「時間がない」から抜け出す
ご相談を受けるプロジェクト数が増え、タイムマネジメントが課題になってきたなかで手に取りましたが、「足りない」と感じることは人の行動をいかに変えてしまうかを理解できる1冊でした。
行動経済学を専門とするムッライナタン教授は、長年の研究から、
「欠乏は、心を占拠する」
と語り、何に注目するか、どうやって比較検討するか、どう決めるか、どう行動するかに影響を与えるといいます。
欠乏は注意を1つに集中させる一方、他のことへの集中力を邪魔するため、いわゆる「上のそら」になりやすくなります。
そして欠乏が最も恐ろしいのは、「処理能力が落ちる」という点です。
「足りない」という状況は心配を生じさせ、人の能力とは関係なく頭が回らなくなります。
自分の持っているものが少なく見えたり感じる「欠乏マインドセット」に一度陥ると、目先の利益を過大評価し、将来の利益をおろそかにする行動をとり、状況をより悪化させてしまうのですね。
では欠乏から抜け出すには「十分な量」が満たされれば解決するかというと、実は多くの人が「欠乏」の状況に自ら戻ってしまうらしいです。
なぜなら、欠乏は「豊かだった期間」に犯したまちがいから生まれているからだといいます。
順調なときの
・先延ばし
・今に集中しすぎ
・あいまいな楽観主義
という行動によって、結果として欠乏という状況が発生しているそうです。
行動経済学を研究するムッライナタン教授によると、欠乏の状態から抜け出すカギは、人の「処理能力」にフォーカスすることだといいます。
時間や資金繰りなどのリソースがギリギリになると、悩む、心配する、手配することにエネルギーを消費してしまいます。
この処理能力の減少が仕事に与える影響を、人は甘く見てしまう傾向があるそうです。
ムダを削り過ぎると、結果として今日の収支を合わせるために、将来にツケを回すことになってしまうのですね。
そこで重要となるのが、著者が「スラック」と呼ぶ「余裕」を意図的に残すことです。
たとえば「時間がない」という場合、少し先のスケジュールに余分な空きをあえて残し、「計画外」の仕事や私事の予定が入ったときに代償なしに移すことができるようにしておきます。
こうすることで、今まで心配したり調整することに費やしていた処理能力を取り戻すことができます。
(私も思い返すと、スケジュールいっぱいに予定を入れようとするクセがあったため、早速「空き」の時間をカレンダーに組み込みました)
ビジネスでいつも十分な時間を確保することはなかなか難しいため、欠乏マインドセットに一度陥り判断ミスを犯すと、不足の連鎖を生み、抜け出すことが難しくなります。
そうなる前に、「計画外の予定」専用のリソースをあらかじめ確保しておくことで、生産性の源である処理能力を守り、将来の欠乏を減らすことにつながるのですね。
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