見出し画像

東京オリンピック開会式にバイトスタッフとして潜入!この夏、高額バイトの実態に迫る!


パソナの面接でのクソ対応に激怒

 東京オリンピックのバイトをやってみたい。なんせ、コロナ渦があってもなくてもこれほどドタバタが続いているビッグイベントである。裏方に回ったらさぞかしおもしろい体験ができるに違いない。
 求人はネットで「国際的スポーツイベント」と検索したらわんさとヒットした。想定していたボランティアの数が足りていないのか完全に売り手市場で、時給1500円を超える高額求人ばかりだ。どうせならと7月23日の国立競技場での開会式に関係する仕事を中心に5、6社の派遣会社に応募した。
 他社に先駆けてZOOM面接が行われたのは東京オリンピックのオフィシャルサポーターであり、オリンピック関連でしこたま儲けているという噂のパソナである。ちなみにほとんどの求人募集が「国際的スポーツイベント」とぼやかしているのは、「オリンピック」という表記はオフィシャルサポーターしか使ってはいけないからだそうだ。
 オフィシャルだからなのか会社の体質が元々そうだからなのか、このパソナの面接対応がひどかった。「週に3日以上はシフトを入れてほしい」「他の仕事と兼業していたらこの仕事は難しい」「オリンピックだけでなくパラリンピックも仕事をしてほしい」とやけに上から目線の条件を突き付けてくる。
 条件面からその場で仕事を断ったが、その後も筆者の応募書類が生きているのかパソナから何度もスカウトメールが届いた。条件が緩くなったのかと担当者に電話してみると、「では兼業などについてはこちらに柔軟に対応していただけるということでしょうか」ときた。あまりの態度に思わず「今の状況下で柔軟に対応しなきゃいけないのはそちらでしょう」と言って電話を叩き切ってしまった。

基本的にどこの会社でも面接はZOOMで行われた

 その後、他の会社の面接はパソナほどひどい対応ではなかったが、採用になってもコロナ渦でオリンピックが開催できるのかまだ微妙な時期とあってなかなかシフトが上がってこない。その中の1社から研修の連絡が来たのはオリンピック開催までひと月を切った6月下旬だった。

開催1週間前になって送られてきた求人連絡。どの会社もシフト調整にてんやわんやの様子

研修内容に不安ばかり残る

 研修が行われたのは国立競技場にほど近い外苑駅近くのビル。約50席のフロアはほぼ満席で、筆者と同じ指定のポロシャツに綿パンツ姿の一般参加者に加えて、今回の仕事の元請け会社の若手と思しきスーツ姿の女性社員が20人ほどいた。この元請け会社もパソナと同様、東京オリンピックのオフィシャルパートナーである。

研修に参加する元請け会社の新入社員と思しき女性スタッフたち

 研修はマニュアルブックを使った座学で始まった。
 まず残念だったのは、この派遣会社ではパソナとかとは違って東京オリンピックロゴ入りのスタッフユニフォームは支給されないということだ。我々に渡されるのは黄色地に「TOKYO2020」と書かれた粗末なベスト1枚のみ(大会後要返却)。足元は公式サポーターであるアシックス製のスニーカーか、他社製であってもブランド表示を隠したものを履かなければならないという。
 次に肝心の仕事内容だが、この日集められたのは国立競技場周辺で関係者や観客、関係車両の誘導業務に従事する者たちである。
 つまり、OLS(オリンピックスタジアム)でのTRA(トランポート)だ。TRAはVAPPs(車両認証)を確認しながら行う。VAPPsの種類はNOC(選手、各国オリンピック委員)からPRS(プレス)までさまざまあり、会場での通行にあたってもACP(アクレディテーションチェックポイント)やPSA(手荷物検査所)を通らなければならない。
 研修は万事この調子で行わたのである。マニュアルブックの巻末に用語の略語説明が載っているものの、筆者の頭ではパリオリンピックまでだって憶えるのは無理だろう。
 座学の後は担当会場ごとに分かれての実地見学だった。筆者は国立競技場周辺の班で、現場リーダーの引率で会期中、関係者の駐車場に使う絵画館前をぐるりと回る。座学よりはどんな場所で仕事をするのかイメージできたものの不安が解消されることはなかった。

