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日常系・現代物小説集

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何気ない日常を描いたもの、現代を舞台にした小説をまとめています。
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#短編

菩提樹の下で

 胃潰瘍で数日間入院することになった。  胃の痛みなどはほとんどなく、自覚症状としては胃…

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ゆうぐれあさひ~after story~

■これまでの話はこちら■本編 家に帰ると、久しぶりに書置きがされてあった。母からだ。  …

水瀬 文祐
11日前
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月を捨てる

今回の小説は下記のとおり、クロサキナオさんの企画に則って書いたものになります。 6月の誕生…

水瀬 文祐
13日前
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借物の外套

 私は本屋のアルバイトだった。しがない本屋のしがない学生アルバイト。  大学でも地味でぱ…

水瀬 文祐
2週間前
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ポートレート

 笛が鳴る。  彼女の手が、足が躍動して、一迅のオレンジの風のように走り抜けていく。その…

水瀬 文祐
4週間前
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ある日の夢~海水浴~

■まえがき今回の短編はタイトルの通り、ある日見た私の夢を元にした小説です。 以前アップし…

水瀬 文祐
1か月前
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ゆうぐれあさひ~SIDEゲーテさん~

■前回のお話はこちら■本編 書店員の朝は早い。十時の開店に備えて、それまでにある程度の新刊を店に並べておかなければならないからだ。  正社員で朝の時間帯の責任者である僕は、出勤すると店舗裏手にあるスタッフ用の通用口の警備を解除し、鍵を開けて中に入る。このとき大体七時半頃だ。  ユニフォームに袖を通し、売上管理用の端末を立ち上げ、各種システムの電源を入れてスタンバイにすると、売り場に出る。  その日入荷の商品が風除室のコンテナに山積みされているので、それを書籍と雑誌に分けて、書

麻薬読書者

 男は後ろをやけに気にしながら歩き、ある小路の入り口に立つと、殊更に警戒心を剝き出しにし…

水瀬 文祐
1か月前
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スパイ・オア・ストーリーテラー

 病室の窓から外を眺める。青空に無数の魚影のような雲が泳いでいる。  午後のロードショー…

水瀬 文祐
1か月前
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空色のダイヤモンド

 世界には空に穴の空く場所があって、その穴の中には空色をしたダイヤモンドが眠っている。 …

水瀬 文祐
1か月前
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波間に揺れる

 波打ち際に貝殻が転がっていた。押し寄せては引く波に弄ばれ、ころころ、ころころと転がった…

水瀬 文祐
1か月前
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白露に映るものは

 顧問の黒田しづねが文芸部の部室を覗き込むと、鷺橋美織だけがいて、彼女は机や椅子を雑巾で…

水瀬 文祐
1か月前
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カメリア~紅蓮~

■前回までのお話はこちら■本編「椿、着替え終わったか」  ノックもせずに扉が開けられ、そ…

水瀬 文祐
1か月前
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写真小説家~小説家の追憶~

■前回までのお話はこちら■本編 そのホールは古びていた。あちこちの壁に雨だれが見られたし、床のカーペットはすり減って薄くなっていた。扉の金具には錆が目立ったし、照明もどことなく薄暗い。だが、そんな雰囲気を含めて、私はそこに懐かしさを感じずにはいられなかった。  私が子どもの頃過ごした街にも、こんなホールがあって、そこでは旬の過ぎた映画を流したり、幼稚園児の頃にはそこで歌の発表会なども行った。ある年齢までは生活の隣に携わっていたようなホールだったが、中学生くらいになると、映画を