知らぬはほっとけ
〔解説〕
昔からのことわざ「知らぬが仏」は、「物事の実情を知れば腹が立ったりトラブルが生じたりすることもあるが、知らなければ穏やかな仏のような顔をしていられる」ということを例えたものだ。
また、「みんなにばかにされているのに、当の本人はそれを知らず、平気でいること」という意味もある。
類語に「知らぬが仏、見ぬが秘事」「見ぬが仏」「見ぬが秘事」「無いが極楽知らぬが仏」などがある。
少し横道にそれるが「知らぬは亭主ばかりなり」ということわざもある。これは江戸時代の川柳「町内で知らぬは亭主ばかりなり」の中の「町内で」が省かれたものだ。
説明するまでもないが、律義で親切な発行人は解説する。「亭主は女房の不倫を知らないが、近所の人たちはみんな知っている。当事者がうっかりしていること」を言ったものだ。
(ここまではパロディーではなく事実)
〔さらに解説〕
前述の「知らぬは亭主ばかりなり」については、言うまでもなく逆のケースもあり得る。単純に置き換えれば「知らぬは女房ばかりなり」となる。どっちのケースにしても、当事者はトホホとなる。
さらに言えば、亭主と女房の両方がそれぞれ不倫しているなどということもないとは言いきれない。双方が承知しているなどという異様なケースがあるかもしれないが、お互いに知らない場合が普通であろう。
こんなときは知らないままがいい場合と、知ったほうがいい場合がある。知らなければ知らないで厄介ではあるが、とりあえず表立ってのいざこざはない。
周りの人たちがみんな知っていたとしても、はたから見れば他人事(ひとごと)であるし、関わり合いになると厄介なのでほうっておくことが多い。そこで生まれたことわざが「知らぬはほっとけ」である。当人以外は高みの見物ということなのだ。
街頭インタビュー。
10歳(男)小学生
「知らぬはほっとけ」ですか? あ、ぼくはとてもいいことわざだと思います。ぼく、このあいだ国語のテストで25点だったんですけど、お母さんはそれを知りませんから。もちろん言いません。ほっときます。
24歳(女)会社員
へえ、そんなことわざができたんですか。元は「知らぬが仏」? それも知りませんでした。やっだ~、あたし、知らないことだらけ。いいです、もうほっといてください。
39歳(女)主婦
「知らぬはほっとけ」? ああ、いいんじゃないですかね。あたしがふだん何してるかなんて、夫は何も知らないですよ。あたし、ホルモンバランスはいいし、肉体的には脂がのってるんです。昼間の時間も欲望もたっぷりあるんです。うふふ。
54歳(男)会社員
自分だけ知らないっていやですよね。もし女房が不倫してたらやだな。どこの誰とだろうとか、どんなことをしてるんだろうとか。おれにしてくれないようないやらしいこともしてるんだろうか。ああ知りたい。いや、知りたくない、いや知り……あ、どうもすいません、私、心配性なんで。