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【BONUS TRACKインタビューvol.9】 “幸せにしたい人を、ちゃんと幸せにしたいんです” 本の読める店 fuzkue 阿久津さん

2020年4月にオープンした『BONUS TRACK』は、“あたらしい商店街” をテーマに、飲食店や本屋さん、ヴィンテージショップにレコード屋さんなど、さまざまなお店がつらなる複合型施設です。

ここでは、そんなBONUS TRACKに出店しているそれぞれのお店をインタビュー形式でご紹介。個性あふれるお店がずらりと並ぶBONUS TRACKの魅力を、ぜひお楽しみください。

“本の読める店” とは……?

ーーBONUS TRACKインタビュー、はやくも第九弾となりました。今回は、“本の読める店” である「fuzkue」の阿久津さんにお話を伺います。よろしくお願いします!

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阿久津さん:よろしくお願いします。

ーーまずはじめに、読者の方も気になっていると思うのですが、fuzkueのテーマである “本の読める店” とはどういったものなのでしょうか?

阿久津さん:そうですよね、まずはそこから。「fuzkue」は、いわゆる「本屋」ではなく、「本を読んでいただくためのお店」です。そこでは、お客さんにとっての “最高の読書環境” を目指しています。

お店としては、「静かな時間を過ごしていただける」・「ゆっくり気兼ねなく長居をしていただける」という2つのことをテーマに設定しました。

ーー静かな時間を過ごしていただく。長居をしていただく……?

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阿久津さん:一点目の「静かな時間を過ごしていただける」については、原則として、お客さんには「おしゃべり」をしないでいただいています。また、パソコンを開くことは可能ですが、「タイピング」はお断りしていて。

ーー基本的に、あまり音が鳴らない環境を用意している、ということですか……?

阿久津さん:そうですね。あくまで「快適な読書」を邪魔するものが取り除かれた環境でありたい、という考えからです。

みんなが穏やかな気持ちで、公平な立場で居られる場所として

ーー2点目の「ゆっくり気兼ねなく長居をしていただける」というのは、どういったことなのでしょうか……? お店として、正直、長居をしていただくことはあまりメリットでないのでは……?

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阿久津さん:少し話は逸れてしまうかもしれないのですが、僕自身、「誰も損をしないあり方」というのが大切だと思っています。お店側も、お客さん側も、そのどちらも「損をしない」ということが重要だなぁ、と。

 たとえばfuzkueでは、「お席料」というシステムがあって。それは、お飲み物を1杯ご注文いただければ、900円に。2杯ご注文いただければ、300円に。3杯ご注文いただければ0円になる、という仕組みです。

ーーそれは、どういった意図で取り入れられたのでしょうか?

阿久津さん:700円のお飲み物を1杯飲んでいただいても、2杯飲んでいただいても3杯飲んでいただいても、だいたい2,000円ぐらいになるようになっているんですね。1杯の場合、「お飲み物700円+お席料900円」で1,600円。2杯の場合は「お飲み物700円+お飲み物700円+お席料300円」で1,700円といったような。これは、お店としては、粗利益1500円はいただきます、という仕組みでもあって。

僕の原体験として、喫茶店で本を読む際に「このコーヒー1杯で、自分はどれぐらいの時間を過ごすことを許されているんだろう……?」と思ったことがあって。

ーーそれ、すっごくよくわかります。「どれぐらい居て良いのかな……?」と思うこと、ありますよね。

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阿久津さん:お客さんが仮にそう思ってしまうことは、店にとってもお客さんにとってもあまり良くないなぁと。きっと、『長居してしまって申し訳ないから、お代わりしようかな……?』と思ってしまうこともあると思うんです。喫茶店での僕もそうでした。

お店を続けていくうえで、それは嫌だった。お客さんには、穏やかな気持ちで、とにかくゆっくり過ごしていただきたい。だからこそ、オーダーがどのようなものであっても、何時間いても、「帰ってほしいお客さん」にならないための方法を考えた、ということですね。

ーーなるほど。そうすることで、お客さんの安心感が生まれる、と。

阿久津さん:第一号である初台のお店をオープンした当初は、「お値段は設定しないので、お客さんが好きな金額を値付けしてお支払いしてください」なんていうスタイルでやっていたぐらい。それは正直いろいろと大変だったのでやめましたが(笑)。
誰も損しない、誰もが公平な立場でいられる、お店側もお客さん側もガマンをしない、みんなが気持ち良くいられるスタイルだと思ったんです。


小学校のころの大きな衝撃と、これまでの道のり


ーーお店のあり方として、fuzkueはかなりユニークだと思うのですが、阿久津さんがこのfuzkueをオープンするにいたるまでのお話を聞いてみたいです。昔から、本はお好きだったんですか?


