これにて

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いつ来てもどこに行っても立ち入り禁止の看板を掲げているくせに、それでも気まぐれに、心底私がいじけないようにと、世界は時々その看板を外して私を招き入れる。 本当に意地が悪い。 そして私は宙ぶらりんに、喜び勇んで期待することをやめられない。

    • さよならと手をふる君が遠くなる

        思い出は口に出すと忘れてしまうものなのかもしれない。どんどんリアリティは薄れてゆく。思い出を共有している相手がいないのでずっと口に出すことなく自分の中で反芻してたから、それはずっと残っていて、知らないひとを相手に17歳の10月17日あたしは一度死んだんだって冗談めかして言ったけど、あれは冗談ではなく本当で、あまりにも朝日が眩しくて泣き明かした眼に突き刺さって痛いとか、そんなのを支えに今まで立っていたのに、打ち明けた途端にリアリティは薄れていった。思い出すことができない。

      • わらうんだ

        陽も落ちそうな夕暮れにざあざあと雨がふった。朝からずっと重たい雲を浮かばせていた空はようやくと言わんばかりに庭の隅に生えたフキの葉を激しく打つ。連絡はない。わたしはなんで、どうして待っていたんだ。2缶目のビールを開けた。つい最近まで呑めなかったアルコールをごきゅごきゅと喉を鳴らして流し込む。身体の奥から熱を持ってなにかを追いやる。六個も歳が下の彼のなまえを呼んだ。抱きしめてほしいときは両手ひろげるんだよ、ってわたしに教えた笑顔を思い出した。困ったようににがく笑うんだ。面倒なこ

        • 2018.6.18

          わたしたちはやっと三十代を迎え、彼女との付き合いは17年になった。その17年の間に連絡が途絶えることはしょっちゅうあった。 教室で授業を受けてたら、廊下の方からちりんちりん鈴の音が聞こえてきてドアを開けるなり、呆気にとられたみんなを他所に「マジ神に見捨てられた」ってぶー垂れて席に座ったでしょう。いまだにそれが可笑しくて、その先もずーっと覚えている。 生まれたばかりの彼女の息子に、夏休みの補習をサボって会いに行ったことがある。女子高生という肩書きで歩いていて、わたしはお祝い