文芸コンテスト応募作品「黒い交差点」
ーーー「第一回SHIBUYA的文芸コンテスト」に応募させていただきました!
たった800字の中で、数回足を運んだ記憶があるだけの渋谷を表現するのはとても難しかった。
みごと、落選しました!!(汗)
今日は、応募作品を掲載させていただきます。
タイトルは、「黒い交差点」ーーーー
黒い交差点
ある日のことだった。突然、渋谷のスクランブル交差点の「斜め」が消えてしまったのである。
気づいたのはもちろんわたしだけじゃない。
ほら、あの人も気づいている。あそこにいる、おしゃれな丸眼鏡をかけた女の子。ベレー帽をかぶっている。
それでも、女の子はスマホを見ながら、何事もなかったかのように交差点を「斜め」にわたっていく。他の人たちもそうだ。めいめい時計を見ながら、電話をしながら、お隣と手をつなぎながら、いつもと全く変わらぬ様子で堂々と黒いアスファルトを袈裟斬りにしていく。
パトカーがやってきた。
「警視庁」と書かれた黒い文字の上に、なにやら仰々しい電光掲示板を掲げている。そこには「今日は斜め横断禁止!」という文字が書かれているらしい。
スピーカーから大きな声が流れた。
「えー、今日は斜め横断禁止なんで、皆さま白い横断歩道に従って歩行してクダサイ」
一瞬、空気がふわりと表情を変えた。
交差点を訪れる大勢の人の驚き、とまどい、そして疑問。「なんでなん?」大阪から来たっぽい黒い肌の女の子が独り言を言った。
「さあな。踏まれ過ぎていやになったんやろ。」どこかから答えが聞こえてきた。
誰の声だろう?
警察官が赤い棒をもって降りてきた。みんな首をうなだれて、スマホの画面を見ながら白い正方形の上を歩いていく。
わたしはどの足にも踏まれていない、交差点の中央のまっさらな黒いアスファルトを見つめていた。
いろんな足があったのだろう。コツコツと歩く背の高いハイヒールに踏まれるとき、コイツは痛かったに違いない。受け止めてきたのだ。ここに歩く人々の気持ちを。人々は自分のやり場のない気持ちを、靴の底に込めて、このアスファルトにぶつけてきたのだ。毎日毎日、いろんな人生がこの交差点の上で密かに自分の心を打ち明けて去っていった。
「お前田舎モンだな。」どこかから声が聞こえてきた。
誰の声だろう?
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