阿久津さん:本を読むことは、ずいぶん昔から好きでしたね。ただ、読書も好きだったのですが、そもそも「言葉」にすごく強い興味があって。小さいころ、“火照(ほて)る” という単語を見たときに、物凄く大きな衝撃を受けたんです。「火(ひ)って、“ほ” とも読めるの? 何これ?」って。それを知った翌日、小学校の先生に伝えたんですね。すごく興奮しながら。まぁ、先生は全然ピンとこずでしたけど(笑)。

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阿久津さん:あまり意識していなかったのですが、きっと「言葉」に面白がる感覚があったんですね。本を読むこともそうですし、詩や小説などの文章を書くことなんかも好きだったのですが、その根っこには「言葉が好き」という気持ちがあって。

ーー小説を書いていたのは、どの時期だったんでしょうか?

阿久津さん:大学生のころからですね。2年間ぐらい、小説を書くゼミに入っていたんです。雑誌を作ったりなんかもしているところでした。なんとなく「小説を書き続けていたいなぁ」と思いながら、気づけば就職活動の時期になって。ゼミの先生からは、『小説家になりたいなら、一度は就職をしておいた方が良い』と言われていました。でも僕、就職活動が下手だったんですよね。

ーー就職活動が下手、とは……?

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阿久津さん:そもそもやりたい仕事なんて全然なくて。正直、やる気もあまりなく。色々な業界の会社をひとつずつエントリーしていって、どこかに受かれば良いなぁぐらいの感じだったんです。そしたら生命保険会社に受かったので、就職しました。代理店営業の仕事。配属は岡山県でした。

ーー阿久津さんのご出身は東京……でしたっけ?

阿久津さん:栃木県生まれの埼玉県育ちですね。突然『配属は岡山です』と言われて、向こうへ引っ越すことになったんですが、それでもなんだかネガティブな気持ちではなくて。新しい経験ができるなぁ、ぐらいに思っていました。唯一、好きだった映画がこれまでのようには観られなくなるなぁとは思ったんですが、それ以上に「本」が好きだったので、あまり大きな問題でもなく。

ーー岡山でのお仕事は、何年ぐらい続けられたんでしょうか?

阿久津さん:3年続きましたね。その後は、縁があって、岡山に残ってカフェを始めました。そこでも3年。カフェで働いていた時期に、fuzkueの形がうっすら見えてきたような気がします。

「幸せにしたい人を、ちゃんと幸せにしたい」という気持ちの芽生え

ーー岡山のカフェで働いていたころに、fuzkueの形が少しずつ見えてきたというお話がありましたが、それはどういったことがきっかけだったのでしょうか?

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阿久津さん:僕が働いていたカフェは、とにかく忙しいお店でした。さまざまなお客さんが出入りしていて。だんだん、「僕はこういう仕事がしたかったのか……?」と思いながら、いろいろと疲れてしまって(笑)。

そんななか、一人でゆっくり本を読みながら過ごしに来るお客さんもいらして。そういう静かな姿を見ているうちに、「自分はこういうお客さんを幸せにしたいんだよなぁ」と思って。

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阿久津さん:そういう、「こういう人を相手に商売をしたい」ということと、僕自身が長年思っていた、「もっと読書の時間を快適に過ごせたら良いなぁ」という課題意識が一緒になって、そういう店をやりたくなっていきました。

ーーその思いや考えが、今のfuzkueに繋がっている、と。

阿久津さん:そういうことだと思いますね。自分が幸せにしたい「本をゆっくり落ち着いて読みたい人」を、自分なりの考えや方法でもって、ちゃんと幸せにする。それがfuzkueのあり方なのかなぁと思っています。


これからのfuzkueのこと

ーー2020年4月にBONUS TRACKのお店がオープンしてから、約5ヶ月が経ちました。あらためて、これからやってみたいなぁと思うことは何かありますか?

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阿久津さん:初台の一号店にはない部分として、BONUS TRACKには「お店とお店が近い」という点が面白いですよね。商店街のようで。

いくつか制約はありますが、fuzkueは飲食物の持ち込みをしていただけるので、たとえば「出前」のようなサービスも楽しいのかな、と思います。他のテナントのメニューをfuzkueの中に用意し、その中からご注文いただき、僕たちがお客さんからお金を頂いて買ってくる。そんなのもきっと面白いのかなぁ、なんて考えたり。

ただ、特に「これがやりたい!」と決まっていることは正直ありません。初台でもずっとそうしてきたように、目の前の課題をひとつひとつチューニングしながら、より強固な店にしていくだけですね。




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取材・撮影/平井 萌 文/三浦 希 


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