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オンライン読書会 開催報告 (3月18日)

今回は、なんと6名の方からの問い合わせがあったり、私が紹介予定の推し本をフライングで話してしまったり、直前で体調不良によるキャンセルが出たりと、開催前からちょっと賑やかでした。

ちょっと時間がタイトだけど参加したい、とか、急に予定がキャンセルになったので、急遽参加できますか?と飛び込んで下さったりと、あまりの喜びに開催前に漏らしてしまうところでした(何をだ)。

結局、参加して下さったのは3名、なんと皆さんそろってリピーターさん。皆さん顔見知りなので、お久しぶりのご挨拶と簡単な近況報告を済ませて、早速スタートです。 


トップバッターは、在宅勤務から復帰して元気がみなぎっているSさん。お久しぶりですが、お元気そうで何より!

紹介して下さった推し本は、こちら。 
「ダブル・ファンタジー」by 村上由佳

主人公は、三十五歳の脚本家、奈津。
彼女は、才能に恵まれながらも、田舎で同居する夫の抑圧に苦しんでいた。夫が自分の仕事、創作活動に口出ししてくるのに耐えられなくなった奈津は、長く敬愛していた演出家・志澤の意見に従い、家を飛び出す決意をする。束縛から解き放たれた女性が、色々な男性とめぐり合っては交わす性愛。その生き方の行方を描く官能の物語ーー。

もともとはお友達からオススメされた本だと言う事ですが、Sさんご本人の感想としては、主人公のキャラクター、生き方に非常に腹が立ったとのこと。

どういうことかと言うと、主人公が仕事をしながら業界で駆け上がっていくために、権力のある男性と関係を持ち、それをまるで女の武器のように使っている描写があるから。この物語の世界では、女性は権力のある男性に「体を差し出すこと」で、ようやく認められるように感じる、というのがそのお怒りの理由です。


主人公と同年代で、同じく働く女性であるSさんが、どうしても違和感が拭えない、と憤る気持ちはとても理解できます。また、感想の中で、#Mee Too運動の爆発的な拡散のキッカケとなった、ハーヴェイ・ワインスタインによる性被害の問題にも触れられたのが印象的でした。 

私がこの紹介後のQ&Aで投げた感想は、「この本の刊行はけっこう前なのでは?当時の社会情勢や社会的な観念から言うと、この主人公の女性は、当時は『使える武器はどんな手でも使ってのし上がる、強くたくましい、したたかで筋の通った女性』のように描かれていたのではないか?」ということ。
そして、そこからわずか数十年ばかりで、社会の、それも女性を取り巻く社会的な通念や常識のようなものがガラッと変わってしまったからこそ、こういった時代遅れ感が気になってしまうのではないか、とも思いました。とはいえ、この本は未読なので、あまり確信をもって言えることではなかったのですが。 
この作品が「今」の社会通念上、「看過できない」生き方を描いているとしても、それは作品の良し悪しの問題ではなく、読まれ方が変わった、読者の目線が反映されたという側面があると思うのです。

発表された2009年当時、主人公の生き方を、「夫の呪縛から逃れた、自由で奔放な、性に対しても開放的な、強い女性」として、好意的にとらえた読者の方もおられたかもしれません。 
そして、2022年の現在、Sさんのように、この主人公を批判的にみられるという事は、少なくても社会が変わり、Sさんの考え方がしっかりと現代のものであるという、何よりの証左ではないでしょうか。

私も働く女性の一員として、古い常識に囚われないように勤めるつもりではいますが、いつかこの本の主人公のように時代遅れになってしまうのではないかと、心の中でわが身をそっと振り返ることになりました。

そこから、話題は女性の生き方などについて少しドリフト。

今回は参加者も多く、十分に話をする時間がなかったため、ある程度のところで切り上げざるをえませんでしたが、近いうちに「女性の生き方」のように、テーマを絞った読書会もやってみたいと思えるほど、参加者の皆さんの興味も強かったように思います。


