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ミャンマー内戦⑧アラカ軍(AA)によるロヒンギャ小虐殺


国軍によるロヒンギャに対する人権侵害

現在、ミャンマーのラカイン州では、国軍とアラカ軍(AA)(最近、アラカン軍から改名)が激しい戦闘を行っています。

その際、国軍がロヒンギャを強制徴兵して、「人間の盾」に利用していると各所から非難の声が上がっています。

実際、3月中旬には、国軍に徴兵されたロヒンギャの若者97名が戦死したという報道がありました。もっともこれは人間の盾として利用したというより、彼らが川を渡ろうとしていたところをアラカ軍(AA)が襲撃したということのようです。

また強制徴兵だけではなく、アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)、アラカン・ロヒンギャ軍(ARA)、ロヒンギャ連帯機構(RSO)などのロヒンギャの武装組織が国軍の配下に加わったと報道されています。国軍と敵対するアラカ軍(AA)が、ロヒンギャに対する憎悪を募らせるには十分な状況と言えるでしょう。


アラカ軍(AA)によるロヒンギャに対する人権侵害

伏線

それどころか、日本のメディアはまったく報道せず、ミャンマーの民主化を支援する議員連盟も沈黙していますが、実は国軍だけではなく、アラカ軍(AA)によるロヒンギャに対する人権侵害が発生しているという声が上がっているのです。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの2月のレポートにも、アラカ軍(AA)がロヒンギャを人間の盾にしている様子が描かれています。

30歳の村民は「アラカ軍の兵士が突然私たちの地域に入り込み、村のあちこちで部隊を展開し始めた」「その直後、国軍が放った3発の砲弾が私たちの地域に落ちた。砲弾のうち1発は地元の市場で爆発し、4人が重傷を負った。別の砲弾の爆発で6人が負傷し、3発目で3人が負傷した」村人たちがアラカ軍に、彼らの存在が自分たちの安全を脅かしていると訴えると、兵士たちは命令を受けたら立ち去ると言った。「私たちロヒンギャは、両者の間に挟まれ、死に瀕しているのです」と村人は語った。

Myanmar: Rohingya at Risk in Rakhine Fighting

伏線はありました。

アラカ軍(AA)が国軍のロヒンギャ徴兵を非難する声明の中で「ベンガル人(Begali)」というロヒンギャに対する蔑称を使用したことに対する主にロヒンギャからの非難に対して、アラカ軍(AA)のリーダーであるトゥミャーナイが「ベンガル人を『ベンガル人』と呼ぶことに何も問題はありません。彼らは何世紀にもわたって私たちの隣人、友人、そして同胞でした。正直になってこの現実を受け入れ、より良い未来を築きましょう」と抗弁。あくまでも彼の見解は「ロヒンギャはミャンマーの原住民にあらず」で、これは国軍と同様の見解です。

また2018年~2020年にかけても国軍とアラカ軍(AA)との間で激しい戦闘が繰り広げられていたのですが、ジェトロのレポートには、当時、国軍・アラカ軍(AA)双方に重大な人権侵害があったとの記述があります。

1 年間を通じて、ヤカイン州北部全域とチン州南西部で襲撃や戦闘が繰り広げられ、数万人規模の国内避難民が発生するのみならず,国軍と AA の双方が民間人をも巻き込んで相手側の人員や協力者と目される人物を逮捕・拉致・拘禁したり殺害したりする状況が生まれた。

2019年のミャンマー 内憂外患を抱えつつ,総選挙へ助走

さらに2020年にジャーナリストの北角裕樹氏が、アラカ軍(AA)による、ラカイン州に住む少数民族、ムロ族に対する強制徴兵があったというレポートを書いています。現在もアラカ軍(AA)はムロ族を強制徴兵しているという報道もありました。

アラカン軍が強制的な徴兵を行なっていることから、兵士にさせられてしまうことを恐れて逃げる男性も少なくない。ブーディタウン近郊の村を夫婦で脱出した農民の男性(24)は、村の代表者にアラカン軍が指示して作成させた「徴兵候補者リスト」に自分の名があることを知り、脱出を決意したという。このほか、若い女性は性的虐待の対象になりかねないことから、優先的に避難させているという。

内戦に揺れるミャンマーの少数民族ムロ 

いずれにしろ、アラカ軍(AA)の人権感覚のレベルが知れるというものです。

現地の声

3月中旬頃からぽつぽつ上がり始めた、アラカ軍(AA)によるロヒンギャに対する人権侵害の声を拾ってみましょう。

「まずアラカ軍(AA)が国軍を攻撃するためにロヒンギャの村に入り、その後、国軍が爆弾を使用して空爆し、村を焼き払った」

「まさに。アラカ軍(AA)は常にロヒンギャの村で待ち伏せをしている」

「ラカイン州の平和と安定を回復するために、アラカ軍(AA)は国際人道法と人権法を含むすべての適用法を遵守する必要があります。ブティダウン、マウンドー、ラティダウンでアラカ軍(AA)によって行われた脅迫は、これらの法律に違反しています」

