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夢は不条理、不合理、ナンセンス

 ずいぶん前のことだが、「ドリームマシン」という短編小説を書こうとしたことがあった。自分が見たい夢を、自分で自由にプログラミングできる装置が発明され、爆発的にヒットする。ところが、ある重大な欠陥が発現し、日本中が大騒ぎになるというドタバタものだ。
 しかし、この程度のストーリーは誰でも思いつきそうだと思ってやめてしまった。誰かやりませんか。

 自分がヒーローやヒロインになれるなど、思い通りの夢を見ることができたらおもしろいと思う。ジェームズボンドでもシンデレラ姫でも自由に。
 しかし、やはり夢のおもしろさの真髄は、不条理で不合理でナンセンスで、しかも、自分の意図しない展開になるというところにあると思う。

 私が見た夢をタネに使うとしましょう。
 その1。
 一人で空を飛んでいるところから夢は始まった。なぜ飛んでいるのかはわからない(夢の中ではそういう疑問さえない)。
 しかも、飛びたくて飛んでいるのではない。したがって、楽しいどころか不安や恐怖にさいなまれている。
 家はどんどん遠のいていくし、なんとかして早く降りたいとあせるが降り方がわからない。幸い、スーパーマンが降下するときの姿勢を思い出し、真似をしてみる。すると無事に降りられた。
 飛ぶ夢を見た人は多いと思うが、降りられなくて困った夢を見た人は少ないのではないだろうか。

 その2。
 自分の家の裏通りで、漫画本が落ちているのを見つける。一冊ではない。走行中のトラックから規則正しく一冊ずつこぼれ落ちたかのように、わずかな間隔をあけて点々と落ちている。それがずっと先まで続いている。
 しめたとばかりに拾い続ける。ずいぶん拾うが、一冊も読まないで目が覚める。単調というか地味というか、なんなのだこの夢は。

 その3。
 どうしたことか、その漫画本の夢と同じパターンで別の夢を見た。
 100円だか10円だか不明だが、硬貨が点々と落ちていて、それを次々と拾っていく。そして、延々と拾い続けている最中に目が覚める。
 いまにして思えば、なぜ硬貨だったのか不可解だ。夢に欲望が反映するなら、硬貨などという小銭ではなく、札束でも拾うことになるはずだ。
 どうせ夢だから、漫画本を拾おうと小銭を拾おうと同じことだが、せめて読んだり使ったりしてから覚めたかった。

 もうひとつ。柔道の練習中(現実では私は柔道とは無関係)に、後ろへ回られて首を羽交い締めにされる。苦しいが相手の力が強くてなかなか逃れられない。それでも力まかせに、相手の腕を勢いよく振り払う。そこで目が覚める。
 じつは、仰向けに寝ていた自分の首に、自分の腕がのっていて、それを自分で思いきりはねのけた拍子に目が覚めたのだった。
 このての夢は、眠っているときに体が受けている外的刺激が影響して見るのだそうだ。言うまでもなく、この夢の場合は首に手がのっていたことだ。

 熱が高いなど体調がわるいときには現実じみた夢を見て、目が覚めても少しの間思考がまとまらないなんていうこともあった。
 怖い夢もずいぶん見た。たとえばクマに追いかけられている。クマは普通に走っているのに、自分の動きは水中にいるようなスローモーション。なのにクマはちっとも追いつかない。追いついてこないが怖さはそのまま。
 エッチな夢もけっこう見たが、これは何かと恥ずかしいので書かない。

 前述のように、たいていの夢は不条理で不合理でナンセンスだ。夢の中では飛ぶことに対してなんの疑問も抱かないし、いくら大量に漫画本を拾っても、重くもなければかさばりもしない。
 そもそも、拾った膨大な量の本をどうやって持っているのかさえわからない。いや、わからないというより、持っているという意識そのものがない。拾っているという、漠然とした概念があるだけだ。

 もっとも感心するのは、舞台設定やストーリー展開が突拍子もないことだ。目が覚めているときなら到底考えつかないような、めちゃくちゃおかしな内容だ。
 夢は、体験や知識、願望や欲望などがごちゃまぜになって起きる現象だそうだ。要するに「脳の気まぐれ仕事」だ。
 ここにあげた私の見た夢は、夢占いではどんな答が出るのだろうか。だいたいのところは自分で推測できるが、興味深いところだ。



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