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ミャンマー内戦⑪国際危機グループ「クーデター後のミャンマーにおける民族自治とその影響」(意訳)


国軍の劣勢

ミャンマーの内戦は2021年2月1日のクーデターを機に始まったのではない。
ミャンマーでは、約20の少数民族武装勢力(以下、EAO)が、民族の権利と自治権拡大を求めて、長年、歴代の中央政府と戦ってきた。ミャンマー最古のEAOと呼ばれるカレン民族同盟(KNU)/カレン民族解放軍(KNLA)が反乱を起こしたのは1948年、KNU/KNLAと並ぶ有力EAO、カチン独立機構(KIA)/カチン独立軍(KIO)が反乱を起こしたのは1961年である。だから現在のミャンマーの内戦は、この”永遠の内戦”の1プロセスと考えるべきであり、実際、2011年から2020年までの民政移管時にも、KNLA、KIA、シャン州軍南部(SSA-S)カレンニー軍(KA)民主カレン慈善軍(DKAB)シャン州軍北部(SSA-N)ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)アラカン軍(AA)との間で戦闘が行われており、クーデターはそれに引火したという形である。

2021年のクーデターとそれによる全国的な和平プロセスの崩壊は、ミャンマー軍(以下、国軍)とこれらのEAOとの間の緊張を高めたが、彼らはすぐには戦闘を再開せず、しばらくは様子見の態度をとった。ただ国軍支配地域から逃れてきた政治家、活動家、デモ参加者に避難場所を提供したり、PDF(国民防衛隊)と呼ばれる新しい抵抗勢力に軍事訓練を施したり、兵器の提供や寄付をしたりしたところもあった。少数ではあるが、公然とNUGやより広範な抵抗運動に味方する者もいた。KNLA、KIA、KA、チン民族戦線(CNF)/チン民族軍(CNA)などは公然とNUGやPDFを支持したが、長い歴史を持つKNLAやKIAが、自ら軍事訓練を施したPDFをよく統制したのに対し、弱小勢力のKAやCNAは、自ら育成したPDF、カレンニー民族防衛隊(KNDF)チン民族防衛軍(CNDF)チン防衛軍(CDF)に、規模も戦力も追い抜かれてしまった。

この生煮えの情勢が一変したのは、NUG・PDFとは距離を置いていたNNDAA、AA、タアン民族解放軍(TNLA)からなる3兄弟同盟が、2023年10月に実施した1027作戦である。

3兄弟同盟は、5年間練ったと言われる奇襲作戦と何百機もの中国製農業用ドローンによって国軍を圧倒。戦闘には各地のPDFも加わった。最初の2週間で、シャン州北部の100以上の国軍の拠点をや町を制圧し、その中には1971年に国軍がビルマ共産党(CPB)に勝利した、サルウィン川にかかる重要な橋がある中国国境近くの戦略的な町・クンロンも含まれていた。クンロンが陥落した際、6人の准将を含む約2400人の部隊とその家族が3兄弟同盟に降伏したが、これは国軍史上最大の降伏だった。2024年1月11日に国軍と3兄弟同盟は停戦合意を結んだが、1027作戦における国軍の敗北は、想像してたよりはるかに国軍が弱体化していることを白日の下に晒し、他のEAOの反抗心に火を点けた。

なお作戦の間、NUGの存在感は一貫して薄く、NUGがステークホルダーから外れつつあることも、また明らかになった。

アラカ軍(AA)

アラカ軍(AA)は、1027作戦遂行中の11月13日、国軍との停戦合意を放棄して、ラカイン州の町・パウトーを攻撃。2024年2月8日にはアラカン王国の旧首都・ミャウウーを占領、5月下旬までにラカイン州で9つ、隣接するチン州で1つ、計10の主要都市を占領し、マグウェ管区とエーヤワディ管区の一部でも攻勢を開始している。AAのリーダー・トゥミャーナイは、AA創設15周年記念の4月10日の演説で、ラカイン州の州都・シットウェと国軍の海軍基地と中国の石油・天然ガスターミナルがあるチャウピューへの攻撃を開始すると発言している。
ただこれらの戦闘の際、AAはロヒンギャを虐殺していると非難されている。

