見出し画像

神々もなんだかんだで大変だ

キリストがこの現代世界に降臨してきて、まず始めに着手したいと思ったのは金儲けであった。彼は「庶民の敵」という菓子を作って道ばたで販売を始めた。それは何の変哲もないもので、小麦粉と砂糖とココアとバターを適当にこねくり回してロケットの形にして焼いただけの、なにやらクッキーらしき怪しき食べ物だったが、卓越したネーミングセンスが人々の心を打ち、彼の商品はまたたく間に大ヒットした。

ロン毛で、顔の彫りがやたら深くて、澄んだ目をした外国人が、道ばたの露店で「庶民の敵」という名の菓子を売っている。これだけでSNS受けは抜群だった。Twitterのトレンドは毎日のように「#今日のキリスト」が並んだ。しかもさすがはキリスト、写真を撮ってくれと頼まれればどんな人間が来ても拒まない。「はっきり言っておくが、今日、お前は私と共に神の国にいる」とかゴソゴソ言いながら菓子を手渡すところもまた風流であった。キリストのビジネスは大成功だった。「庶民の敵」はものすごい売れ行きを見せた。

これを天界で見ていた釈迦は、キリストがスマホを持った女の子たちに囲まれてカッコつけているのを見てうらやましくなり、直ちに降臨して商売を始めた。彼の商品は「ナムル」であった。ただ自分のトレードマーク的文言の「南無」と「ナムル」をかけた非常につまらない、センスの欠片もない洒落であった。

釈迦ナムルは全く売れなかった。当然、大赤字であった。腹を立てた釈迦はキリストの「庶民の敵」を粉々にしようと念力を送った。「庶民の敵」はみな粉々になった。袋の中で無残な粉となった「庶民の敵」を見たキリストは一瞬唖然としたが、すぐに自前の当意即妙を発揮し、粉々になった菓子の写真を撮り「庶民の敵は滅びた。今こそ審判の時はくる。」とTwitterにアップした。そのツイートは万バズまで行き、あまりの立ち回りの上手さに舌を巻いたテレビ局も彼のことを放っておかなかった。「月曜から夜ふかし」でデビューを果たし、キリストは一躍時の人となった。

一方、釈迦はナムル商売の借金で首が回らない状態になっていた。仕方がないので全国各地に祀ってある自分の仏像をことごとく盗み出してこれを売るというとんでもない商売をやり始めた。やがて全国の高名な仏像はすべて闇取引の場に出されてしまい、宝物殿や博物館から本物の仏像の姿は消えてしまった。釈迦は満足だったが、それでも心の中に一抹の罪悪感が残った。自分のことを尊敬してくれる人間のことを侮辱してまで、自分は金儲けをする意味があったのか?自問自答の末、彼はおおいに苦しみ抜き、やはり人間は欲を持つべきではない、とのお得意の結論に至った。彼はますます出世街道をひた走るライバルのキリストの姿を横目で見つつ、しずしずと天界に帰ってゆくのであった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?