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タクシー・4

これはまずいというところをきっかけに二人海を渡り南へどんどん逐電したんです、あてずっぽうにボロニャン迄やって来て南京街の用心棒になったがこの彼めっぽう女好きがする、間もなく東洋メニアックなボスの女に喰われて今度はめっかった、男の留守中に遊んだ折、間抜けな事に親分にもらったばかりの財布を忘れて中に入れた女からの誘いの手紙を見られたんです、ボスは奴の両手両足をへし折らずには勘弁ならぬと大いに怒ったところを、この娘をそちらへ納めるので何とかどれか一本で手打ちに願いたいとぶるぶる震える振りでうそ泣きにべそをかいて、不真面目な鴉のようにあどけない目で拝んでみたら、親分も変な顔して震えだした、もとよりこのバカ、娘が気になって仕方がなかったのよ、でも彼は強くて迫力があったのでどうにも手を出すのが怖かったところのタナから大きなボタ餅もんどり打ってドサッと落ちたのには笑いをこらえ喜びを隠すのに必死、無理くり怒った顔を作るので、心身両面が突然重大な病気に襲われたような、とても不思議な表情筋になり、手足を折るのなんか何うでもよくなったの、それで彼も喜んだ、何故といって小便臭い小娘にはもう飽きていて次にボロニャンを出たら途中撒く気でいたのが手間なしの厄介払いになったわけ、ボスはかんかんに怒った手前、彼の右前足を折ろうと力を込めたがもともとこの男力がない、顔が真っ赤になっても見通しが立たず、だんだん青くなってきたところで彼自分でボキッと大声を出して無闇に痛がり、バカの狙いと違うけれど左腕が一本折れた事になったのね、あとは新しいラメの網サン履き、軽やかなステップで口笛を吹きながら、チャタヌガチュチュをね、何のかのと理屈をこねてボスから引っぱったけっこうなお金をズックの袋に詰め、深夜バスでフェリーに乗ろうと船着場へ向かったの、どっち向きも気にせず乗ったフェデリコ号で着いたのがアリカリ、そこで出合ったラテンものにしては色白で背え高の、シューパーレアリな鶏皮を専門に造る男色のサルジミタン、ロベルテ・チョンガの処へ落ちついたの、この男彼が好みだった事もあるけれど優良特別級な皮を造るには、若く不良で生殖本能の見境が狂った、何でも来いの、ただイカれてはいても知能は至って高止まりな男が必要だったわけ、チョンガの清涼な空気と血生臭い惨劇の対比にこだわりイタリンじゅうの田舎を徘徊し、やっと眼鏡に適ったこの山村で造る皮の生産量は寡少でも、鶏皮グルマンの世界ではヨロッパじゅうに知れた希少禁忌モノで鶏の〆方に手数がかかる、先ず盛りの頂点と思しき恋仲の雌雄を見極め、雌鶏の前かぶりつきに雄鶏を縛りつけて、彼女を的が何でもかまわない程に猛った男が犯すのね、ヒトの男よ、彼女が目を剝いて裂けるような、聞きようにによっては歓喜の極みともとれる絶叫を上げたところで、挿入したまま首にキュッと切れ目を入れ血抜きをする、その瞬間です、鳥姦男に雄叫びを上げ、おやっと思う程長い射精をしてもらいます、ここです、目玉がポロリとこぼれる迄カッと見開いた雌の瞳がフッと弛緩し、あたしが見込んだだけの事はある男だわ、という様に今際のきわきわで口元をほころばせればしめたもの、するといきなりのこの理不尽に彼氏は逆上の血を一息に沸点へもってくる、そこを鳥用五寸五分の匕首を背後からヒヤリとあてがうと、一気に熱々の血汁を、ジャジャっ、ヌルヌルっと抜き搾ります、


 つづく

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