タクシー・3

「さて、二つ目ですよ、いやいやこのゾクッとするちょいと嫌なケム、炭っぷりからして鳥肌、皮でしょうな、ヤクザ者というよりチンピラですね華南からのイタリア移民、うん、シチリンではないな、サルジミタ島アリカリから東海岸をしばらく北へ入った村はずれのハンパ極道でしょう、元は福建省武夷山の大きな茶農園の三男で、ガキの頃から手くせ足くせ極めて悪く、抜け参りにはグレまくりというやつで、二度目の七つの歳には早くも見習いのとれた不良で通ってたんだね、家は村の庄屋でもあり示しがつかず、この子は頭が良かったのでこれに託けてロンドンへ留学として追っ払ったんだが、ここの寄宿舎でも入寮の自己紹介もそこそこに夜盗午盗、家尻家頭ぶった切りのかっさばき、まだまだ若者力漲り、事前強姦事後和姦、御前放尿後門の焼寅とやりたい放題、あっという間に放校で、街のゴロツキ一丁上がり、大柄で腕っぷしが強く頭が切れるんだからけっこう数ブロックの中じゃ鳴らしたらしい」
「あなた誰のことをしゃべってるんです、村はずれのハンパ何とかは鶏じゃないでしょう」
「いやいや、あんまりこの子がイキがって突っ掛かるもんで可愛いやらくすぐったいやら夢中で話してしまいました、私はつっぱらかった若い男が大好きなんですよ、ちょっと太めのくせに筋肉が硬くてナマイキでやる事がぞんざいで危なっかしいボーイよ、でもね乱暴者のわからず屋だけど、あたし好きだから辛抱しているの、と上目ずかいで涙をみせると急に無口になって優しくしてくれる、人目のつかない所へずんずん引っぱって行ってそっと肩を抱いてくれるんだから、あたしもうあそこがキュンとなっちゃて、ね、わかるでしょ」
「わかりませんよ、一体何を話してるんですか、言葉も妙になってきましたよ」
「形のいい男の事を話していると胸がいっぱいになっちゃって、ええとそれでねロンドンの良くない地区で目付き悪く凄んでいたんですよ当時の彼はね」
「だから誰なんです彼は」
「も少し我慢して聞いてください何れ帳尻を合わせるんですから、ええとそのうち彼、不良になってまだ半月ばかり十四五の娘とよろしくなったのね、彼女は俳優時代の人気で市中手広く洗濯屋を営むジャック・ユニオン商会会長、日系華僑のケネス・チャン、そうです、一頃極東で一世を風靡したアプサイダンＶＨＳの，八十一年度最優秀助演男優その人の一人娘で、こんな所でうろうろしていれば早晩連れ戻されるだろうし、第一生まれた時からロンドンのいばり臭い雨、湿っぽいくせに埃っぽい空気、腹のねじくれ切れたイギリス人が大嫌いで、どこかカラリと明るくふざけた土地へ出奔するつもりのところ、ちょうど彼の兄さん格がべた惚れる女房に誘惑され、この女とろりと本気を出してしまったのね

　つづく