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【025】豊かな老後という幻想

想像してみてください。

朝目を覚ますと衣類やチラシが散乱したほこりっぽい6畳一間の部屋を映し出す。体が重く、思うように動けない。15分かけてようやくシミで汚れた布団から起き上がり、顔を洗う。鍋からよそった昨日の残りのご飯を少し食べ、たくさんの薬を飲む。持病があるため薬は欠かせない。しかし、薬代が高く頻繁には病院にかかれないため、もらった薬を半分にして飲んでいる。朝食のあと着替えると、自宅近くにある公園に向かう。そこのベンチで一日を過ごす。目の前を若い学生や子ども連れの家族が通り過ぎていく。誰にも話しかけられることはない。子どもはおらず、配偶者も数年前に他界した。親族とも連絡は取っておらず、今どこにいるのかさえわからない。夕方になると帰宅し、買い置きしておいた安い米と見切り品の惣菜一品で夕食を済ます。たまにできる贅沢は、同じく見切り品の傷んだカットフルーツを食べることくらいだ。節約のため電気はつけず、テレビの明かりだけ。先月、貯金が20万円を切った。年金はもらっているが、十分な額ではない。このままいけばあと数か月で底をつくだろう。その先どうすればいいかは、わからない。夜9時になると、早々に布団に入る。静かな部屋に、時計の秒針を刻む音が響く。ときどき「早く迎えにきてくれよ」と思う。そして、また眠りにつく。

藤田孝典. 下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.168-175). Kindle 版. 「生活の苦しさから万引きを犯す老人」「医療費を払えないがために市販の薬で痛みを誤魔化す老人」

先日私が読んだ「下流老人」という本の一説となります。

これは、ごく一部の生活困難者の話ではありません。サラリーマンや、公務員のような「普通の人」ですら、このこのような「老後の貧困」に直面することもあるのです。

旅行に行ったり、孫たちと会ったり老後は豊かでゆっくりと時間が流れていくものと思っていましたが、そのような生活は保証されていません。何もしなければ、誰にも看取られることなく最期を迎える可能性すらあるということです。

本書は老後の貧困を「下流老人」と定義し、そうならないための対策を示した本でした。結構暗い内容ではありますが、目を逸らしてはいけない「私たちの問題」であると思い、考えさせられる内容だったので紹介させていただきます!

「下流老人」の定義

「下流老人」の実態

老後の貧困を避けるために


下流老人の定義

この本では2つの定義を示しています。

一つは「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」と定義してます。具体的な金額で示すと東京都であれば月13万円、年収で150万円程度です。

2つ目は、「相対的貧困」という指標です。相対的貧困率とは、統計上の中央値の半分に満たない所得の人を指します。具体的には、等価可処分所得の中央値である244万円の半分122万円相当の人です。

現在の日本では本書の定義する「下流」に該当する高齢者は推定で600万人〜700万人いるとされています。日本の高齢者は3500万人程度ですので、5人に1人は下流化しているのが実態です。さらに現在は20〜30代の若年層の非正規雇用率が上がっているため、私たちが高齢者なることにはさらに下流化する人々が増えるとされています。

下流老人の実態

本書では公務員、会社員であっても下流化のリスクはあると警鐘を鳴らしています。それではどのような経緯で普通の人が下流化してしまうのでしょうか。本書にあった地方銀行で務めた藤原さんを例に挙げます。

藤原さんは地方の大学を卒業後、地方銀行に勤め結婚し娘も一人いて現在は娘も結婚しています。順風満帆に見える生活ですが、50代半ばに変化を迎えます。若年性の認知症を発症し、仕事上のミスが増え、上司からのパワハラも増え、早期退職となりました。職を失う形となりますが、地方銀行で務めており、かつ早期退職割増退職金の制度もあるため、貯金は十分ありました。

しかし、軽度の認知症を発症しているため、浪費の癖もあり貯金は底をついていきました。また、家族との関係も悪化し60歳を迎え離婚する形となりました。このことで、これまで積み上げてきた年金も妻と分割することになり月に12万円の年金生活となりました。その後、家賃3ヶ月滞納し退去を迫られ公園での生活が始まりました。

本人が浪費をしてしまったという点は本人に原因があるとも考えられますが、認知症によるものであり、熟年離婚も普通の私たちの考えられるリスクのかと思います。

下流化のパターン

このような下流化には、幾つかのパターンがあり、そのパターンを認識することで、下流化リスクを低減できると思います。
① 病気や事故による高額な医療費の支払い
② 子どもがワーキングプア(年収200万円以下)や引きこもりで親に寄りかかる
③熟年離婚
④ 認知症でも周りに頼れる家族がいない

上記4つが本書があげる、「下流化」の要因となります。

①については、正しく医療保険に加入していれば解消できる問題ではないかと思います。

②〜④については、正直明確な対策は難しいのではないかと思います。ただ、一つ言えることは、仕事一筋で生活していくことはこれらのリスクを増大するのではいかということです。仕事だけとなり子供の家庭教育の時間が取れなかったり、家庭の時間を取れないことで夫婦間の関係性が悪化したり、終いには身体を壊すことがあるかと思います。本書でも「仕事一筋で生きるなら妻には逃げられるな」と主張しています。(現代では熟年離婚の際、夫が主たる収入を得ていたとしても、年金が折半となる場合が多いためです。)

時間を確保時つつ、将来のための資産も形成することは容易ではないかと思います。より良い老後、そしてより良い最期を迎えらえるよう備えていきたいと思います。

少々暗い内容となりましたが、読んでいただきありがとうございます!

では、また!


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