カチン独立軍(KIA)

KIAは、1961年にKIAが初めて国軍に攻撃を加えた3月7日に、国軍への攻撃を再開、1か月以内に約60の国軍の拠点と基地を制圧した。KIA本部があるライザでは、国軍の迫撃砲と砲撃の射程外になるほどに国軍を後退させ、カチン州・州都ミッチーナバモーを結ぶ幹線道路の大半を掌握し、4月8日には中国国境の重要な貿易都市・ルウェジェを制圧した。さらにKIAは、カチン州最北端にある国軍の重要な駐屯地・スンプラブム、カチン州南部、シャン州の一部隣接地域などの国軍の戦略的拠点も占領した。

またKIAは貴重な天然資源の支配にも動いおり、パーカン翡翠鉱山やタナイ郡の金と琥珀の鉱山の操業を強化している。これらの鉱山の年間収益は合計数十億ドルに達し、KIAの戦費や支配地域の管理と行政サービス提供のための重要な資金源となっている。ただKIA 、国軍と連携するカチン国境警備隊 (旧・カチン新民主軍) に対しては動いていない。同隊はライザ北部のチプウィ郡で希土類鉱山を運営しており、2023 年には 14 億ドルの収益を上げ、入手可能な世界の重希土類元素の大部分を供給している。

カレン民族解放軍(KNLA)

KNLAは、4月10日、タイとの重要な貿易拠点であるミャワディを一時的に占拠しかけたが、カレン民族軍(KNA)と改名した、国軍と連携するカレン国境警備隊(旧・民主カレン仏教徒軍《DKBA》)により阻止された。同隊は、ミャワディ周辺には、KK園区シュエコッコなどの中国人犯罪グループが運営するカジノ、人身売買、麻薬、マネーロンダリング、オンライン詐欺の拠点がある。カレン国境警備隊は、空爆すると脅迫され、国軍側に付いたのではないかと言われている。

政治的・軍事的影響

国軍の弱体化

国軍が敗走を続ける理由にはいくつかある。

  1. 国内のさまざまな地域でEAOが勢力を伸ばし、軍備が手薄になった。国軍は多数の兵力を擁するが、その多くは固定された場所を警備しており、移動部隊の数は少なく、大規模な軍事作戦のために通常配備される軽歩兵師団の数が足りていない。

  2. 国軍兵士の士気が低い。クーデターに対する国民の怒りが広まったことでにより、軍人の家族の多くは仲間外れにされ、SNSで誹謗中傷に晒され、暴力的な攻撃を受ける危険に晒されれている。その結果、現場の将校はもはや任務を信じず、上官を信頼することもなく、部隊は決然と戦うよりも降伏や撤退を選ぶのが常となっている。一方、反国軍勢力側は意気軒昂で、自分たちの能力に自信を持っている。

  3. 反国軍勢力は、ドローンを使った斬新な非対称戦術を駆使しており、国軍はこれに対応できていない。

これらの要因が組み合わさり、国軍は有効な反撃をできていない。地形が平坦で、身を隠せる場所が少なく、経験豊富なEAOが存在しないドライゾーンでは優勢だが、それ以外の地域では敗走を続けている。例えばカレンニー州では、州都ロイコーの半分以上を反国軍勢力が掌握し、国軍は空からの補給に頼るしかない数カ所の要塞化された基地に立てこもっている。
国軍は、ほとんどの国境地帯の支配権を失い、国境貿易の中断による経済的損害と収入減、近隣諸国との関係の複雑化、一定の屈辱を味わっており、この傾向は不可逆的なように見える。

ミウアウンフラインの求心力低下

このような国軍の劣勢は、国軍最高司令官・ミンアウンフラインの求心力低下をもたらしている。国軍幹部たちは、かつてないほど率直に不満を表明し、外交官、地元のビジネスリーダー、ジャーナリスト、個人的な知人との会合において、ミンアウンフラインに対して不満をぶちまけている。

