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ぼくの好きな俳句たち 2

おおかみに螢が一つ付いていた  金子兜太

 この句をどう説明しよう。

 山の中をおおかみが歩いている。闇が深まった夏の夜。その孤高なおおかみに、螢がぽつんと一つ光っている。

 ただそれだけの光景(もちろん想像)なのに、深い闇や森の静けさ、果てにはいのちの深い輝きのようなものも感じられてくるから、不思議だ。

 おおかみと螢との偶然だけれど深い出会い。

 両者の魂の交流を感じてしまいます。いや、これは生きているもの同士の交流に限ったことではないのかもしれません。

 生者と死者。この世とあの世。

 この句で思うのは、おおかみのまなざし。これを勝手に想像してしまう。螢の光以上に、おおかみの眼の光の潤いを感じてしまうんですね。

 おおかみはなにをみているのか。過去・現在・未来といった時間を見通しているような気がしますね。

 そして、やはりここに金子兜太のまなざしが重なってきます。優しくもあり、厳しくもあり、なにかいつもはるか遠くの光をみつめているような金子兜太。

 「付いていた」なんていうぶっきらぼうな書き方。

 にもかかわらず分厚い抒情。

 魂の存在がありありと感じられるアニミズムの満ちた、すごい一句。

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