オーディオの話(16)
音楽を全身で聴く!
今の若い人たちの間で主流になっているのが、携帯型音楽プレーヤーとヘッドホン(またはイヤホン)による音楽鑑賞スタイルですね。彼らにとって、オーディオといえば専らヘッドホンであり、中には、 スピーカーで一度も聴いたことない人もいるんだとか。何彼と忙しく活動的な彼らですからね、ステレオ装置の前にどっかと座って耳を傾ける時間などなかなかないし、そういうのはオヤジ臭いといって好まれないスタイルなのかもしれません。
音質の面だけを捉えると、日進月歩の技術革新によって、携帯型音楽プレーヤーでは信号圧縮技術などが格段に向上、ヘッドホンもますます高性能化して、中には数値的にスピーカーと遜色ないものもあるやに聞きます。しかも、それらが割と安価で実現できているのはとても素晴らしいことだと思います。しかしながら、いくら携帯型音楽プレーヤーやヘッドホンの性能が向上しても、絶対にスピーカーを超えられない、違う言い方をすれば、スピーカーでないと得られない感覚や感動があると思っています。
どういうことかというと、ヘッドホンでは、臨場感を出そうとしていくら音量をあげても、耳の中、頭の中でガンガン鳴り響くばかりで、決して体には伝わってきませんでしょ。実際にライブ・コンサートに行って生音の迫力に接したときのことを思い出してみてください。その違いは、単に音質だけの問題ではありませんよね。生音は、耳だけでなく体でも聴いている。素晴らしい音楽を、文字通り「体感」し、体じゅうが生音によってじんじん打ち震えているわけです。
私らのような古来のオーディオ・ファンが自室の本格オーディオ装置で音楽を再生するのは、言ってみれば、そうした生音を疑似的に体験しようとしていることに他なりません。もちろん全く同じ条件や環境になるのは到底無理ですが、できるだけコンサートの生音に近い「空間」を作り出し、そこに全身でどっぷり浸る。ヘッドホンでは、たとえ100万円の高価なものでも絶対にできないこと。私もたまにヘッドホンで聴くことはありますが、全く異質の体験であると思っています。
さらに最近の研究結果では、「皮膚」には、目でなくても光を捉え、耳でなくても音を聞き、舌でなくても味を知るという感覚が備わっていることが分かってきたそうです。生命進化の過程において、その皮膚の能力は脳が生まれる前から存在していたため「0番目の脳」とも呼ばれているとか。やはり、耳ばかりではなく、全身で音楽を聴く意味合いは大きいと感じる次第です。