4月17日はアラカ軍(AA)が、殺害したとされるロヒンギャ男性5人の遺体の動画がSNSに出回りました。また4月29日には、ロヒンギャ連帯機構(RSO)が、アラカ軍(AA)の兵士がロヒンギャ男性を惨殺しているとする動画を公開しました(両方とも残酷動画のためかリンクを埋め込めないので、リンク先を参照のこと)。

識者の声

事ここに至れり、識者たちも声を上げ始めました。

「アラカン軍(AA)は平和共存ではなくテロの道を選んだ。彼らはロヒンギャを絶滅させるために国軍のあらゆる手法を模倣している。絶対否定、嘘、非難、放火、殺害、拉致、誘拐、麻薬密売、身代金、放火、ヘイトスピーチ、フェイクニュース、扇動、暴力、人間の盾のための強制徴用…間違いない。さあ、行動の時だ。国際社会はアラカン連合/アラカン軍(ULA/AA)を麻薬密売組織およびテロ組織として指定すべきです。そしてジェノサイドを遅滞なく防ごう!」
(元ラカイン州州議会議員のロヒンギャ男性)

「アラカ軍(AA)は、18歳未満でまだ学校に通っているロヒンギャの若者たちも含め、強制的に徴兵している。村人たちは食費や生活費をクラウドファンディングで調達することを余儀なくされている。この事態は1週間以上続いているが、メディアや人権団体は報道していない」
Wikiもある著名なロヒンギャ人権活動家)

「ブティダウン郡とマウンドー郡では、アラカ軍(AA)が国軍を打ち負かしている中、ロヒンギャの超法規的殺害、大量逮捕、強制徴兵、強制移住に関与しているという報告があり、私は非常に警戒しています」
Wikiもある著名なミャンマー人人権活動家)

またNUG支持者で、コックスバザールの難民キャンプで教師を務めるロヒンギャの詩人の人物が、ロヒンギャの人々が国軍とアラカ軍(AA)双方に徴兵されており、ジェノサイド第2波に直面していると訴えています。

またアメリカ平和研究所(USIP)のレポートで、アラカ軍(AA)の徴兵を否定したJessica Olney氏も、その後の情勢変化を踏まえ、見解を軌道修正しています。

「RSO の AA に対する公の態度は急速に変化したようです。これは、私たちがこの記事を書いたときからの変化です。また、少なくとも限られた地域 (ラカイン州) では、AA が実際にロヒンギャの募集を開始した可能性があるとも聞いています」

アラカ軍(AA)によるロヒンギャ虐殺を黙殺するミャンマー民主派

一方、民主派仮想空間亡命政府・NUGはこの事態に対して、表立った声明は出していません。またNUG初のロヒンギャ閣僚の人物は、事態を憂慮する声明を出しつつも、アラカ軍(AA)に言及することを避けています。

「ラカイン州からの報告は、非常に憂慮すべきものであり、非常に心配です。ロヒンギャ族は、この不安定な状況で最も脆弱であり、再びその犠牲を強いられています。民間人(ロヒンギャ族、 ラカイン族やその他の少数民族)は保護されなければならず、加害者は民間人に対する犯罪の責任を負わなければならない」

また今年ノーベル平和賞の候補にも上がっているマウンザーニ(Maung Zarni)という、2017年のロヒンギャ危機の際には率先して行動したミャンマー人人権活動家は、アラカン軍(AA)のロヒンギャ小虐殺に言及せず、民主派の責任も認めない挙げ句、ロヒンギャに対して「敵対者に殺されるのを待つ丸腰のカモになるか、武装して自分のコミュニティを守れるかのどちらかだ」と決断を迫っています。これはロヒンギャを見殺しにしているに等しい発言です。

前述したように、このような事態に対して、日本のメディアはまったく報道せず、ミャンマーの民主化を支援する議員連盟も沈黙していますが、それ以外にも、前述の北角裕樹氏、『Light up Rohingya』という映像作品まで作っている久保田徹氏、クーデター後一貫して民主派支援を貫いている東京新聞の北川成史氏などのミャンマー民主派シンパの日本人も事態を黙殺しています。『ロヒンギャ 差別の深層』という著書もある宇田有三氏は、自著の書評の宣伝のみ。

唯一、ロヒンギャを撮り続けている写真家の新畑克也氏が発信しているのみです。

結論

ミャンマー民主派およびそのシンパが、頑なに事態を黙殺しているのは、「NUGが少数民族武装勢力と協力して民主主義社会を作る」という”大義”の下で戦っているところ、その少数民族武装勢力の一角、しかも現在もっとも活動的な武装組織であるアラカ軍(AA)が、ロヒンギャを虐殺しているとなれば、その大義が崩れるからでしょう。

とはいえ、アラカ軍(AA)のロヒンギャ小虐殺に対する反応は、民主派内でもさまざまで、事態がエスカレートすれば、民主派の分裂を招くおそれが高い。そして国際社会・メディアが事態を黙殺している現状、アラカ軍(AA)は躊躇なく暴力をエスカレートさせるでしょう。