オリンピックスタジアムから勤務予定地の絵画館前まで見学した後、現地解散となった

矢継ぎ早の変更連絡

 研修を受けた会社からシフトが送られてきたのは東京都に4回目の緊急事態宣言が発令された日だった。その数日前にオリンピックは無観客開催が決定したばかりだったが、この会社は会場での関係者誘導という業務内容からさほど影響は受けなかったのだろう。
 筆者には希望通り、開会式と閉会式に絵画館前での誘導業務が与えられた。
 このタイミングで応募した他の会社にはすべて断りの連絡を入れたのだが、スタッフ募集のメールや電話連絡はオリンピックが始まってからも続いた。どこも相当人集めに苦労しているようだ。
 1日目の開会式での労働時間は、19時半から26時15分までとなっており、当然電車が終わっている。始発までネットカフェか駅前で時間をつぶすか、と覚悟してたら、会社が会場近くのホテルを用意してくれるという。なんという大盤振る舞いと思ったが、会社にしてみれば緊急事態宣言下だけに大勢のスタッフに会場周辺でウロウロしてもらいたくない、という思惑かもしれない。
 その後、開催まで1週間を切ったところで開閉会式で働くスタッフだけでの2回目の研修が行われたが、ここでも関係者パスの「アクレディテーションカード」が渡されもしなければ車両を使ってのデモもなかった。
 また、スタッフのコロナ対策だが、ワクチンの接種は当然のようになし。スタッフのタマそろえるだけで精一杯なのにワクチンまで手が回るか、てな様子である。対策といえる対策はシフト+前後2週間分の体温を提出することのみ。それが一転、開会式前日深夜に会場内でのPCR検査の案内メールが送られてきた。

関所=外苑前を越えろ

 バイト当日がやってきた。集合3時間を切った夕方、派遣会社の担当者から「バイト後の宿泊先が新宿のGホテルから赤坂のAホテルに変更になった」という電話が入った。開会式直前になって音楽担当・小山田圭吾、演出担当・小林賢太郎が過去の言動で辞任する騒ぎがあったが、現場の末端スタッフの宿泊先すらコントロールが取れていない状況のようだ。
 自分の職務に関しても、今一度派遣会社から渡された資料に目を通してもまったく要領を得ない。関係者の駐車場である絵画館前での任務のようだが、果たして車両を誘導するのか人を誘導するのかさえ不明だ。とにかく指定のポロシャツに綿パンツ、それにマスキングを施したスニーカーに身を包んで会場に向かうことに。
 国立競技場のある明治神宮外苑は交通規制と警備を行う警察で完全に関所と化していた。
 絵画館入り口で警察に「開会式スタッフなんですが……」と説明するも「関係者パスがないと入れないんですよ」という。派遣会社に電話で事情を説明し、駅近くでスタッフから関係者パスのアクレディテーションカードを受け取ってようやく外苑の中に入ることができた。

当日集合場所で渡された関係者パス「アクレディテーションカード」

 当初の集合場所「絵画館駐車場前」は駐車場の中に変わっていた。待機所のテントにはすでに30人ほどの男女が集まっていたが、あんな連絡とこの状況でよくここまで辿り着けたと感心する。 スタッフは大学生らしき若者が多いが、中には筆者(30代後半)よりも年上の男女もいる。顔見知りで応募したグループはもちろん、ほとんどが社交的で東京五輪のバイトというおそらく一生に一度の体験を素直に楽しんでいる様子だ。


