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【BONUS TRACKインタビュー】 実店舗を離れ感じた、自分のお店を持つ理由とは。HOUSE KITCHEN 月曜店主 TYON 外川良さん

BONUS TRACKでイベントを開催できるスペース「BONUS TRACK HOUSE」。
併設のキッチンスペースでは、休日を中心に食にまつわるイベントを行っていますが、実は平日にも間借りの店主さんによる営業が実施されているのをご存知でしょうか。

ここではポップアップ出店という形からBONUS TRACKへ関わる店主をご紹介します。

今回はインド料理を消化してカリーや創作料理を提供する「TYON(タイオン)」を切り盛りする店主・外川良さん。

なぜBONUS TRACKを間借り先に選び、営業を行っているのか。そもそもお店を持たないという業態から、お店をはじめようと思ったきっかけは?

物件を探しながら約1年活動する中で見えてきた、外川さんにとっての「実店舗を持つ」意味とは。

BONUS TRACK イベントスペースサブマネージャー 塚崎が聞きました。

14年間支えた店は「自分のお店」ではなかった

ーー外川さんに初めて出店いただいたのは、2021年春にpianola recordsさんが主催されたレコードマーケットでした。そういった単発出店から、定期的に出店いただくことになりもうすぐ1年が経ちますね。

そうですね。僕が「TYON」として活動を始めたのもそのあたりからです。物件を探しながら間借りでの活動に力を入れ、そろそろ1年になります。


ーーときどきしか食べられなかった外川さんのカレーが、ここで週に1回食べられるようになって嬉しいのは私だけじゃないはず......。もともとはカレー屋さんで修行をされていたんですか?

中目黒にある「cafeREDBOOK(以下レッドブック)」というお店に立っていました。修行というよりかは、あるきっかけから14年間働かせていただいて、重要なポジションに携わっていたという言い方が適しているのかな。

ーー14年間!長く携わられたんですね。

入る前、料理を作るのは好きだったけど、真剣に仕事として取り組んでいたわけではなくて。やったことないし楽しそう、くらいのノリで働き始めたんです。「ここで最近カレー教えたりしてるらしいよ」と、友人が連れてってくれたのがレッドブックで。

今でこそレッドブックはインドカレー専門の店ですが、当時はカフェ・ダイナーとしての営業がメインでした。僕にカレーを教えてくれたのは、現西荻窪「オーケストラ」店主の山崎さんという方です。ダイナーメニューと、山崎さんが過去勤めていた「オレンジツリー」から派生したインドカレーのレシピを教えてもらっていました。

一緒に働いてて1年過ぎるかどうかすると山崎さんは独立して今の僕と同じ様な状況に、残った僕ら(最初教わってた方がもう一人居て)は山崎さんの味を真似っこをしながらメニューを作り続けました。

ーー以降は外川さんがメインで、店舗に立っていた。

そこからは本当にがむしゃらに、試行錯誤し続けていましたね。自分が切り盛りするとなると、山崎さんのレシピを再現するだけではやっていけないなと感じはじめ、更に勉強の日々です。

なるべく現地インドのセオリー、オリジナルな要素を踏襲した上で、自分が今までやってきたこととミックスアップしながら自分の料理のスタイルを模索し続けました。

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ひよこ豆のベジマサラ

ーー14年間という歳月が、その夢中さを物語っていますよね。もしかしたら、そのままレッドブックを支え続ける選択肢もあったのかなと思うのですが。

もちろんその道を考えていたこともありました。カフェダイナーからインドカレーを主力に扱うという大転換を行うなど、レッドブックではかなり好きにチャレンジさせてもらったけど、やっぱり僕は一スタッフでありその店のオーナーではないんですね。

年月を重ねていく上で自分のやりたいことはあるけど、スタッフという立場では折り合いのつかない事、今まで心にしまっていた事がコロナ禍に入り更に明確になっていきました。


ーーカレーのスタイルを培う中で、外川さん自身としてもやりたいことが見えてきたんですね。

辞めて直後、色々と相談していた当時のお客さまから「中目黒がカレーの街になったのは君のおかげだよ」って言っていただいた事があって。そう思ってもらった事を伝えていただいたのは大きかったですね。

人知れずかも知れないけれど14年程作っていた。それは本当にそうで、山崎さんをはじめお世話になった人たちを通過して今の自分のスタイルをちゃんと自分で行うためにも。そしてオーナーが望むレッドブックの在り方とのギャップに素直に向き合って、離れる事になりました。

振り返ると、レッドブックに居る事で実店舗を持っているような感覚で運営してたことが、自分の店舗を作りたいと思う強いきっかけになっています。そこまで打ち込んでいなかったら今そう思ってない可能性もある。

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お客さんとの呼応が生まれる実店舗を開きたい

ーーこのキッチンを活動の一拠点に置き、出店を続ける中での気づきはありましたか?

