見出し画像

ミャンマー内戦④NUGは行方不明?1027作戦の政治学


1027作戦の成功

「私たちはただ傍観して拍手しているわけではありません」と国民統合政府(NUG)のネーフォンラット報道官は、11月5日、NUGと提携関係にあるパブリック・ボイスTVに語った。「NUG設立以来、私たちは少数民族武装勢力(EAO)と軍事的・政治的合意を継続的に結ぼうと努力してきました。今はその成果を目の当たりにしているところなのです」

成果とは、シャン州北部の3つのEAOのによる同胞連合(北部同盟)とNUGの国民防衛隊(PDF)のいくつかの部隊共同の電撃作戦、1027作戦のことである。このような動きが連鎖していることから、国防・情報機関ジェーンズのアナリスト・アンソニー・デイヴィス氏は「(政権が)チェックメイト状態に陥る可能性があり、”合理的な軍事事業”としての戦争は終わるだろう」と予測している。

1027作戦に参加したビルマ人民解放軍(BPLA)のスポークスマンであるリンリン氏もネーフォンラット氏の意見に同調した。「春の革命に参加する民族の盟友とグループ間の関係強化があったからこそ、このような攻勢が生まれ、多くの成果を上げることができたのです」

EAOの優位性

しかし、最近の戦闘への参加者は多岐にわたるが、EAOは重要な指導力を発揮し、NUGをはるかに上回る軍事計画と戦略の能力を示した一方、PDFの大隊は重要な人員を提供しながらも、EAOの指揮官が定めた目的に奉仕するジュニア・パートナーにすぎなかったのである。

このような従属関係は、民族国家全体で再現されている。カチン州では、NUG国防省とカチン独立軍(KIA)が共同指揮体制を取っているが、バモ地区のカチンPDFのメンバーは、自分たちのグループはほとんどKIAの影響下にあると語った。「州のほとんどすべてのPDFはNUGよりもKIAの影響を受けています」

このような指揮系統は意図的なものと言える。2021年のクーデターに対する蜂起が始まって以来、EAOは「自分たちの領土内の抵抗勢力はすべて自分たちの指揮下に入らなければならない」と主張してきた。NUGはこれに異議を唱えず、ゆえにEAOは共同指揮体制における優位性を認められている。ただしEAOの支配力が弱いタニンタリーのような地域でさえ、PDFはEAOの助力なしでなんとかして目的を達成してはいる。

最近タニンタリーを訪問した際、PDFのメンバーは、カレン民族解放軍(KNLA)・第4旅団のリーダーシップのおかげで、4月にタイ国境のモータウンをユニオンハイウェイと結ぶ戦略的道路を確保することができたと語った。しかし、有利な交易路を確保したことで、第4旅団はこれ以上大規模な攻撃を仕かけることに消極的になり、州内の抵抗の進展を阻害しているとPDFメンバーは述べた。PDFのメンバーは、KNLA第6旅団がより戦闘に熱心であったため、北部のカイン州とモン州ではるかに大きな利益が得られたと説明した。「もしKNLA第4旅団が私たち抵抗勢力を全面的に支援すれば、私たちは簡単に都市を占領し、地域全体を迅速に解放することができたはずです」

タアン民族解放軍(TNLA)と一緒に戦っているマンダレーPDFのメンバーは、EAOのリーダーたちには数十年の経験(3年未満しか戦っていないPDFに比べて)と、はるかに優れた指揮統制システムの両方があり、不可欠な存在であると述べた。「彼らは兵士が命令に従うよう入念に訓練している。これによってより多くの成功を収めているんです。春の革命軍(PDF)の一部はそうではない」

厳格な規律と明確に定義されたヒエラルキーは、1027作戦のような作戦の成功に不可欠である。マンダレーPDFのメンバーも「このような作戦の鍵は秘密の軍事的準備にあります。情報を漏らさないことが非常に重要なんです」と同意する。しかし彼は、NUGは地元の軍隊に対する必要な統制を欠いているため、NUGが根拠地としているサガイン管区とマグウェイ管区でこれを確保するのは難しいだろうとも述べた。

これらの地域の武装抵抗勢力は、ほとんどが自然発生的に結成されたもので、後にNUGからの様々なレベルの監督権を受け入れたに過ぎない。リンリン氏は「これらのグループがすべて、NUG国防省のような単一の組織の命令に従うかどうかは疑問だ」と述べた。

サガインのインマンビン地区にあるPDF大隊のリーダーは、規律と団結力の欠如に加えて、秘密主義の大きな障壁は、地元の抵抗勢力が一般の寄付金に依存し続けていることだと語った。「サガインでは、各グループが自分たちの活動を人々に知ってもらうために(ソーシャルメディアに)ニュースを投稿し続けているようなことが起きています。そうすれば寄付金が集まりますので。クラウドファンディングが大半を占める戦争では、自分たちの活動を定期的に広報しないグループは損をします」