さらに一部の国軍派論者は、最高司令官の交代を要求している。あるブロガーは、ミンアウンフラインを無能呼ばわりし、副司令官ソーウィンが最高司令官の座に就くべきだと主張した。ある著名なナショナリストの僧侶は、1月16日、国防軍士官学校やその他の軍教育機関があるピンウールインで開催された集会で、ミンアウンフラインには、現在の情勢に対する対処能力がなく、民間人の役割に移るべきだと述べ、ソーウィンは「本物の軍人」だと語った。件の僧侶は、一時拘束された後、釈放されたが、国軍幹部などの有力な後ろ盾がない限り、このような発言を公の場ですることは考えにくい。

それにも関わらず、ミンアウンフラインは権力に固執しているようだ。国軍には最高司令官を解任する制度的メカニズムが存在しないため、いつ、どのようにミンアウンフラインが打倒されるかを予測するのは難しい。ミンアウンフラインは13年間、国軍最高司令官として、自分の権威を組織に押しつけ、忠実な将校を重要な地位に配置してきた。そのため、ミンアウンフラインはその地位を維持できるかもしれないが、国軍内部の不満の大きさを考えれば、体制内クーデターに直面する可能性もある。実際、4月10日には、有力な元将軍・ミンフラインが汚職容疑で逮捕されたが、情報筋によると、本当の理由は、彼が他の退役将校たちに、国家崩壊を避けるためには国軍最高司令官の交代が必要だと話したからだという。

とはいえ、ミンアウンフラインも自身に対する不満を宥める策を講じている。
2月10日、ミンアウンフラインは、長らく休止状態にあった徴兵制を実施するという重要な政策転換を発表した。これは、月間5,000人、年間6万人の徴兵兵を訓練することを目的としているが、士気が低く、訓練が不十分な兵士の小規模な投入に過ぎず、戦況を大幅に改善する可能性は低い。しかし、これは増兵を求める国軍内部の圧力に応えたものであり、ミンアウンフラインが、国軍幹部たちに対して、たとえ効果はなくても何らかの行動を取っているという政治的シグナルを送っているものと考えられる。

ただミンアウンフラインが辞任しても、内戦が終結する可能性は低い。クーデターとその後の暴力によって引き起こされた社会の二極化により、国軍幹部たちは、反国軍勢力と存亡をかけた戦いを戦っているという強迫観念に駆られている。ミンアウンフラインは優柔不断で国民の反対意見を封じこめる力がないと批判されることが多いため、むしろ彼の後継者は、さらに強硬な姿勢を取って、いかなる犠牲を払ってでも反国軍勢力を鎮圧しなければならないという主張を強化する恐れがある。

連邦主義と国家建設の課題

もっとも、NUG・PDFなどの民主派が期待しているのは、国軍最高司令官の交代ではなく、国軍崩壊である。 ここ数ヶ月の国軍の劣勢を見れば、彼らがそのように考えるのも無理はないが、その見通しは不透明である。

たしかに国軍は敗走を続け、兵士の士気は極めて低いが、今のところ部隊レベルの離反や指揮系統の崩壊には直面していない。また国軍は航空戦力、長距離砲、機動部隊による人口密集地やその他の標的への襲撃などを行える能力を十分に保持している。これらの手段によって、国軍は反国軍勢力による重要拠点を占領をある程度阻止することができる。ロシア、インド、中国が引き続き兵器を入手でき、ジェット燃料へのアクセスも西側諸国の制裁の影響を受けておらず、国軍が焦土作戦を実行する能力は十分にある。

以上より、国軍が完全な軍事的敗北を喫する可能性は低い。NUG・PDFなどの民主派は、ネピドー、ヤンゴン、マンダレーなどの主要都市を制圧することを望んでいるが、その目標は国軍がそのすべての権限を失い、優れた訓練と装備を備えたEAOから積極的支援を受けられた場合にのみ可能だ。

​​しかし、ほとんどのEAOは、国軍の中心地への攻撃には消極的だろう。理由は以下の2つ。

  1. 戦術的観点から困難。都市環境や平坦で開けた地形では、国軍は火力をより効果的に利用できるが、EAOが伝統的に活動する丘陵地帯ではそうではない。

  2. EAOは国全体を支配する意思がない。彼らの目的は、それぞれ民族の土地に自治的な支配権を確立し、統治構造を整備することにある。

・ビルマ族主体のNUG・PDFは「口を動かすばかりで行動しない」
・ビルマ族を信頼するのは難しい
・本当はスーチーも嫌い
・チン州から国軍を追い出せば満足。国軍を倒すのは他の誰かの仕事。
(チン防衛隊《CDF》の司令官)

