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一読の夢~短編小説集~

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ジャンル問わず、全短編をまとめたものです。 更新は不定期。小説を読みたい方はぜひ読んでみてください。
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2024年2月の記事一覧

青い花と花粉症男

 世界から花粉症が消えた。  人は花粉という自然の猛威をある日唐突に克服し、花粉が鼻先を…

水瀬 文祐
3か月前
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風荒ぶる、子ども喜ぶ、親風邪をひく

■風邪のひき初め季節の変わり目など、よく風邪をひく身ではありますが、今年最初の風邪は随…

水瀬 文祐
3か月前
95

白い気球と追憶のペン

■My note!私は基本メモをとるとき、スマホのメモアプリを使います。 携帯性と利便性で考え…

水瀬 文祐
3か月前
111

雪の白、湯に火照る朱の頬

■日記今日は家族全員が休みということで、近場の温泉に行くことに。 温泉では子どもたちが男…

水瀬 文祐
3か月前
95

王者の凱旋

■備忘録的な今日こそは長編を!、と意気込んだのも束の間。 子どもたちの出かけたい攻勢に、…

水瀬 文祐
3か月前
81

鉛の骨

■前書き今日は人間ドックに行って参りました。 小雪が降る中、検査着は寒く、すっかり冷えて…

水瀬 文祐
3か月前
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荒野の果て、記憶の果て

■荒野の果て【掌編小説】 時計は八時を回っていた。血の気が引くのと同時に、体は瞬時に覚醒して隅々まで血を巡らせ、筋肉を奮わせて動き出していた。  ベッドから跳ね起きて寝室を飛び出すと、カーテンが閉じられ、微かな陽光だけが漏れている薄暗いリビングに向かって叫んだ。 「寝坊! めしは!」  待っても返事がないことに苛立ちが募り、壁を叩いて寝室に戻ると、スーツに着替えた。濃紺のニットタイを選びかけて手を止め、その隣の紫紺のシルクのタイに手を伸ばした。  ネクタイを結びながら廊下に

水鏡

 妻が引き籠った。冷たい水の中だ。  これは比喩ではない。ある朝僕が起きてくると、テーブ…

水瀬 文祐
4か月前
101

発券係

 鈴木はⅩ市に引っ越した。  アパートの大家に引っ越しの挨拶で菓子折りを持っていくと、最…

水瀬 文祐
4か月前
84

 宮本くんが鳥になった。  国語の時間中、何かむぐむぐ言っていたかと思うと、突然手をばた…

水瀬 文祐
4か月前
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ドラゴン・サーカス(後編)

■前・中編はこちらのリンクからどうぞ■以下(後編)本編です エドゥアルトの申し出に、テッ…

水瀬 文祐
4か月前
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ドラゴン・サーカス(中編)

■前編未読の方はこちらからどうぞ 裏口の前に立ったテッテはお手上げだ、と言わんばかりに額…

水瀬 文祐
4か月前
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ドラゴン・サーカス(前編)

 ――ねえ、ガルアン。  少年はベッドの上に腰かけ、窓から覗く雲一つない夜空を見上げてい…

水瀬 文祐
4か月前
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朱毬

 僕が燃える。  僕は黒いスーツの大人の群れにまじって、大理石の壁に囲まれた炉を眺めていた。大人たちはみな鬱々とした表情で、すすり泣いている人もいた。従姉の瞳ねえさんは兎のように目を真っ赤に腫らして、唇を噛み締めていた。僕が声をかけても、固く炉を凝視したままで、振り返ってはくれなかった。  やがて大人たちは控室に戻り、食事が振舞われると、何人かの男たちが煙草を吸うために外へと出た。僕もそれについていき、自動ドアから外に出る。  黒い漆塗りのようにつやつやとした外壁に差し込まれ