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エブエブ(とブラプラと歌舞伎)

3日前にアカデミー賞7冠を獲得した「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(以降エブエブ)。

4日前に最終回を迎えたテレビドラマ「ブラッシュアップライフ」(以降ブラプラ)。

(安藤サクラの一人称わし…なの?)

今日までの5日間で私が観た3つのエンターテインメント(3つめは後述)は、どれも宇宙を感じさせる作品でした。脳内が宇宙でパンパンになっちゃって、ちょっと頭の整理が必要になってきたのでここに書き出しておくことにしました。脳も宇宙の一部だから"脳が宇宙でパンパン"っていうのも辻褄のあわない表現ですが。

エブエブ、無茶苦茶っぽい映画だなと覚悟して観に行きましたが、筋の通った無茶苦茶でした。※以降、ネタバレあり。

マルチバース(多元宇宙)をベースに作品が展開していきます。マルチバースとは、今自分が生きている宇宙(世界)と似たような宇宙がたくさんあって、どこかあるひとつの宇宙の何かひとつの選択が、たくさんの他の宇宙に影響を与えながら同時に進行しているという考え方です(=everything everywhere all at once)。宇宙はひとつだという何となくの常識「宇宙=ユニバース(uni-verse)」とは対をなす考え方とも言えます。

ミシェル・ヨー演じる主人公のエブリン(名前からダジャレ)は、ある宇宙ではつぶれかけたコインランドリーの店主、別の宇宙ではカンフーの達人兼女優、また別の宇宙ではシェフ、またある宇宙では手の指がソーセージの人、岩の宇宙もあるし人形の宇宙もあります。それらの宇宙を行ったり来たりしながら親子の絆を取り戻していく、という、壮大な背景ながら普遍的で超絶ミニマムなテーマ。

どの宇宙に行ってもエブリン(母)とジョイ(娘)はうまくいかない。でも唯一2人が岩になった宇宙では平和でした。私的には岩のシーンがベストシーンです(2番目はウエストポーチヌンチャクシーンです)。

たくさんたくさん宇宙をジャンプしまくって、娘がベーグルと呼ばれるダークサイドのようなブラックホール(ベーグルのエブリシングがまたダジャレ)に行ってしまうのを最終的に止めるきっかけになったのは、弱々しく頼りないキー・ホイ・クォン演じる父ウェイモンドの言葉「Be kind」。

メタメタにやり合ってる流血沙汰の中、すっくと立ち上がって「Be kind」。

何という勇気。ドラえもんの映画に出てくるのび太くんに見えました。

目の前で人生がドラマティックに繰り広げられているように見えても、たくさんの宇宙でいろんなことが起きているように見えても、それは単なるランダムな素粒子の再配列。宇宙を埋め尽くす構成物質は全部素粒子で、それ以上でもそれ以下でもない。

Nothing matters. どれも大したことじゃない。色即是空 空即是色。すべてが同時に存在しているし、すべて実体は無い。だったら今目の前にある(ように見える)ことに、優しく、大切に、真摯に取り組んで生きよう。それが私的解釈によるエブエブからのメッセージです。

一方ブラプラは、何度も同じ人生を生き直すストーリー。あーちんとまりりんが5周も6周も生き直しているのは、(最初は人間に生まれ変わるためだったけど最終的には)仲良しの友人2人の命を救うため。

生き直すたびに少し行動や進路を変えるのですが、そうすると、その先のことや付き合う人たちが変わってくる。記憶を持ち続けるパラレルワールドです。ただ赤ちゃんから毎度やり直すので結構効率が悪い。私は何十年もブルマとか履きたくないし、高校時代の7時半からの朝補習とか何周も受け直したくない。

エブエブとはちょっと質が違うけど、いずれも守ろうとしているものはアルマゲドン的な大きなものではなくて、娘だったり友だちだったり身近にいる大切な人。相手方は守ろうとされてることを感知してなくて、宇宙的世界観の中、いくつもの人生をかけてそのことに(文字通り)必死に取り組んでいる、というところが共通点。

ついでに紹介したいのが、今月京都の南座で行われている歌舞伎「仮名手本忠臣蔵 五・六段目」(以降五・六段目)。

Aプロ/Bプロに分かれていて、同じ演目を違う俳優、違うやり方(江戸の形と大阪の形)でやる、という画期的な企画です。忠臣蔵をこの見せ方で上演するのは史上初。

普段は江戸の型が上演されて、数年後に上方の型が上演…という風に間が空くので、しっかりと見比べることは映像で見比べない限りまずありません。しかし今回は最短1日で2つの五・六段目を見比べることができます。

短期間に見比べることで際立つ、2つの五・六段目の違い。ストーリーは同じなのですが、セリフも動きもちょこちょこ違う。衣裳も小道具も周りの人たちの動きも違う。主人公である早野勘平のパラレルワールドを観てるようでした。かれこれ20年歌舞伎を観続けていますが、歌舞伎で宇宙を感じたのは初めてです。

以上、宇宙をガンガンに見せられた5日間のまとめでした。




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