ウェブトゥーンという意味では最多作品数のようですね。
ONOに掲載されていた作品もちらほら見えます。
あと『Yojimbot』や『Les soeurs Grémillet』『Dans les yeux de Lya』といったもともと(たぶん?)紙のバンド・デシネのために制作されたもののウェブトゥーン版も掲載されているのが興味深いところです。ただそんなに更新されていないところを見ると、やはりいろいろ無理があったようですね…。

ちょっと面白いのが『Mechanical Souls』という作品。台湾の作家との共作です。

あと『Unmasked』。2022年のアイズナー賞ウェブコミック部門でノミネートされていました。

とはいえ、ウェブトゥーンに求められる迅速性とフランスのマンガとの気質が真逆すぎて、正直どうなんでしょうね…という思いはしますね。

Delitoon

たぶんフランスのウェブトゥーンプラットフォームでは「Delitoon」が最古参なのではないでしょうか?
2016年にベルギーの大手出版社カステルマン(Casterman)によって立ち上げられました。カステルマンと言えば『タンタンの冒険』です。
しかし2019年に韓国のKidari studioが買収。それまでは実は『ラストマン』のウェブトゥーン版も掲載されていたのですが、いまは完全に韓国の作品ばかりのようです。大人の女性向けコンテンツやBLが中心になっています。

Deb Aokiさんの記事でDelitoonが制作したフランス産ウェブトゥーン『オペラ座の怪人(Le Fantôme de l'Opéra)』に関する興味深い情報が掲載されていました。

ご存じ『オペラ座の怪人』をBLかつオメガバースものに翻案した作品。
Delitoonによって運営されているBLに特化してるっぽいプラットフォーム「Le Bontoon」で掲載されています。
英語版はLezhinUSで掲載されています

Deb Aokiさんの記事では次のようなことが書かれています。
「文化や社会、政治を扱うバンド・デシネに対して韓国のマンガは娯楽」「韓国でウェブトゥーン作家として働くならNBA選手のように素早く創造的にたくさんのコンテンツを生み出す必要がある」「フランス語を韓国語に翻訳できるプロの翻訳者がいない」と数々の問題を抱えながら、なぜDelitoonがフランスのクリエイティブチームを雇用する手間をかけるか。
それは「新しいストーリー、アートスタイル、視点を取り入れるため」。

さいきん韓国のウェブトゥーンは人気作品の焼き直しばかりの量産化でユーザー離れが懸念されるような記事を読みましたが…。

上記の記事にも書かれていた「世界的にウェブトゥーンが定着するためには各国ニーズを意識する必要がある」という、まさしくその事例のひとつなんだろうなぁ、などと思いました。
個人的には各国のマンガ文化の融合が海外マンガをみている楽しみのひとつなので、こうした各国での展開を知ると、ウェブトゥーンもやはり面白い分野だと感じます。

Pocket Comics

comicoのグローバル版マンガアプリです。2022年にフランス語に対応しました。
基本的に日本のcomicoと同じような韓国の女性向けコンテンツばかりのようなのですが、ジャンル名略称が興味深い。
「RomFan」とか(ロマンティック・ファンタジー?)
「Rom de la noblesse」とか(令嬢系ロマンスっていうことでしょうか?)
「RomMod」とか(現代ものロマンス?)
「RomCampus」とか(学園ものロマンス?)

英語圏とかでもそうなんですかね? 
日本だとわざわざ「ロマンス」って入れなかったりもしますが。

Webtoon

ネイバーウェブトゥーンのフランス語版です。たぶん2019年くらいに立ち上がっているはずです…。このあたりあやふや。

日本のLINEマンガに比べると、欧米作家の作品が多い印象です。
Webtoonはそもそも英語版が、現地作家やそれこそアジア・その他地域の作品が多いように思います。ほんとはこのあたりもっと開拓したい…。

※以下2024年12月28日追記※

上記の飯田一史さんの記事には、Ankama運営のAllskreenが紹介されているので追記します。

Allskreen

運営のAnkamaといえば、日本でアニメ化もされたトニー・ヴァレントラディアンを刊行している出版社です。そしてマンガ出版社であると同時にアニメ化もされたMMORPGWakfuの運営会社でもあります(ちなみにゲームの日本語対応は終了してしまったが、アニメはNetflixで日本語字幕版を視聴できます)。若年向けのコンテンツが強い会社です。
Allskreenを見てみると、MANGA形式で描かれていたラディアンもウェブトゥーン化されているし、日本語で邦訳されているものとしてはマリキのブログも掲載されています。Wakfuのマンガ版や、もともと紙の単行本として描き下ろされた作品もウェブトゥーン化されて掲載されているようです。
加えて「Allskreen限定(Exclusivité Allskreen)」作品も掲載されており、どうやらオリジナルのウェブトゥーン作品のようです。
Ankama社の作品自体が子どもや10代を対象とした作品が多く、ウェブトゥーンが対象読者と近しいことから、かなり力を入れているように思います。

~*~

さてさてフランスのウェブトゥーン事情。いかがでしたでしょうか。

フランスでウェブトゥーンというと、2021年にデルクール(Delcourt)が立ち上げたVerytoonが2023年には閉鎖されたり、2022年に参入したカカオピッコマが2024年に撤退したりと、悲観的なニュースが多かった印象だったのですが、なにげにいろいろあるんだなという思いを新たにしました。

もちろんDeb Aokiさんの記事にあるように米国で韓国ウェブトゥーンの単行本が『俺だけレベルアップな件』以外でもけっこう人気を得ているのに対して、フランスではあまり単行本化の流れは来ていないし、ウェブトゥーン自体を読む人がどれほど多いのかはよくわかりません。しかし個人的にはバンド・デシネ文化に興味もあるし、ウェブトゥーン自体も面白いメディアだと思いますので、おいおい追っかけていこうかなと思います。

とはいえ、ウェブトゥーンは日本語に翻訳されているのだけでもたくさんあるので、なかなか他国版まで見切れないというのが正直なところ。
その一方、韓国(と一部中国)の作品ばかりが注目されて、他国のウェブトゥーン作品があまり日本には入ってきていないようにも思うので(たまに、もどかしい思いも感じます…)気になった作品は読んでいこうかなと思っています!


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