同じことがNUGがより広範に戦略を練る能力を制約している。NUGも同様に海外のディアスポラからの寄付に頼っており、そのため大規模で多面的な攻勢に必要な軍需品の備蓄や兵力の温存よりも、たとえ漸進的であっても、組織が前進していることを示すために迅速な成果を求めがちである(訳者注:寄付金を集めるために”勝利”を演出しがち)。これとは対照的に、EAOは合法・非合法を問わず、主に課税や事業・貿易の運営によって資金を調達しているため、より大きな戦略的忍耐力を発揮することができる。一部のPDFは、ギャンブルや伐採などの収入源を利用し始めているが、これはしばしば物議を醸し、NUGやその地方組織からの叱責を招いてさえいる。

NUGはPDF部隊に直接資金を提供し、装備を整えることで、指揮系統を強化し、執拗な宣伝の必要性を減らすことに成功した。しかし、インマビンのPDF指導者は、この支援は地元の監督不足のためにしばしば誤った配分がなされていると述べた。

「NUG国防省は、大隊コードを付与したグループに毎月800万ks(2400$)を支給している。しかし、現地で定期的に戦闘を行っているにもかかわらず、コードを受け取っていないグループも多く、逆に大隊コードと月800万ksを受け取っているにもかかわらず、戦闘を行わないグループもある。車を買うために横領しているグループさえある。このような事態を避けるため、NUGは地区や町村レベルに監督チームを編成すべきだが、現在、彼らは現場の事実をチェックすることができないため資源が無駄になっている」

またNUGが設置した人民管理チーム(PAT)と呼ばれる地方政府機関は、PDF大隊をある程度監督することが業務だが、「ほとんどのPDFはPATと調整することなく独自に行動しており、PATが武装したPDF戦闘員に対して権力を振るうことは不可能な場合が多い」とも述べた。

こうした課題は根深いため、NUGは当面、軍事的にEAOに依存し続ける可能性が高い。政治的目的が一致する限り、これは問題ではない。かつてビルマ共産党のために戦った政治アナリストで作家のタンソーナインは、異なるグループが同じ目標のために戦っている場合、指揮権の問題は政治的問題ではないとまで言っている。

「様々な勢力が統一された方法で国中の国軍を攻撃している。誰が上で誰が下かということではなく、協調の精神で共同指揮システムが実施されているのだ」

NUGの優位点

とはいえ、戦争中に誰が誰の上に立つかという問題は、否応なしに政治を形作るものだ。ただNUGとEAOの関係は完全に一方的なものではない。NUGの武力不足は、間違いなくその政治的影響力で補われている。NUGは、ミャンマーの多くの人々、そしてディアスポラの人々が、NUGに対する不満がどうであれ、自分たちの正当な政府だと考えている組織なのだ。

NUGと同盟することで、EAOはミャンマー主流派からの支持を得ることができる。ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)(1027作戦を牽引した中国系少数民族武装勢力)は、2015年、主流派の意見に逆らったことでこの後ろ盾の重要性を痛感した。その年、MNDAAはシャン州北部のカジノの町・ラウッカイを襲撃したことで、この「中国の侵略者」と戦っていると広く見られたミャンマー国軍への民衆の支持が高まったのだ。

NUGはまたアメリカやヨーロッパなどのエリート政治家たちと会えるグローバルなプレーヤーでもある。紛争アナリストのアンソニー・デイヴィスは「NUGと協力することで、EAOは国際的な発言力と国際的なプレゼンスの利益を得ている。ジン・マー・アウン外相がワシントンやパリにいるとき、彼女は重要な民族的要素を含むと広く理解されているNUGの代弁者だ。TNLAはワシントンDCに事務所を持ていないが、NUGには事務所がある」と述べる。

物理的な考慮もある。NUGに協力することで、EAOはNUGが調達した資金を利用することができる。またヤンゴンやその他の都市から、技術に精通した若者で構成されるドローン操縦士チームの派遣を受けることもできる。EAOはすでにこの技術を活用していたが、NUGとEAOの共同指揮下にあるドローンチームは、ウクライナ戦争を彷彿とさせる強力な攻撃を仕かけており、軍にとって斬新な脅威となっている。

EAOの優先順位

しかし相互依存の度合いこそあれ、EAOの軍事的優位は疑う余地がない。さらに武力による政権打倒が目的である限り、最終的にはEAOのハードパワーの方がNUGのソフトパワーよりも重要である。したがって、政治的目的が実際に一致しているかどうかを検証することが重要だ。

ここで当面の優先順位という点では、懐疑的になる理由がある。EAOは最終的に自らの民族コミュニティからの委任を受け、地元の経済活動への課税から収入を得ているため、領土を固めたいという願望は、たとえこれらのグループが春革命に同情的であったとしても、論理的には連邦レベルの目的よりも優先される。資源が有限である以上、優先順位は重要だ。

