大学生塾講師バイトが気をつけるべき4つのこと+α
塾講師バイトはその待遇の良さから,多くの大学生が一度はやってみようと思うでしょう。そこで塾講師バイトをする上での注意点をいくつか解説しようと思います。
1 教えてはいけない
さて,塾講師といえば勉強を教える仕事ですかえら,多くの大学生はいかにして多くのことを教えるか,いかにしてわかりやすく教えるかをまず第一に考えると思います。実際その考え方自体に間違いはありません。しかし,それ以上に大切なのは「何を教えるかより,何を教えないか」です。
一見すると暴論を言っているように聞こえてしまうかもしれませんが,とても大切なことです。僕たちは盛大な勘違いをしています。まずはその勘違いを晴らしましょう。僕らが生徒に10のことを教えるとき,生徒が実際に理解できるのはせいぜい3程度です。ただしこれは優秀な生徒に限った話で一般的な中学生であれば,1でも吸収してくれれば万々歳,0なんてこともざらにあります。そして多くの大学生はこの原因を生徒の能力せいだと勘違いしてしまいます。しかし実際の原因は僕たちが10を教えようとしたことにあります。僕たちが最初から3を教えようとすれば,多くの生徒は3吸収してくれるのに,多くの人が(僕も)10や20話してしまい,「僕はいい授業をしているのに,生徒が馬鹿すぎて手に負えない」そう愚痴をこぼします。僕たちの仕事は生徒に勉強を理解させ,点数を1点でも高く上げることであって,良い授業をすることではありません。最初から黙って3を教え,生徒の方から質問してきたときに限り,その生徒のレベルに合わせて4~10を教えましょう。
2 自分が話てはいけない
特に個別指導の場合この「話てはいけない」という考え方は非常に大切です。個別指導において一番大切なのは,教える科目に関する深い理解ではなく,教える生徒に関する深い理解です。多くの生徒は勉強に関心なぞもっておらず,親に無理やり通わされています。そこで先生が一方的に勉強を教えると,生徒はなんとかこの苦痛な時間をやり過ごそうと考えます。こうなった時点で我々教師の敗北です。特に,分からないけど,とりあえず分かったフリをしよう。こう考えている生徒の成績を上げることは不可能です。だから大切なのは「分からないと言える雰囲気と信頼を構築する」ことです。その為に必須なのは,できるだけ生徒の話を聞くことです。勉強内容のことはもちろん,勉強に対するモチベーションや将来の夢などは確実に把握しておきたいです。特に最近の中高生であれば,好きなYoutuberやTiktokerとか,好きな音楽やアニメなどを把握しておくと,ある程度の性格や考え方の傾向が見えてくる場合があります。話したがりな生徒に対してはなるべく話させてあげましょう。話を聞いてあげるだけで,ある程度の信頼関係は構築できます。最初は世間話に始まり徐々に勉強のことに踏み込んでいきましょう。とにかく塾にくるハードルや授業に対する心理的な負荷を下げてあげましょう。我々はせいぜい3教えれば良いのですから,焦って喋りすぎないよう気をつけましょう。
3 生徒を理解した気になってはいけない
先ほど生徒を理解するのが大切と書きましたが,僕らが生徒のことを理解できる日は来ません。僕たちは先生になり小さな生徒という立場の人間と喋っていると,さも生徒を理解できている気になってきます。関係が深まれば深まるほどです。しかしながら,相手も人間で,特に思春期の複雑な心情をもつ子供たちです。僕たちは生徒のことを理解するのは不可能と理解しなければ,健全なコミュニケーションは絶対に構築できません。特にありがちなのが,自分も昔はそうだったから,この子もこうに違いない。そう決めつけることです。目の前にいる子供は自分ではありません,だから躓いている原因を推測することはできても,完璧に予測することはできません。なるべく生徒の方から素直に話してくれるようなコミュニケーションの構築を目指しましょう。例えば
$${x = 1,y=1}$$
$${1+1 = 2}$$
したがって,$${x+y = 2}$$
