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出動!宇宙人と仲良くなり隊


「今日は5年生の皆さんに大事な話があって集まってもらいました」
校長先生が大きな目をさらに大きくして話し始めた。
「今朝、みなさんにメールでお知らせした通り、緊急事態が発生しました」


朝起きると学校から配布されているタブレット端末に変なメールが来ていた。『古雅(いにしえみやび)小学校5年生の諸君へ。このメールのことはお父さん、お母さんにはくれぐれも内緒にしてください』から始まる次のような文面だった。
『昨日アメリカの地球外生命体研究所から日本政府に以下のようなメールが届きました』
【我々はついに、地球外生命体、すなわち宇宙人がすでに地球に来ている証拠を入手しました。しかしパニックになるかもしれないので、まだ世間の人たちには知らせないほうがよいということになりました。我々は宇宙人と接触を図り、友好関係を結びたいと思っています。どうやら彼らは我々を警戒しているようで、なかなか姿をあらわしてくれません。そこで各国に秘密組織を結成してもらい密かに宇宙人を探していただきたいと思います】
『今日このメールの件で緊急集会を開きます。登校後はすみやかに体育館に集まってください』


校長先生は汗を拭きながら(今はまだ5月だが真夏のような暑さが続いていた)話を続けた。
「政府のえらい人たちが話し合い、宇宙人たちの警戒心を解くためには、大人よりも子どもたちに接触してもらったほうがいいということになりました。そこで日本全国の小学校に《宇宙人と仲良くなり隊》を結成するよう要請がありました」
「宇宙人たちはすでに地球人に化けてあちこちの町にひそんでいて我々を見ている可能性があります。我々地球人が良い人であることをわかってもらうために、常に良いことをするように心がけてください。そして宇宙人を探し出しお友達になってください。君たちは、今日から《宇宙人と仲良くなり隊》の隊員です。みなさんの活躍を期待しています。詳しい話は教室に戻って担任の先生から聞いてください。それでは、今日はこれで解散です」


教室に戻ると、みんなが騒ぎだした。
「宇宙人って本当にいるの?」
「襲ってきたりしない?」
「みんな静かにして、話を聞いてくれ。」
鈴木先生は、先生になって2年目の僕たちの担任だが、いつものようにニコニコしながら話し出した。
「校長先生のお話の通り、わが校では5年生全3クラス総勢60人で《宇宙人と仲良くなり隊》を結成して活動してもらうことになった」
「えぇ~。む~り~」
「放課後は塾があるし~、土日もいろいろやることあるし~」
みんなは大いに反発した。僕だって、なんだか面倒くさそうで気が進まない。
「宇宙人を見つけて友達になったら、今はまだ言えないがすごいごほうびが用意されているとのことだ。どうだ?ちょっと心ひかれないか?」
「えっ!」
「本当に?」
急に、みんな興味津々になった。
「別にいやってことはない、かな」
「ちょっとは時間あるかな」
結局、みんなやる気満々になってきた。


鈴木先生の指示で、僕たち5年1組20名は5人ずつ4班に分かれて《宇宙人と仲良くなり隊》の活動をすることになった。他のクラスも同じく5人ずつ班を作ることになったそうだ。僕はじゃんけんで負けて班長になった。僕はこういう時大抵ついてない。さっそく、次の土曜日にシミュレーションをすることになった。


うちの学校は4年生から能力別クラス編成になっている。そして、自慢に聞こえるかもしれないが、僕たち1組はうちの学校で“できる子”たちが集められている。
「悪いけど、僕たちが“いただき”だよね。小田班長!」南君が自信満々に僕の肩をたたきながら言った。
「とくに僕たちの班は学年トップ5の集まりだし」田中君も自信ありげだ。
「すぐに宇宙人を見つけて友達になってみせるさ」安田君は少し興奮しているようだ。
「宇宙人がいそうなところをまず探そう」小野君が冷静に言った。
僕たちは毎晩寝る前にチャットをすることになった。直接会うのは難しかったからだ。僕らは、塾やら何やら、とにかくいろいろ忙しいのだ。


小野〈UFOは空から来るはずだから、空に近いところで、UFOを隠せるところじゃないかな〉
南〈この町で一番高い山だ!〉
田中〈古(いにしえ)山か雅(みやび)山だ!〉
小田〈学校からは雅山のほうが近いから、とりあえず雅山にしたらどう?〉
安田〈よし!ゴールは雅山で決定!〉
小野〈良いことは?〉
南〈出発してから考えたら?〉
安田〈困っている人がいたら助ける〉
小野〈そんなに都合よく困っている人がいるかな?〉
小田〈とにかく、土曜日はよろしく〉


