事業と一体の人事戦略
スタートアップや新規事業の成長に必須となる、事業と密接な連携を築く人事戦略のフレームワークがまとめられた貴重な本ですね。
私自身も会社を経営しており、人事関連の部署の方から依頼から増えているため手に取りましたが、商談では必ずと言ってよいほど「事業と一体となった人事」というフレーズが出てきます。
この分野をもっと学びたいと思っていた矢先で渡りに船という感じでしたが、特に参考になったのは、そもそもスタートアップ企業はどのような壁に直面し、なぜ人事戦略で解決すべきなのか、という点です。
組織がどのように成長・発展していくかを研究した「グレイナーモデル」というものを紹介されており、「成長と危機」を下記の5段階に分類しています。
それぞれの段階で、CEO・マネージャー・一般の従業員から状況がどう見え、そこで引き起こされる感情と停滞のリスクがまとめられており、暗中模索のスタートアップがぶつかる「壁」を捉える際に有効なフレームワークですね。
企業の人事担当者はもちろん、スタートアップの経営者や事業責任者、協業するビジネスパーソンの方にオススメです。
さらに、事業戦略と一体となった人事戦略フレームである「タレントマネジメントアプローチ」や、戦略の幅を広げるカギを握るミドルマネジメント層の重要性が語られていました。
世界的な人材・組織開発団体であるATD(Association for Talent Development)は、下記の4つのブロックで「組織視点」「個人視点」を整理していると言います。
この本では4つの要素の考え方が詳しく語られており、人事戦略の全体像を理解する上で参考になりました。
(↓下記のWEB労政時報でタレントマネジメントモデルを図解されています)
https://www.rosei.jp/readers/article/83399
また、個人的に印象に残ったのは「ミドルマネジメント層の厚さが戦略の幅を広げる」という点です。
課長・マネージャーは、経営者や部長が意思決定した目標を具現化する戦術やメンバーのマネジメントを担いますが、ここで重要となるのが「翻訳思考」だといいます。
目指すべき目標が数字で伝えられた際、その数字をそのままメンバーに伝えても「・・・(で?)」となってしまいます。
そこでミドルマネジメント層は、メンバーが行動を想起しやすい言葉に変換する必要があります。
私自身もテレビ局や映像制作会社のキャリアの中で「翻訳力に長けた上司」「翻訳する気のない上司」の両方と出会ったことがあり、「翻訳」が上手なマネージャーの元で働いたときは成果と満足感が高く、今も記憶に残っています。
この翻訳思考は、SNSを通したつながりにも生かせる気がしており、「私が前職で取り組んできたことは、御社の業種でいうところのアレに近いでしょうか」というコミュニケーションを心がけています。
(もちろん適当なことは言えないので、事前にリサーチをして準備しています)
数値目標を達成するために、まず自分が相手に合わせて言葉をチューニングする力を鍛えること、そして組織内に戦略の実行確度を高める翻訳力の高いミドルマネジメント層を増やしていくことは、事業と人事の連携に不可欠な視点と言えますね。