という内容に生徒が躓いたとしましょう。このとき僕たちは『なるほど,「Aならば B,BならばCのとき,AならばCが成り立つ」という論理を理解していないんだな』と思いがちです。しかし実際に生徒が考えているのは「$${x = 1}$$ってなんだ?なんで$${x}$$なんだろう,1なら1って書けばいいのに」とか「なんか字が汚くて読みにくいな」とか,「昨日の晩御飯なんだっけ」みたいに全く違うことを考えていることはザラにあります。だからこそ,僕らの話は最小限にし,なるべく生徒に話させなければいけないのです。
4 責任感を持ってはいけない
アルバイトといえど仕事ですからそこに責任が生じるのは当たり前です。しかしながら,必要以上の責任を感じてはいけません。これも塾講師バイトが陥る典型的な罠です。例えば,「生徒が受験前だから自分もテスト前だけど授業準備をしっかりして,演習のプリントと解答を作って,質問対応もしよう!」みたいなことをすると確実に死にます。そんなときは自分の時給を思い出してください,せいぜい数千円でしょう?背負い込むべきは数千円分の責任です。それ以上の責任を背負い,自滅するのはやめましょう。僕は実際,自分が教えるときは「これは生徒の人生を左右する仕事だから」と気負いすぎていました。しかしよく考えれば高々時給1500円では生徒の人生に対する責任なんて背負えません。もちろんプライドをもって仕事をする姿勢は大事です,授業準備も大切です,でも背負い込む責任は授業準備まで含めて時給分まで,それ以上の責任なんてどうせ取れないですし,大人しく上司に任せましょう。
なぜ僕らは間違うのか
僕らはなぜ,揃いも揃って同じ罠にハマってしまうのでしょうか?前述した4つのポイントには通底して僕たちの真面目さがあります。これは単に学校を休まないみたいな「委員長的」真面目さだけでなく,「学問に対する誠実さ」みたいなものも含まれます。とくに,学生時代「暗記より本質的な理解の方が大切だ」みたいな考え方をしていたタイプは要注意です。僕たちの仕事は教育ではなく,ビジネスです。我々のクライアントは親であり,生徒でないです。そこを履き違えてはいけません,究極的には第一志望に受かれば「本質の理解」なんて欠片も必要ありませんし,もっといえば親が納得してお金を納めてくれさえすれば,例え生徒が志望校に落ちても塾としてはなんの問題もないのです。これを聞いて納得できない人には塾講師バイトは向いていないです。
なぜ僕らは間違い続けるのか
実は多くのアルバイトはその過ちに途中で気づきます。ではなぜ毎年樹海に消えて行く塾講師アルバイトが後をたたないのでしょうか?理由は簡単です「昨日まで何者でもなかった高校生が,急に先生として尊敬され,頼られるから」です。僕らは誰しも等しく承認欲求をもっています,それがある日突然過剰なまでに刺激されるのです。そのとき僕たちは,形容し難い心地よさを無意識のうちに感じてしまうのです。特に断れない人は,最初は軽い気持ちで生徒の質問に答えたり,プリントを作ったりします。そこで生徒に感謝されたり,理解してくれたりすると嬉しくなります。これが終わりの始まりです。そのまま,塾に吸い込まれるように就職していく人を僕は何人も知っています。こちらが深淵を覗くとき,深淵もこちらを覗いていることを忘れないようにしましょう。
最後に
最後に僕が塾講師バイトをする上で最も大切にしていた言葉をここに残しておきます。
結局のところ僕らは,生徒のやる気がなければ生徒を受からせることは出来ません。生徒が勉強しなければ,僕らが泣こうが喚こうが生徒は受かりません。もっと残酷なことをいえば,生徒にやる気があり,教える先生も超腕利のベテランという場合にも,多くの生徒が不合格になります。だから,究極的には「僕らが生徒を受からせる」なんて不可能です。もちろん僕らは全力を尽くし生徒をサポートします,それでも塾に来れば成績が上がると考えている生徒が大半で,その生徒たちの成績は上がりません。そこについて何ら責任を感じる必要はないのです。そして,例え生徒が合格したとしても,それは生徒の力であって自分の力ではありません。生徒が勝手に受かっただけです。決して驕らず生徒を褒め称えましょう。
僕は塾講師に向かない人が好きです.