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アメリカ留学日記/帰国1日前に失神した話

6月9日、日曜日。友達のエミリーの家で、朝11時くらいにむくっと起きる。

2階の廊下は、なんだかいまはなきおじいちゃんの家の匂いがする。のたのたと階段を下りてゆくと、一階の窓からさらさらと風が吹き、リビングとキッチンのカーテンがゆっくりと揺れる。友達のお母さんがキッチンでご飯を用意する音がトントントンと響く。
「comfort」という言葉の原風景な気がした。

スペイン語で友達のお母さんが話しかけてくれる。半分わからないけど、英語とカタコトのスペイン語で会話する。このおうちのコーヒーは濃くて甘くて美味しいので、コーヒーいる?と聞かれて、前のめりにお願いした。

昨日の残りのミートボールとご飯を冷蔵庫から取り出して、レンジでチンしていただく。大学院の候補の一つとしてやりとりしている教授にメールを打ったり、インターンのタスクをいくつかこなしたり。大変だけど嬉しいニュースも入っていた。

友達が起きてきて、作業がひと段落してから、二人でサイクリングに出かけた。スプリングフィールドの住宅街を抜け、緑が生い茂る公園を進んでゆく。ペダルがものすごく軽くて、たくさん漕がないと前に進まない。シャカシャカ漕ぎまくる自分の姿はちょっとアホに見えていただろう。丘を下って湖を見たり、フラワーガーデンを探索したり、公園の主のお墓を見たり。ここ数日ドラマの「バンパイアダイアリー」を一緒に見てたから、そのお墓からいつか主が蘇るんじゃないかとか冗談を言いあった。公園の中の本当は立ち入り禁止の場所に、ハイウェイを一望できる友達のお気に入りの場所があった。保安官の目を盗んで忍び込む。レジャーシートをひいておしゃべりしながら、私は持ってきたノートにその友達の絵を描いた。そしたら雨が降ってきて、私たちは雨を感じながら自転車に乗って帰り道についた。

ここ最近の運動不足を感じつつ、このシャカシャカな自転車でキツい上り坂を上がれるかチャレンジしたくて、勢いをつけて駆け上がる。後ろから友達がいけいけーと声をあげているのを感じた。あと少し、あと少し。息を切らしながら、頂上まで辿り着いた。なんだ、意外といけるじゃん!と嬉しくなる。ちょっと自分を誇りに思う気持ちに酔った。

のも束の間。恐ろしく疲れてしまって、気が遠くなってベンチにへたり込む。友達が氷たっぷりの水を渡してくれたんだけど、それがわたしには冷たすぎてだんだん気持ち悪くなっていった。とうとうベンチに座るのもキツくなってきて、地面にへたり込む。吐き気がしてきて、視界がだんだん緑色になった。突然のことすぎて、自分の体に何が起きているのかわからないと呟き続ける。心配そうな友達の声が遠くの方で聞こえた。足に力が入らず、たたんでいた両足が意思に反して伸びていくのを感じた。意識が遠のいてゆく。そして私は、少しの間気絶していた。ものすごい吐き気で目が覚める。とても不快で仕方がなかった。友達が親御さんに連絡して、迎えにきてもらう段取りを組んでくれる。だんだん意識が戻ってきて、一度だしてしまうと吐き気はだんだんおさまっていった。水で顔と手を洗う。どんどん元気になっていって、何事もなかったかのように立ち上がって、腰に手を当てて仁王立ちしていた。友達が爆笑する。「さっきまで吐いてたやつのすることちゃうやろ」と。その時にとった写真を見ると、なんか顔が緑色をしていた。

いや、顔色悪っ

友達の親御さんが車で迎えにきてくれて、自転車とともにわたしを乗せて家まで連れていってくれた。友達は自転車で戻り、近所のタコス屋さんのケッサディーヤを買ってきてくれた。お母さんが作ってくれた薬草ティーと、消化にいいスープ。あと世界一うまいケッサディーヤ。あったかいものを飲んで、お腹に溜まるものを食べて、心も体も浄化されていくのを感じた。

その後自分なりに、どうして失神したのかを考えてみた。

  1. 二週間のロードトリップ中ずっと車にいて、ここ最近ほとんど運動をしていなかったこと。

  2. その体でサイクリングに出かけ、ペダルの軽い自転車で丘を一気に駆け上がった(突然激しい運動をした)こと。

  3. ロードトリップ中、節約のために毎日ファストフードで済ませていたこと。おそらく慣れてなくてバランスの悪い食生活に、消化器官がイカれていた。

  4. 午前中に軽く一食分食べただけで、その後軽く6時間くらい経っていたので、十分な栄養補給ができてなかったこと。

  5. 激しい運動の後に氷水を飲んだこと(ネットで、激しいリフティングをした後に氷水を飲んで失神したボディビルダーの記事を読んだことがある)。

  6. 雨に打たれて、汗をかいた体が一気に冷えたこと。

  7. これは今回とは関係ないと思うんだけど、昨日の夜、おそらくアレルギーを持ってるフルーツを食べたこと。

  8. 上記のことをあわせて、おそらく血糖値が一気に下がって、少しの間失神し吐き気がしたんだろう。

意識が回復し、顔に赤みが戻ってきた後、当たり前のように立ち上がって歩き、運動できていることに感謝することしかできなかった。人間の体って怖いな。そしてすごいな。不快に慣れて、気付かぬうちに体のSOSを無視していたことに気づいた。ちゃんと食べなきゃ体は機能しないし、ちゃんと運動しなきゃ体はおかしくなる。そして、同じ人間とはいえ、違いは大きい。友達はすごく平熱が高くて(おそらく37-8度はある)いつも暑がっていて、雨に打たれて気持ちいいと言っていたけど、平熱が35度とかのわたしにとって、雨はかなり寒かった。ちゃんと自分の体が感じることを自分で気づいて、ちゃんと守らないといけないな、と教訓を学んだ。

濡れた服をかえて、軽くシャワーを浴びる。わたしのアートを気に入ってくれて、いくつか部屋に飾ってくれているアマーストの院生の友達が、わたしの他のアートを見に車で遊びにきてくれた。家に泊まらせてもらっている友達も、車で来てくれた友達も、前に私が出ていたイベントに来てくれていて面識があった。大学院のはなしとか、それぞれのアートの背景とかを話し続ける。楽しくて、気づいたら3時間経っていた。自分のアートを見てくれて、面白がって話を聞いてくれる人が何人もいることがとても嬉しかった。特にアメリカで「ローカルアーティストを応援する」というのは一種のモラルなんだけど、明日日本に旅立つ私に、「グローバルアーティストを応援しないとね」と言って何種類ものアートを買い取ってくれたその友達は、わたしにとって最大級のパトロンだった。

私の絵を考察してくれる友達たち。

その友達がアマーストに戻っていった後、パッキングを後回しにして、友達とバンパイアダイアリーの続きを見た。何シーズンもある中で、時間の関係でシーズン1の8話までしか見れなかったので、(普段は避けるけど)ネタバレをお願いした。驚きの連続で、今見ているキャラクターの関係性からは想像もつかないものだった。このシリーズに出てくるDamonに友達は首ったけで、ネットで画像を調べては、彼のいろんなショットを楽しんでいた。もう一話見ようと言ってみ初めて数十分後、わたしは体力の限界で枕に埋まって眠りについていた。それに気づいた友達は、リラックスミュージックをかけて、そっと寝かせてくれた。


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