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ホラー・SF小説集

21
ホラー・SFに分類した小説をまとめています。
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記事一覧

聖者の揺り籠(後編)

■前編はこちらから■後編 母が死んだとき、世界はまだ混沌に包まれてはいなかった。  葬儀…

水瀬 文祐
13日前
99

聖者の揺り籠(前編)

 エリス・如月は殺すな。生け捕りにしろ。  教官は命令の最後にそう付け加えた。それを聞い…

水瀬 文祐
2週間前
120

ぜい肉くん

 まず驚いたのが、我が家のドアチャイムが鳴ったということだ。思わずぜい肉だらけの体を揺す…

水瀬 文祐
2週間前
123

エクストラクト

 砂塵の向こうに霞む街が見える。  男は立ち止まっているとずぶずぶとブーツが沈んでいく流…

水瀬 文祐
3週間前
139

グルーブ・ドレジング

 第三次世界大戦は阻止された。だがそれは、けっして人類が望んだ方法によってではなかった。…

水瀬 文祐
1か月前
127

アイ、シオン

 ある日ぱたりと小説が書けなくなった。  山荘に籠って、食事の時に妻と会話する以外、人と…

水瀬 文祐
1か月前
130

チェリーブロッサム・ブリザード

 その店には生き物であれば、何でも揃っていた。蜘蛛でも、トカゲでも、猫でも虎でも。そして、人間であろうとも。ただし、すべては現身に過ぎなかった。  現身とは、本物そっくりに制作された人形である。ただし高度な機械技術で根幹を制作されており、動きは本物と遜色ない。精度の高い人工知能も搭載されているため、その動物らしく振舞うこともできる。猫であれば猫らしく。虎であれば虎らしく。そして人間であれば、人間らしく。  店の中に一人で踏み込んだ刑事、蛍は店の棚にずらっと並んだ現身を横目に、

天使の隠れ家

 当たり前に明日がくる。そう信じて、いや、きっとそんなこと考えもせず、僕は眠りについた。…

水瀬 文祐
1か月前
156

陽だまりに月

 ある日突然太陽が黒化した。熱は変わらず放射し続けるものの、光を放たなくなった。つまり、…

水瀬 文祐
1か月前
112

パッチワーク

 世界が滅亡するスイッチが作れたらどんなにいいだろう、と慎吾は高校生にもなってそんなくだ…

水瀬 文祐
1か月前
126

再録:「回収者」

■前書き今回の短編は1月14日に公開した作品を再録したものになります。 ただ再録するだけで…

水瀬 文祐
2か月前
85

第一次家庭大戦

 昨晩夫と大喧嘩をした。結婚して十年。これまでにないような激戦だった。第一次世界大戦と言…

水瀬 文祐
2か月前
150

雨が住む

著:水瀬 文祐 文字数約5,000字  雨の中には、雨旅(うりょ)がいるという。  都心…

水瀬 文祐
4か月前
24

重ね夢

著:水瀬 文祐 約6000字  隙間風が吹いている。行燈の火が揺らめき、女の影が踊るように揺れる。  行燈は女の後ろに下げられ、女の顔は黒い影となって塗りこめられていた。隣に座って、酌をしていたときに嗅いだ金木犀のような香り、それしか覚えていない。  どんな顔をしていただろうか、啓之進は自分の顔形すら確かめるように火照った頬をつるりと撫でた。  つい飲みすぎた。同僚の同心の石塚が女、それも美しい遊女の前でほめそやすものだから、いい気分になって勧められるままに杯を重ねてしまっ