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アメリカ留学日記/さようなら、わたしのホーム

昨日の夜は疲れすぎて友達とバンパイアダイアリーを見ながら寝落ちしてしまった。友達は、寝落ちしたわたしを見てリラックスミュージックをかけ、一階に置き忘れた携帯を取ってきて充電までしてくれたらしい。本当に優しい。

朝5時くらいから二度寝を繰り返し、その間にパッキングが間に合わなくてドタバタする悪夢を見た。結局7時半に起きて、スーツケースの計量を繰り返す。それぞれを23kg(50パウンド)以内に納めるために、いくつかのものを手放した。京都で買った香水、アイボン、コンタクトの液、折り畳み傘、その他もろもろ。
アートのクラスで描いた16×20インチの自画像は、なんとかスーツケースに入った。

地下の部屋で荷物と格闘していたら、友達のお父さんがやってきてコーヒーいる?とスペイン語で聞いてくれた。その友達のお父さんはスペイン語しか話さない。”Cafe”だけ聞き取れたので、お願いします!と言って一階にあがる。そのお父さんは、直接口にはほとんどしないけど、愛情は行動で見せるタイプの人だ。ピュアで濃いコーヒーに、お砂糖をたっぷり入れていただく。Thanksgivingの日にお邪魔した時に、思わず「養子にしてくれますか」と口走ったほどに美味しいコーヒー。フライパンで作ってくれたサンドイッチと一緒に味わいながら、お礼の気持ちを込めた友達家族の似顔絵をクレヨンで描いた。

泊めてくれたお礼に描いた、友達家族の似顔絵

そんなこんなで9:30ごろ、空港まで送ってくれる友達が到着して、友達とお父さんに最後の別れを告げる。Hasta Luego. どうぞ元気でいてねという思いを込めて、力いっぱいにハグをした。さようなら、またいつか。

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迎えにきてくれた友達は、一週間前まで一緒にロードトリップした人だった。ボストンローガン空港に向かう車中は、そのロードトリップを思い出すように、道中何度も聞いた音楽をかける。その友達が運転しながら口ずさむときの声がなんだか好きだった。フランク・シナトラの”My Way”。「後悔もそりゃあるけど、わたしは私のやり方で、精一杯やり切った」。まさに留学を終えた今の感覚を歌っているようだった。ふと見上げたフロントガラスからの空があまりにも真っ青で、雲が生き生きとしていて、ようやく旅立つんだという実感が湧いてきた。さっき別れた友達から携帯に優しいメッセージが届く。目頭が熱くなった。


空港にて、一緒に旅したスパイダーマン。

1時間半くらいで着いたボストンローガン空港。去年の8月にここに初めてきた時は、右も左もわからず恐怖でいっぱいだったのを思い出す。マサチューセッツの西部の大学に通った自分にとって、同じ州の東に位置するボストンは、私のお姉ちゃんが昔いた場所であり、中高時代日本でずっと憧れてた場所であり、「クールないとこ」みたいな距離感だった。ここはアメリカでわたしを最初に迎えてくれた場所であり、最後に見送ってくれる場所でもある。送迎レーンに着き、スーツケースをおろしたあと、友達は「きっとこれが君にしてあげられる最後のことだね」と言ってカードをかざし、スーツケースを載せるカートを借りてくれた。別れの時。その子は「さよならは苦手なんだ」ってほんの少しはにかんだ。空港の入り口の前で、終わりのないハグをする。その度に涙が込み上げて、友達のシャツに小さなシミを作った。ああ、こんなに誰かを信用したのは久しぶりだったなぁ、なんて。とびっきりの運とタイミングで、この人生の中で巡り合い、お互いの歩んできた人生が交差し、刺激し、心を温め合える、そんな大事な人。この友達は間違いなくその一人だった。次会う時は、きっともっとしなやかに強くなっているよ、と約束した。”Bye bye.” “Sayonara.” カートを押しながら、何度も手を振った。

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入り口を抜けてチェックインする。カウンターにいたJALのお姉さんは来年日本に行くらしく、「日本語話すよね?」と聞いてから、日本語を練習したいんだと言ってカタコトの日本語で対応してくれた。それが終わったあと、なんだか力が抜けてしまってベンチに座り込んだ。家に泊まらせてくれた友達、空港まで送ってくれた友達の前ではこらえていた何かがはじけて、ひとり大粒の涙を流し続けた。

セキュリティチェックと外貨両替を済まして搭乗する。アナウンスで日本語が聞こえて、ああ日本に帰るんか、と変な感じがする。なんだろう、「もう頑張らなくていいんだ」っていう感覚に似ている気がする。常に張っていた糸が緩んでしまった時のことが正直怖い。ワクワクはいつだって、不安と背中合わせだ。予測が難しいからこそ面白いし、アジア人の見た目で英語が話せないと思われることもあるからこそ、やってやるぞって気持ちになる。サイレントマジョリティから、ラウドマイノリティへ。そのトランジションは正直とても楽しいものだった。

この景色を見ると、帰るんだなと実感する

飛行機が離陸する。窓から景色が後ろへと流れてゆくのを見て、「待って、お願い、出発しないで」と心から思った。流れてゆく景色の中には大事な友達たちがいて、どんどん離れていく場所には、たくさんの思い出が刻まれていて。過ごした大事な時間までもが流れていってしまう気がした。離陸前にダウンロードしておいたBialystocksの「光のあと」をヘッドホンで聴きながら、涙が顎まで伝ってゆくのを感じた。指先がビリビリと痺れる。「波打ち際光るのは あなたを思い出す 光のあとで」


やり切った。旅がひとつ、終わりを告げた。
さようなら、わたしのホーム。

アメリカ留学(完)


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