さて、2冊目の推し本ご紹介は、Hさんから。
「Ai  愛なんで大っ嫌い」by 冨永愛

名実ともにアジアを代表するトップモデルであり、一児の母である富永愛さんの自伝です。
奔放な母親に翻弄された幼少期、背が高かったことから壮絶ないじめに遭い、誰も助けてくれないと孤独に蝕まれた思春期、モデルへの道に進むことで自分の人生を切り拓いていった高校時代から、怒りと復讐心をバネに世界という舞台へ駆け上がっていく20代、そして結婚、出産、離婚、引退宣言までの、ドラマティックな半生が綴られています。 

Hさんは、留学でアメリカへ向かう飛行機の中でこの本を読み、しばらくハンカチが手放せないほど泣いたそうで…。

きっとこの本の中で、世界という大舞台に毅然と立ち向かう冨永さんの姿は、未知の世界へ挑戦するときの不安な気持ちを、強く支えてくれるものであったのではないかと思います。

こういう、人生の転機に読んでいた本って、その当時の思い出までも一緒にページに押し込めてくれるようで、忘れられないものになりますよね。


さて、3人目のプレゼンターは私です。

今回の読書会の開催開催より前から、私のオタク魂が爆ぜます、と予告していた通り、ギリギリ紙一重でキモチ悪い紹介になりました。

推し本はこちら。
「ヨーロッパ退屈日記」by 伊丹十三。

語学力と幅広い教養を武器に、俳優としてヨーロッパに滞在した筆者が、当時での見聞を独特な文体で綴っています。また、1965年に発表された本作は、日本の「随筆」を「エッセイ」に変えた、日本初の本格エッセイ集とされています。

私がこの本を取ったのは、はるか昔、大学生の頃。つまり毎日学校と家を往復する生活から自由度がグンと増し、人の生活にはスタイルがある、ということにうっすら気づき始めた頃(遅いかな…)。 

厳格なまでに本流を愛するダンディズム、ちょっとシニカルな視線を加えた観察眼、本格を愛する審美眼。私はあっという間に夢中になりました。おしゃべりをしているかのような独特の語り口で描かれるヨーロッパでのあれこれは、日本の小さな大学の図書館にいる自分にとって、とても遠い時代の、遠い世界のように思えたことを覚えています。 

私の紹介は、本の内容に入る前に、まず表紙の紙質やレタリング、イラストのタッチや印刷の色から始まっていたので、さぞや気味悪かったことと思います。参加者の皆さんには申し訳ない、ドゥフフ。 


そして、トリを飾って下さったのは、急遽参加してくださったMさんです。

紹介していただいた推し本はこちら。
「さよなら、俺たち」by 清田 隆之 

筆者の清田隆之さんは、恋バナ収集ユニット「桃山商事」の代表。過去1200人以上の恋バナや恋愛相談に耳を傾けてきた結果分かってきた、男性の幼稚さや狡猾さに向き合った本格的ジェンダー・エッセイ集です。 

筆者の清田さんは、男性優位社会の中で謙虚にジェンダーの問題をニュートラルにとらえようとしている(残念ながら)稀有な男性と言えると思います。本書は、男性自身が、男性の問題点や「加害者性」と向き合った、非常に勇気の要る作品だったのではないでしょうか。

著者名とタイトル、内容になんだか既知感があったので、読書会終了後に調べてみたのですが、私の愛聴するラジオ番組で著者インタビューがあったことを思い出しました。
そのあと、男性パーソナリティ自身が「自分の男性性がイヤになるほど、現代の日本社会では男性はまだまだ抑圧的。だけど、男性一人ひとりがその構造と欺瞞に自覚的にならなければ」と語っているのを聞き、「日本の若い男性の考え方も、少しずつ変わってゆくのかな」という印象を受けたのを覚えています。
見つけたインタビュー記事はさっそく参加者の方にシェアし、また少し会話が深まったようでちょっと嬉しくなりました。


今回は、(私の推し本を除いて)女性の生き方、社会での女性の在り方に強く結びつく作品が多かったように思います。

予期せず似たようなテーマが通底する推し本が集まったことに驚きました。
夏くらいには、逆にお題に沿ったテーマで推し本を持ち寄るようなスタイルトライしてみたいと思います。 

あと、夏といえば怪談。いままで一番怖かった本、というテーマでも開催するつもりです。 




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