若いバイトスタッフはリゾート地にバイトに来たような雰囲気だ

苛立つ選手団に緊張が走る場面も

 派遣会社の現場リーダーから今一度業務の説明を受ける。要は、開会式を終え、国立競技場から出てきた選手たちを駐車場のバスに誘導して乗せるというものだ。
 駐車場にバスは20ほどのブロックに分かれて4~6台駐車しており、1台に約30人の選手を乗車させる。一度に選手を誘導するのは1ブロックごとで約120人ほど。
 スタッフのポジションは、①駐車場ゲートで選手の数をカウントする係、②バスまで選手を誘導する係、③バスに選手を乗せる係の3つで、筆者は最もラクそうな②の誘導係だった。選手の前を歩くだけでいい。
「早い選手団だと開会式が始まって30分後には出てくるからそのつもりで用意しておくように」
 それは実際、現場リーダーの説明どおりになったが(最初に現れたのはアイスランドの選手団だった)、おそらく多くの派遣スタッフが思っただろう懸念――選手たちって国ごとに行儀よくまとまった人数で現れるものなのか?――もその通りになった。
 駐車場ゲートに現れる選手の数が毎回てんでばらばらなので、せっかくブロックごとに誘導しようとしても列が伸びきって誘導の役割を成してないのだ。誘導役が入り口からバスまで何度も往復したり、列の途中に待機しているスタッフ3人を加えることでようやく仕事が機能し始めた。
 その後は筆者の仕事に関してはラクの一言だった。なんせ、たった2回選手団をバスまで誘導するだけなのだ。出発するときは「レッツゴー」、前のブロックを追い越しそうになったら「プリーズ、ウェイティング」とか言いながら選手の前を歩く。選手退場のプラカードボーイだ。
 一方、駐車場ゲートで選手の出し入れをしている現場リーダーは筆者の百倍くらい忙しそうだ。常に無線機を片手に向こう――バスの残り台数や選手たちの乗車具合を見ながら行かせるべきか待たせるべきか判断している。
 開会式も大詰めになってくると駐車場入り口には選手団が次々に現れるので入り口で数分待ってもらわなければならない。
 特に、韓国の選手団が一度乗ったバスを降りて別のバスに乗り込んでしまった時と、南米系の選手団がスタッフが制止しているのも構わずに歩きだしたため現場リーダーと衝突した時は緊張感が走った。
 また、バス内でもマスクをしていない他国の選手と同乗するのを嫌がったり、「ソーシャルディスタンスが保たれてない!」と乗車拒否する選手がいたという。

駐車場ゲート前で長時間待たされ、アテンド曰く「そろそろ我慢の限界」な外国の選手団

セックスしたくなる気持ちが分かる

 仕事に慣れてくると外国の選手団の表情や立派な体格、お国柄が現れた制服を楽しむ余裕も生まれてきた。
(あの女、いいケツしてやがる。どこの国だ)(あの国の制服、ノースリーブとはけしからん)

仕事に飽きてきたら女性外国人選手を見ることくらいしか楽しみがなかった

 バイト前、選手村ではアスリートがセックス三昧、というニュースを読んだが、なるほど、この高揚感の中にいたらヤリたくなる気持ちも分かる。
オリンピックとは規模のでかい村祭りのようなものなのかもしれない。村祭りなんだから夜這いや野合は付きものだし、それを禁じるほうが野暮というものだろう。
 オリンピック村でムッシュムラムラしながらも、すっかり仕事への緊張感がなくなり飽きてきた。なんせ待ち時間が長い。2回の誘導を終えたらあとは駐車場ゲートで突っ立っていることくらいしかやることがない。開会式は20時から24時近くまでだから、ほとんど紅白と同じく尺である。
 そして、無性にタバコが吸いたい。先ほどどっかの選手団を誘導した際、歩きながら電子タバコを吸っている選手がいたが羨ましくって仕方がなかった。いくらオリンピック会場内は全面禁煙とはいえ、警官も警備員も他の国の選手を叱ることはできないようで、何度かトイレ周辺でタバコの臭いを感じた。
 スポーツにはまるで興味がないので知っている選手はほとんどいなかったが、それでもホスト国である日本の選手団が駐車場に現れた時にはテンションが上がった。バスケットの八村塁選手もいる。日本の選手団が去り、いよいよ我々の仕事も終わりが見えてきた。

駐車場ゲート前で眺めた新国立競技場上に浮かぶドローンショー

 最後のバスを見送ったのは24時前だった。予定では退勤時間は深夜2時だったが、仕事はこれにてお開きだという。まだ電車は走っているが、せっかくなので会社が用意してくれたホテルに泊まるとしよう。
 8日の閉会式もバイトを入れているが乗り気がしない。果たしてサボったら違約金はいくら取られるんだろう?
(了)

最後のバスを見送る駐車場誘導スタッフたち
ホテルはタコ部屋かと思ってたら普通のシングルルームだった
開会後も人手不足は変わらず。関係者パスを持っていると高額日当になるようだ


初出「裏ネタJACK2021年月号10月号」(ダイアプレス)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?