【ミャンマー報告】2回続きの(2)

一部には、国境地域におへるEAOの自治区の出現を、ミャンマーの多くの人々が願う連邦民主主義への第一歩と考える向きもあるが、少なくとも一部のEAOの目的は、連邦民主主義下における権力分担とは相容れない。

各EAOが、交渉ではなく、自力で領土拡大に成功したことで、彼らの目的である自治権は手の届くところまで来た。交渉による自治権獲得であれば、、中央政府への譲歩が必要かもしれないが、自力となれば、将来的に妥協を受け入れる可能性はかなり低い。各EAOとNUG・PDFなどの民主派との間にはある程度の協力関係はあるものの、前者のビルマ族が多数派のNUG・PDFに対する歴史的不信感も依然として根強い。このような背景から、現時点でのありそうな話は、連邦制ではなく、準独立小国の乱立である。

例えば、国内でもっとも強力なEAOの1つであるアラカ軍(AA)は、ワ州連合軍(UWSA)がモデルにして、国家間同盟のような地位を獲得することを目標にしており、連邦制を拒否している。UWSAは、その領土がミャンマー国家の一部であることは認めているが、独自の行政システム、軍隊、警察、入国管理制度、司法制度、銀行、公共サービス、社会サービスの提供などによって、ネピドーからほぼ完全に自立してその支配地域を管理している。

シャン州では、1027作戦でコーカン自治区の支配権を取り戻したMNDAAも、連邦制の必要性を言葉で認めながらも、UWSAを模倣している。TNLAも、中国国境に繋がったことで、ミャンマー中央部からの貿易やサービスへの依存度が下がった「タアン州」として州の自治管理を目指している。

KNUやカレンニー州の諸勢力など、原則として連邦制民主主義のビジョンに賛成しているグループでさえ、そのようなビジョンと対立する発言や行動が増えている。ミャワディを制圧しようとしたKNUだが、の過去には資金力。軍事力ともに強大だったが、そのような都市を管理するコストと複雑さがメリットを上回ると考えて、今までそのような措置を取ったことはなかった。しかし現在、 KNUのスポークスマンは、ミャワディは計画中のカレン自治州に含まれ、カレン族の手に渡る必要があることを示唆する発言をしている。これはカレン族の土地全体を掌握するという彼らの目的について多くを語っている。

KNUのミャワディ奪還計画を阻止したカレン国境地域地域も、その支配地域をを「ワ州のような」自治区に発展させると話している。より民族主義的な意味合いを持つカレン民族軍(KNA)への名称変更は、カレン族の純独立国を樹立するという彼らの意思の表れのようにも思える。

こうした動きはEAOが支配する国境地帯だけではなく、マグウェ管区、サガイン管区、タニンダーリ管区などビルマ族が多数を占める地域でも現れ始めており、これらの地域ではビルマ族やその他少数民族からなるPDFや市民組織が自治区の樹立を目指している。

このような展開は、強力な軍に支えられたビルマ族中心の中央政府が少数民族を支配するという歴史的傾向の逆転である。仮に民主派が国軍に取って代わって新しい中央政府を樹立しても、すでに自治権を享受している各EAOが、多大な犠牲を払って獲得したその自治権を中央政府に譲り渡す必要がある連邦民主主義に賛同するとは思えず、軍隊を放棄する可能性はさらに低い。

中央政府の干渉を認めない自治区の集合体を連邦とは呼ばない。しかし、それが混乱を招く要因になるとも言えない。旧ユーゴスラビアのように中央政府が弱体化または崩壊すると暴力的紛争に陥った国とは異なり、ミャンマーはそもそも単一国家ではない。1948年の独立以来、国土の相当部分は中央政府から完全に切り離された各EAOの事実上の支配下にあった。 KNUやKIOなどの古くからあるEAOは、自らの領土と住民を管理し、サービスを提供して、相当の効果を上げてきた。こうした状況下では、EAOと中央政府との紛争が常に存在するにもかかわらず、政治、経済、市民社会の構造は機能しており、ミャンマーの崩壊を引き起こすことはなかった。

