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大晦日の音

このあたりのお寺では、コロナによる除夜の鐘つき中止を知らせる看板が目立つ。

子どもの頃から、紅白が終盤に差し掛かる頃には、新年が待ちきれないらしい人たちの鐘の音が聞こえてくるのが大晦日の醍醐味だった。私と弟も、待ちきれず家を飛び出し、鐘つき後にふるまわれる甘酒をめがけて、この日しか許されない深夜の外出を楽しんだものだ。そのときの頬の冷たさを思い起こさせてくれる除夜の鐘が、今年は聴けないのだから、少し寂しい。

むかしむかし、高校生のときに、ドイツに1年留学をさせてもらった。ホストファミリーの家はシュヴァルツヴァルト、いわゆる「黒い森」の地域にあった。身体によさそうな空気を吸いたい放題の、住むだけで健康になりそうな町である。そんな地で、大晦日の大行事を体験させてもらえたのだ。ロケット花火の打ち上げだ。

わたしたちは、夜中に隣人たちと連れ立って森に入り、見晴台のある小高い丘まで、雪を踏みしめ歩いた。夜に雪に覆われた森を歩くのは、とても興奮した。日付が変わったその瞬間、真っ黒な空にロケット花火を1発。決して派手ではないその1発は、ここまで来た甲斐あったと思わせるものだった。

大晦日にロケット花火を打ち上げる風習は、オランダを始め、さまざまな国に存在する。さすがに今年は、オランダでもドイツでもロケット花火の販売自体が禁止されるようだ。ドイツの記事では、禁止の理由として、外出に伴う感染者数増加を防ぐためと説明しているが、オランダの記事では、花火打ち上げによる怪我人増加が医療を逼迫するのを防ぐため、としている。なんでも、昨年の大晦日は、1,300名が怪我で病院に押し寄せたそうだから、ロケット花火にかける本気度がうかがい知れる。

今年の大晦日の夜は、世界中の多くの人が、馴染みの音を思い起こしながら過ごすこととなりそうだ。

写真は、ニッカウヰスキー、余市蒸溜所(北海道余市町)にて。

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