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気は置けるかい

〔解説〕

 本来の意味とは逆の意味に取られやすい言葉は少なくない。慣用句の「気が置けない」もそのひとつだ。
 この言葉の意味は「気遣いや遠慮の必要がなく、気楽につきあえる」が正しい。使い方の例としては「キノ子さんはなんでも気楽に話し合える、ほんとに気の置けない先輩なんですよ」というぐあい。

 しかし、実際には逆に解釈され、「気配りや遠慮が必要な関係」「気を許せない間柄」と取られることが多い。
 文化庁が過去に二度調査したが、二度とも誤答が正答を上回り、「相手に気配りや遠慮をしなくて はならないこと」などと解釈されていた。

(ここまではパロディーではなく事実)


〔さらに解説〕

 この慣用句でいう「気」とは「遠慮」や「気遣い」のことだが、それをどこに「置く」のかはわかっていない。棚や引き出しのようなものも見当たらないことから、「相手との心理的な隔たりや距離のことではないか」(一般社団法人日本慣用句協会群馬支部語源課調査係駒界氏)とされる。

 近年では「気が置ける」などといったグレーな使い方をする人も多く、ますますわけがわからなくなっている。
 現実に「気が置ける」という表現を扱っている辞書もあるが、「気が置ける」という言い方は、文法上は正当な使い方であっても実用上は不自然である。実際に使うなら「気が許せる」などと表現するほうがいい。

 このような経緯から、日本格言制定委員会の尾琴場会長が「気が置けるとか置けないとか決めつける前に、まず話し手に訊いてみたほうがいいのではないか」と提案したところ、猛暑で疲れきった委員の多くが面倒になってしまい、意味も趣旨も不明なまま〝会長に一任〟した。
 これにより、いとも簡単に「気は置けるかい」が新しいことわざとして制定された。


[珍語漫語の会 須湖すこ副会長の話]

 「新格言制定のきっかけは『気が置けない』の誤用や誤解の解消だったはずですけど、なぜ〝話し相手に訊いてみる〟なんていうことになっちゃったんでしょうね。尾琴場会長も暑さのせいでおかしくなっちゃったんでしょうか。あ、うちの会長もそれで寝込んでますから、人のこと言ってられないですけど。あたし、もう尾琴場会長とは気を置かないとだめです。あれ? この使い方は変よね。体は許せるけど、あ、違う、体を許せるはずがないじゃないですか。あんな中年に、体も気も許せませんよ。何も許せないわ。あ、何言わせるんですか。あなたには気を置かないと、あれ、なんだか変ね。あたしの言ったこと、どのメディアにも発表しないでね。ね、約束よ。あとで食事しましょ。ああ、やっぱり暑さのせいでおかしくなっちゃったわ」


 街頭インタビュー。

32歳(女)風俗
「新しいことわざ?『気を置けるかい』ですって? なにそれ。あたし、ことわざは苦手なのよ。寝技なら得意だけど」


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