したがって、今後の展開は、破壊的な崩壊ではなく、長年の傾向の延長と拡大となる可能性が高い。もちろん、最も明白なのは苦境に立たされた国軍、そして領土主張や経済的利益が重複するEAOなど、多くの権力主体が暴力を行使し続ける可能性もある。しかし、ミャンマーの歴史を考えると、そのような力学が支配的になると信じるに足る理由はない。むしろ、数多の準独立小国が形成され、お互いに共存し、ある程度の安定を達成しながら、住民に基本的なサービスを提供する未来が一番可能性がある。

新しいミャンマーへの対応

現状では、EAOのような非国家主体が拡大し、少なくとも中期的には存在することになりそうだが、外国、援助機関、国連、非政府組織などの外部のアクターが、今後、ミャンマーの人々の生活に良い影響を与えたいのであれば、国家としてではなく、そのような非国家主体の集合体としてミャンマーと関わる必要があるだろう。

これは特にミャンマーの近隣諸国にとって重要な話である。中国は長い間、国境沿いのEAOやネピドーの双方と緊密な関係を維持することで、国境管理を実施してきた。ミャンマーの他の隣国であるタイ、ラオス、インド、バングラデシュは、クーデター後も、国軍が敗北する可能性は非常に低いと想定して、「国家以外の権力主体とは関わらない」という主権原則に則って、EAOなどの非国家主体と公式に関わることに消極的だったが、国軍の劣勢が露わになるや、その外交姿勢を変え始めている。

4月、ミャワディが一時的に陥落した後、タイのセター・タウィーシン首相は、ジャーナリストに対して、「国軍は負けつつある」と述べ、「国軍が取引を交わす時が来たのかもしれない」と語った。その後、当時のタイ外務次官シが、タイ当局がタイ国境で活動するKNUやその他のEAOと対話していることを明らかにした。バングラデシュも、アラカ軍(AA)が国境とラカイン州のほとんどの地域を掌握したことを受けて、ここ数カ月間、AAと安全保障協議を行っている。

これらの非国家主体に関与にあたっては、多くのEAOが活動資金を、天然資源の違法採掘、違法伐採、麻薬密売、オンライン詐欺などの違法経済に依存していることを考慮しなければならない。違法経済に従事していれば支援は不可能ということもあり得、各EAOには違法経済への従事を控える責任も生じる。

以上。

追記【2024年6月2日】

↑の著者・沖本樹典氏がXで持論を展開しています。当論考と重なる部分がありますね。

追記2【2024年6月2日】

もはや国軍にミャンマー全土を支配する力がないことが明白になった以上ーいや、過去にもそんなことは1度もなかったのだがー内戦の最終解は、件の”権力の均衡状態”しかありえない。即ち、ビルマ族のビルマ自治区、カレン族のカレン自治区、カチン族のカチン自治区、ラカイン族のラカイン自治区(ロヒンギャ問題を抱えるが)、シャン族のシャン自治区(有力EAOが複数あるが)、チン族のチン自治区、モン族のモン自治区である。

この均衡状態に達するためには、2つの障害がある。即ち、

  1. 「ミャンマーはビルマ族が支配すべき」とする大ビルマ主義に侵された国軍内の強硬派

  2. あくまでも連邦民主主義を目指すNUG・PDFなどの民主派(こちらもビルマ族中心)

である。ちなみに1と2はコインの裏表、似た者同士である。違いは国軍に転んだか、民主派に転んだかというだけ。

「自分たちは、軍事政権の連中と同じじゃないか」「ミャンマーでの生活も教育も―そしてカトリックという宗教でさえも―権威への服従と従順の美徳を教え、人々から自分で考える自由を奪ってゆく。そのような生活を送って来た自分たちは、反乱に身を投じて、自由を手に入れても、自分で考えることができず、まさに軍事政権と同じように、スローガンを叫び、そうすることによってスローガンがすぐにでも実現できると信じるのだ。自分で作ったプロパガンダが、 自分の中で現実になる。これこそは、『幻影の政治(Politics of Illusion)』とでも呼 べるもので、自分たち反乱学生も同じ自己欺瞞に満ちた幻影の政治をしている。ただ、 軍事政権側か、反政府かというのが違うだけだ」

