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小説の取材をするということ(小説編集者の「先生には言えない話」①)

編集者の大事な仕事として、取材がある。

取材のオファーをし、当日先生をアテンドする。先生ご自身もメモを取るが、僕の方でも要点をまとめて後でお渡しする。
これが結構楽しい。調香師、元自衛隊員、外科医、普段会えない珍しい職業の人と会えるのだ。


相手からきいたちょっとした言葉からストーリーが膨らんだり、取材先で見た小道具などを描写することで作品のリアリティーが増したりするから、取材は重要だ。

ある時、小学生を主人公にした作品のために、子ども関係の施設を取材したことがある。有意義な取材だったが、あまり子ども自身に話をきくことができず、物足りないと思っていた。
そうしたら取材の中で、「子どもと遊ぶ一日ボランティアも募集しています」という話が出た。
先生は忙しかったので、僕が行ってフィードバックすることにした。現代の子どものリアルが分かるに違いない。


大縄飛び、ドッジボール、ボードゲーム、朝から子どもたちと遊ぶ。個人情報に留意しつつ、どんなことを子どもは好むのか、どんな口癖があるのかなどを記憶していく。
そしてミニサッカーが始まった。男子たちが試合をしている横で、10歳くらいの女の子が壁へボールを蹴っていた。なにやら困っている様子だ。


「ボールを蹴ると地面を転がっていってしまう。どうやったらボールを浮かせられるか教えて」とのこと。


サッカー経験は体育のみ。しかし論理で考えると、ボールの下からすくい上げるように足を振り抜けば浮くはずだ。イージーな質問だ。
丁寧に説明すると、目をキラキラさせてうなずいてくれた。
しかし女の子が何度もチャレンジするが、ボールは転がっていくばかり。
「ね、見本をみせて」
何てことはない。イージーなお願いだ。

しかし蹴ってみると、ボールは地面を転がっていった。
その時の女の子の目は、忘れられない。「失望」という文字が、目にハッキリと刻まれていた。
あっ、子どもでもこんな目をするんだ……

先生へ渡す取材メモにはこう書いておいた。
「子どもは口だけの大人が嫌いなようです」

もちろん小説ではあまり生かされなかった。


(第一回おわり)※第二回更新は3月1日です。


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