結局、ミャンマー人のロヒンギャに対する差別意識は、クーデター後でもあまり変わるところがなかったようです。

「1988年に在日ミャンマー人協会が設立された当初、ロヒンギャが書記長を務めるなどしていたが、2000年以降、ミャンマーの政情が落ち着くと、在日ミャンマー人の間に『ロヒンギャはミャンマー人ではない』という認識が浸透し、表だった迫害こそ起きていないが、ロヒンギャは排除されるようになった」「ロヒンギャは他のミャンマー人に比べて圧倒的にビジネスがうまい。それ故の嫉妬や妬みも背景にある…ラカイン州でも軍政下では多くの国民が自由を奪われ、貧しい生活を余儀なくされていた中、商才を発揮したロヒンギャたちが裕福な生活をしているのを妬みの目で見るミャンマー人は少なくなかった」

ロヒンギャを襲う21世紀最悪の虐殺(後編)

追記(2024年5月9日)

民主派シンパのアカウントがアラカ軍(AA)報道官の声明を翻訳しているが、現地情報では、難民キャンプで徴兵しているのは、国軍と協力関係にあるとされるロヒンギャ連帯機構(RSO)という武装組織だと伝えられています……が、彼らがアラカ軍(AA)を騙る理由は何もありません。ロヒンギャはアラカ軍(AA)にも良い印象を抱いておらず、アラカ軍(AA)の徴兵であれば、やすやすと応じるという事情がないからです。おそらくRSOは自分たちと国軍のために徴兵しているでしょう。
このポストには、あくまでもロヒンギャの人権侵害に対する責任を国軍に全部負わせて、民主派の無垢イメージを守ろうとしている意図があるのでしょう。

またロヒンギャの識者がアラカ軍(AA)のロヒンギャに対する人権侵害を告発すると、民主派ミャンマー人が反論するという光景が繰り返されています。

「アラカ軍(AA) が彼らを誘拐したと確信していますか? アラカ軍(AA)に扮したロヒンギャ・ギャングと国軍が、ロヒンギャの村人たちを誘拐しているのです。 アラカ軍(AA)が理由もなく 50 歳の(ロヒンギャの)知的障害者を誘拐するわけがありません。 アラカ軍(AA) は(ロヒンギャ)全員と良い関係を築こうと懸命に努力しています」

「これらの情報が真実だとは思えません。ヨーロッパに住んでいる人が、インターネットや電話回線にアクセスできない状態下の複雑な現地情報を具体的にどうやって知ることができるのでしょうか?フェイクニュースの投稿はやめてください」

追記2(2024年5月9日)

ロヒンギャ連帯機構(RSO)のリーダーがインタビューに応じています。

①難民キャンプの訓練された若者だけを徴兵している。一般市民や未成年者は対象外。
②徴兵しているのはロヒンギャ連帯機構(RSO)とアラカン・ロヒンギャ軍(ARA)だけ。アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)はやってない。
③国軍やアラカ軍(AA)に引き渡すことはない。アラカ軍(AA)のプロパガンダに騙されないでほしい。
④現在の兵力は6~7000人

Acknowledgment from Ko Ko Linn: Apprehending Rohingya Youth a Targeted Operation by RSO and ARA

正直、①と④は怪しいですが、別にアラカ軍(AA)を騙って徴兵しているわけではなさそうです。

追記3(2024年5月13日)

・国軍が徴兵したロヒンギャは数千人。ほとんどが強制だが、AAへの憎悪と報酬に釣られ自主的に入隊した者も。
・これにAAは激怒。以来、双方の間で拉致拘束・殺人・放火事件発生。
・RSOは難民キャンプで数千人のロヒンギャを徴兵
・ロヒンギャ武装組織を抑えないと大虐殺必至

War in Western Myanmar: Avoiding a Rakhine-Rohingya Conflict

追記4(2024年5月27日)

ついに国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が、アラカ軍(AA)と国軍双方がイロヒンギャを迫害しているとする非難声明を出しました。

国軍が長年ロヒンギャを迫害してきたと追及しつつも、今回は「アラカン軍と国軍双方がロヒンギャを攻撃している」と指摘。ブティダウンの町では、国軍が撤退してアラカン軍が占拠を主張した後に焼き打ちが発生しているとされており、情報を精査しているという。

またNUGに対する批判も。

ラカイン情勢を巡っては、軍政に対抗しようとする民主派政治組織「挙国一致政府(NUG)」が21日、国軍が民族間対立をあおっているなどと非難した。ただ、アラカン軍への言及がなく、X(旧ツイッター)上では「挙国一致政府は現場を知らない」などと疑問を呈する声が上がっている。

追記5(2024年5月28日)

国連の「UN GENEVA PRESS BRIEFING」によると、

・ブティダウンの焼き討ちは、国軍が町から撤退し、アラカ軍(AA)が全権を掌握したと主張した2日後の5月17日から始まった。
・生存者情報によると、「町から出るときに何十体もの死体を見た」「AAによって町から出るのを阻まれ、より危険な出口を選ばなければならなかった」「AAは生存者を虐待し、金を巻き上げた」。
・AAによる斬首事件が少なくとも4件確認されているほか、複数の強制失踪者がいる。

追記6(2024年6月1日)


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