クーデター後のミャンマー(1)

2の民主派は、障害にはなっても脅威ではない。現在、存在感を示しているPDFは、すべていずれかのEAOの傘下に入っている組織で、それ以外の組織は慢性的な資金不足と兵器不足に陥っており、ドライゾーンでは野党化して、殺人、強盗、強姦など悪逆の限りを尽くしているPDFも数多存在する。

だから仮に各EAOがそれぞれの自治区に留まり、国軍打倒を目指さないことに不満で、その傘下を抜けたところで、PDFはたちまち資金不足と兵器不足に陥り、犯罪集団にはなれるかもしれないが、政治的・軍事的には無力な存在と化す。NUGは言わずもがな、今や国民の支持さえ失った社会民主主義仮想空間亡命政府に過ぎず、誰からも相手にされていない。

ところが、1の国軍強硬派は違う。

現在、キーとなっているのは、②カレンニー連合軍のロイコー攻防戦と③アラカ軍(AA)のシットウェ攻防戦である。それぞれEAO側が制すれば、カレンニー自治区、ラカイン自治区の実現が現実味を帯びてくる(たとえ制さなくても、行政・法律制度は整えていくだろうが)。

が、そうなると、ミンアウンフラインの首が危うい。軍人は領土の喪失を何よりもの屈辱と考える人種らしく、カレンニー州やラカイン州の州都を失ったとなれば、今でさえ彼に不満を溜めこんでいる強硬派が黙っているとは思えず、なんらかの”行動”を起こす可能性が高い。具体的に言えば体制内クーデターである。

仮にミンアウンフラインがその政争を一旦制しても、すでに求心力が極限まで低下している彼が、実質、各EAOの自治区を認めることになる停戦合意を結べるとは思えない。逆に停戦合意を結ばず内戦が長引けば、彼の求心力はますます低下し、そうなれば、結局、彼は国軍最高司令官の地位を維持できなくなるのではないか。そして穏健派の彼の次に穏健派が来るとは思えず、いずれにしろ国軍強硬派の台頭は避けられないように思える。そしてそれは、”権力の均衡状態”が遠のくことを意味し、いずれにしろ、この状態を実現するには、まだまだ紆余曲折があり、時間がかかるということである。

強硬派が主導権を握った国軍は、失地回復を図り、空軍力を頼みに各EAOの支配地域に空爆・砲撃を行うだろう。内戦は長期化の様相を呈し、おびただしい犠牲者・避難民が出ること必至。つまり現状の持続、ないしは悪化である。

そうなると、今度は、リントナーに言わせれば「コントロール可能な混乱」を望んでいる中国が黙っていない。ミャンマー国内にパイプライン、鉱山他さまざまな利権を有している中国は、このミャンマーの現状を苦々しく思っているはず。先鋭化した国軍に対抗するため、ワ州連合軍(UWSA)を通じて、各EAOに兵器を供給し、内戦はますます激化の無限ループに陥る。沖本氏の言う「AAの大将が『中国の支援を受ければ』と、 ネピドー進攻に言及したのも単なる脅しと取れない意味がある」というのは、つまりこういうことである。

仮にEAO連合軍が国軍を打倒すれば、おそらく国軍穏健派を首班に据えた中国の傀儡政権が樹立され、ようやく各EAOと停戦合意を結び、平和が実現する……が、そこに残されているのは東南アジア最底辺にまで落ち込んだ経済、瓦礫の廃墟となった町、売春で金を稼ぐことを覚えた少女たち、四肢を失った男たちである。復興は容易ではなく、結局、ミャンマーは中国の経済植民地になることは免れまい。

以上のシナリオがどこかで破綻し、早急に”権力の均衡状態”=平和が達成されんことを願ってやまない。

以上。

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