北部同盟がネピドーはおろかマンダレーへの進軍を指揮することはまずないだろう。NUGがEAOに依存しているということは、それゆえに政権中枢から政権を速やかに追い出そうという野心を挫くことになりかねない。しかしEAO主導の連合軍に戦略的に重要な国境地帯を奪われ、ミャンマー中央部でPDFの継続的なゲリラ活動が続き、軍の士気の危機が重なれば、政権を屈服させるか、あるいは少なくとも交渉のテーブルにつかせるのことができるかもしれない。

EAOの発言力の増大

いずれにせよ、政治的同盟関係を強固なものにするという重い仕事は、これまで以上に重要になる。北部同盟や他のEAOは、春の革命の勢力との連帯を表明しているが、これを当然視することはできない。EAOが政権打倒のために全面的に資源を投入したり、中央政府と州政府の間で必然的に権限が分担されることになるポスト国軍連合への参加に同意するためには、詳細な連邦の青写真についての合意が必要だろう。

活動家グループのゼネスト調整体(GSCB)の主要メンバーであるナンリン氏は、最近の戦闘によって生じた興奮と勢いは、より緊密な同盟関係を築く好機であると述べた。「1027作戦は多くの勝利を収め、春の革命は次の段階に達しました。国民の士気は急上昇し、国軍は崩壊しつつあります。このような状況で必要なのは、政治的合意であり、本当に団結した政治体制です」

連邦制をめぐる議論が抽象的なものから詳細なものへと移っていく中で、EAOは厳しい駆け引きを展開することが予想される。デイビスは、反クーデター闘争が始まって以来、EAOは不可欠な存在であり、1027作戦はその点をさらに強調することになったと述べる。このことは、EAOが必然的に手ごわい交渉の相手になるということである。

「EAOはビルマ族の抵抗勢力を救出し、支援して以来、ますます重要な軍事的役割を果たすようになりました。仮に国軍が敗北し、銃撃戦が止むとすれば、ミャンマーの連邦制または連邦制の将来の形と範囲を決定する上で、主要な民族グループが圧倒的な発言力を持つことになるでしょう

NUCCの機能不全

国家統一諮問評議会(NUCC)は現在、連邦制をめぐる審議の場であり、一部のEAOや市民社会組織、政党、ストライキ委員会などのメンバーにより新憲法を起草している。

しかしNUCCは完全に機能不全に陥っている。その限られた成果の中には、市民的不服従運動(CDM)に参加していない公務員に対する処罰を概説した政策が含まれているが、これは大いに批判された。さらに昨年1月にNUCCによって開催された人民会議は、半年ごとに繰り返されることになっていたが、一度も再開されていない。さらに国民民主連盟(NLD)、カチン政治暫定調整チーム、シャン民族民主連盟といった有力グループの離脱は、評議会の目的を損なっている。

NUCCに参加するCDM教育グループのメンバーは、これらの団体の離脱は、NUCCが意図する機能の一つであるNUGの規制という能力にさえ疑念が生じていると述べた。「もう一つの問題は、NUCCが何をやっているのか国民に明かさないことです。透明性がない。人々はNUCCが何であるかさえ忘れてしまっている。NUCCは現在、その責任を果たせていません。組織の目的は①共通の敵を打倒する方法に関する戦略的合意②その後の政治的移行の準備③将来の連邦統合の基盤となる原則という3つの要素を備えた政治的道筋を考案することなのですが」

一方、NUGは、特に地政学転換の只中にいる現在、その国際的な権限をもっと有効に活用することができるだろう。前回の『Political Insider』で述べたように、中国が1027号作戦に同意したのは、国軍が中国国民をターゲットにしたオンライン詐欺を取り締まらなかったからだ。今年初め、中国は北部同盟に圧力をかけ、政権との和平交渉に参加させ、シャン州北部の中国国境が比較的静かな状態に保たれるように促した。北京がこれらの強力なグループに対して影響力を持つことを考えると、北京は紛争の行方に影響を与える独特な立場にあると言える。

シンクタンク・国際危機グループのミャンマー上級顧問であるリチャード・ホーシー氏は「NUGは中国戦略を必要としている。つまり公的な声明と静かな外交だ。中国は現在、NUGを欧米寄りの組織と見ており、この地域の現在の地政学的対立を考えるとこれは危険な兆候だ。ただNUGは基本的に政治組織なので、国軍が崩壊したときのための政治戦略を練っていなければならないが、その兆候は見られない

政権交代がまだ先のことだとしても、特にこのような流動的な紛争においては、計画を立てることは重要である。もしも勝利が目前に迫っているとしたら、NUGとその同盟はその準備ができているだろうか?


NUG: Missing in Action? The politics of Operation 1027


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?