BONUS TRACKを利用することで一番良いところは、自分がかつてお店に立って感じていた余白があることですね。作ってすぐ提供できる場所があって、そこに来るお客さんとの間に生まれる微妙な間。脈絡のない話から生まれてくる新しい展開を共有する時間から考え直す何か、ですかね。

最初は散歩社の桜木さんが「また食べたいから」と注文してくれたことからはじまり、定期出店の相談をもらってここで週1回こうやって出店してますし、そこからイベント出店の話も来るようになった。

「ああいう話あったね」という何気ない会話に呼応する人がいて、どんどん広がっていく。この1年間借りの生活をしてきて、レッドブック時代には気づかなかった、実店舗を運営する上で大事な事を再確認しました。

ーー 一見何も生み出さないような会話が後から効いてくるなって、ここにいると私も感じることがよくあります。

お弁当が悪い訳ではないんですが、もしただ作ってただ提供する事だけなら、ある種消費していくことを生んでるだけなのかもと。それだけだと生産性があることなのかはよくわからない。だけど、実店舗があること、その現場に自分が立ち、実感を得ていくことが、僕にとってはすごい重要で。こういった会話も、改めて自分が進んでいく上での糧になるというか。

ーー 一方で物件探しは本当に苦労の多い局面ですよね。私はomusubi不動産に所属する中で、エリアや形態によっては物件の選択肢さえないという現状があって、みなさんが思うように動けないような姿も目にします。

思った以上に出会うことができないですね。重飲食なのもあって尚更難しくて。

ーー場所を持たずに活動することでのジレンマを感じることもありますか?

お店を持ちたい自分の視点から言うと、間借りという立場や活動それ自体は、一生懸命やったとしても社会的な実績や信用に結びつきにくいと思います。例えば融資の面では、間借り活動によって注目を得ていても、それだけでは加点ポイントになる訳ではないかなと。

「君にはキャリアがあるから」と皆さん言ってくださるんですけど、キャリアも店舗を借りる際の審査にはそこまで影響はしないと、僕自身もこの1年で体感しています。

間借り活動から得た認知や活動自体が評価されて、実店舗を持つステップアップの材料になったっていう事があれば面白いと思うんですけどね。中々ないから多分それは通過点、練習場所と思われてるのはあると思います。しょうがない事かなって思うんですけどね。

ーーやはりお店、場所をもち活動したい。

そうですね。常に新しいことというと、オーバーになってしまうんですけど、今までやってみなかったことで「美味しかった」という感想だけじゃない、自分でも思ってもみなかったことが返ってくる、そして返ってくるものを更に自分もフィードバックしてまた考えるということを重ねたくて。

あれ面白くないからやめようみたいなこと、お金がかかるから止めようみたいな事とかはあんまりしないっていうか。まずは作ってみること。やってこれなかった事とかを試す。

そんな呼応を地続きに作り続けられる実店舗が必要だと感じますね。

「いつ食べても美味しい」と思ってもらうために

ーー新しいことにトライする、ということにこだわっているのはどうしてですか?

自分にとって少しでも進歩があるようにする為ですね。

前職の時、数年ぶりに食べにきてくれた人が、「変わらず美味しいね」って言ってくれた事があって。でも数年も経っているとレシピは流石に変わってるんです。

つまり「変わらず美味しいね」と言って貰える事は、過去の美味しかった思い出に勝っている事だと考える様になって。そこからはノスタルジーに勝つために進化するしかないと思ってます。ほんの少しでもいいから新しい事、良い事や楽しい事をやる。

でもやってみて終わったら、それはそれで終わりです。

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ーー終わったら、終わり?

出したら終わりなんですよ。「すごいよかった、これはよくできたし、また作りたい」と思うけど、これはこれで良かったね。じゃあ次行こうかって。基本1回作ったら終わり。それは山崎さんの教えでもあるんですが。最高なものが出来ても実感をちゃんと置いて、それはそこで終わり。

ーー実感を残して次にいく。

追憶はなるべくしない様にしておいて、ただ単純に同じ事を繰り返してもしょうがない、けど反復する事は修練としては大事なのもあるんですけど。一瞬の実感にあぐらかいてもしょうがないしなって。その結果は積み重なって残るので。多分。

ーー「実感」の積み重ねによって、TYONさんは成立しているんですね。

消費される、消費するだけのサイクルからズレていくためにも、提供するものや、やってる事を介してお客さんのフィードバックを得て考えられるもの。エモーショナルな雰囲気を望んではいないんですが、もう一度そういった形で触れ合っている実感を得たいなと思っています。

それはTYONっていう屋号にも意味を込めていて。

ーー最後に、改めて屋号「TYON」の意味、教えていただけますか?

「体温」ですね。
動物や生物を認識する一つの総称、さらに相手を区別しないことの総称として感じる事があって、それいいなと思いました。

レッドブックでも年代関係なく、小さい子供から70歳すぎの老夫婦の方も来ていただいていたんですね。
子供も大人も、外国籍の方も日本人も、性別、ジェンダー、民族、区別しない事としても良いなと思っていて。

それがこれからもっと当たり前のことであったらいいし、自分も含めてやってきたことやあり方を、できる限り区別しないでおける場所っていうのがいいなって感じですかね。

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ーーそんなお店作りの過程にこのキッチンをおいてもらっていることが嬉しいです。

とはいえすぐに結果が出るようなものでもないと思うから、その中でもどうすれば実現できるかを日々考えていくことが重要だと思います。改めて自分もここに立っていて、そんな気がするので。

ーー身が引き締まる。ぜひこれからも一緒に、お店を探しながらこの場所の在り方を探っていけたら嬉しいです!

TYONさん情報
Instagram:https://www.instagram.com/tyonofficial/
BONUS TRACK KITCHENにて毎週月曜日を中心に不定期出店
OPEN 12:00 CLOSE 21:00
2022年に実店舗開店予定

取材/omusubi不動産 塚崎 りさ子 溝井裕美  
文・撮影/塚崎 りさ子 

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