土曜日の朝、5年生だけが登校していよいよシミュレーションが始まった。
興奮してやたら大声で話している子もいれば、にやにやしている子もいたり、ちょっと不安そうな子もいたりした。
「くれぐれも交通安全で、怪しい人には近寄らないよう、身の安全を第一に考えて行動してください」校長先生のほうが緊張しているようで、声が少し震えていた。
「さあ、時間です。《宇宙人と仲良くなり隊》の諸君!出動してください」校長先生の声が青空に響いた。
僕たちの班は、雅山を目指して出発した。途中、古雅駅前で困っている人を探すことにした。
「あの車椅子の人、階段の前にずっといるよ」
「え~、あの車椅子を持ち上げるの?僕たちには無理だよ」
「そうだね。他の人にしよう」
「あのおばあさん、大きな荷物持っているよ」
「なんだか声掛けにくそう。元気そうだし。手助けなんか必要なさそう」
「どこかに優しそうな人で、僕らにもできることで困っている人いないかな?」
いつまでも駅前でうろうろしていると、通りすがりの人にじろじろ見られるようになった。
「もう11時だよ。学校に戻ろう」僕は言った。
「雅山には行かないの?」
「仕方がないよ。時間がない。」


学校に戻ったら、僕らは体育館に集められた。「みなさん、ご苦労様でした。今、各班から報告があって、残念ながら、宇宙人と接触できた班はなかったようです」
校長先生が残念そうに言った。
「どうも、“良いことをする”っていうのが難しかったようだな」教室に戻ると鈴木先生が教えてくれた。
「“良いこと”ができた班はなかったみたいだ」すべての班が、“良いこと”がなかなかできなくて、宇宙人を探しに行くどころではなかった、と報告していた。
例えば、ある班は、僕らと同じように困っていそうな人を見つけても声をかけられなかった。別の班は、大きな荷物を持っている人がいたので、急いで近づいて行って荷物を持ってあげたら泥棒と間違えられた。ずっとおしゃべりに夢中になって何もできなかった班もあった。


月曜日の朝の会で、鈴木先生が土曜日のシミュレーションがことごとく失敗だったから隊を編成しなおすことになったと言った。
やはり5年生全員で活動するのは人目に付きやすいので、各クラスから1名ずつ選出し。《宇宙人と仲良くなり隊》の正式な隊員を3名とする。ただし必要に応じて友達を助っ人にしてもよいということになったそうだ。
そしてなぜか、「小田君、うちのクラスからは君が選ばれたから、がんばってくれよ」鈴木先生がさらりと言った。
「えっ、うっ、なんで?!」あたふたしている僕を囲んで、「わ~」という声が沸き起こった。
「先生、他のメンバーは誰ですか?」一番気になることを聞いてみた。
「2組は和田あかね。3組からは小谷翔太だ」
ふたりとは1年生と3年生の時に一緒のクラスになったことがある。あかねは明るい子だけど、ちょっとおせっかい。翔太はスポーツ万能で活発なタイプだけど向こう見ずというか、ちょっと単純。
「さっそく今日の放課後、会議室で《宇宙人と仲良くなり隊》の顔合わせがあるから」
鈴木先生は、僕がまだやるとも何とも言っていないのに、話を続けた。


放課後、僕は断るつもりで会議室に行った。すでにあかねと翔太が来ていた。鈴木先生もいて、「僕と養護教諭の松田恵美先生が君たち《宇宙人と仲良くなり隊》の支援をすることになった」とニヤニヤして松田先生の顔を見ながら言った。
「一応自己紹介しようか」鈴木先生は早口に言った。まるで僕に断るスキを与えないように。
「2組の和田あかねです。良いことをする自信はあります。がんばります」えっ、いきなり挨拶している。普通1組からでしょう。
「3組の小谷翔太です。足は速いし、体力はあります。宇宙人を追いかけて捕まえる自信があります」おい、僕の番を飛ばしているよ。
「ごめんなさい。1組の小田君がまだだった」あかねが言った。しかし、鈴木先生の次の一言で僕は順番なんかどうでもよくなった。
「隊長の小田君を忘れちゃいけないよ」
えっ~。いつから僕が隊長になったあ?そもそも隊に入るつもりはない。
「もし成功したら以前にも言った通り、ごほうびがある。やりたくないことを免除してあげることになった。受けたくない授業や参加したくない行事例えば運動会や遠足、音楽会、マラソン大会に出なくてもいいことになった。どうだ?ちょっと心ひかれないか?何でも嫌なことは免除してやるからな。それに国からも表彰されるかもしれない。日本のヒーローになれるぞ」
「うっそ~」「やっほ~」あかねも翔太も有頂天だ。でも、免除はありがたい。ヒーローも心惹かれないわけではない。試しにしばらくやってみるか。嫌ならやめればいいや。除隊できないってことはないだろう。日本は自由で民主主義の国だ。


「そう言えば、雅山の山頂が時々光っているといううわさがある」鈴木先生がニヤニヤしながら言った。なんで鈴木先生はそんなにうれしそうなのだ?
「さっそく、捜査開始だ!」
あかねと翔太につられて、僕までエイエイオー!してしまった。困ったなあ。

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