さよならと手をふる君が遠くなる

 


思い出は口に出すと忘れてしまうものなのかもしれない。どんどんリアリティは薄れてゆく。思い出を共有している相手がいないのでずっと口に出すことなく自分の中で反芻してたから、それはずっと残っていて、知らないひとを相手に17歳の10月17日あたしは一度死んだんだって冗談めかして言ったけど、あれは冗談ではなく本当で、あまりにも朝日が眩しくて泣き明かした眼に突き刺さって痛いとか、そんなのを支えに今まで立っていたのに、打ち明けた途端にリアリティは薄れていった。思い出すことができない。歳を取りすぎたんだ。昨日も今日も明日もたぶん何も変わらないようで、知らない間に随分と遠くへ来た。遥か向こうで手を振るあたしが小さく見える。君の悲しみも痛みも一緒に引き連れて来た筈だったのに、気づけばひとりで歩いてた。あたしはこのまま行くべきなのか、それとも迎えに戻るべきか、いま、悩んでいる。




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