SuperMoonに寄せて
拝啓 ヒロキ様
月が綺麗ですね、という言葉に妙な含みを持たせた人間を君は知っているでしょうか。君ほどの知性溢れる人間なら知っているでしょうね。知性が溢れて耳穴から漏れて、ハンケチで拭っている様子を何度も見ている私には分かっています。
そう、彼の名はSummer Eyes。彼のせいで、名月は恐るべき情欲に彩られることとなりました。月の美しさを褒めることがすなわちお前と性的な関係を結びたいという趣旨の告白に直列接続してしまったのです。許すまじSummerEyes。殺戮してやる。どうにかしてタイムマシンを発明しこれに乗って過去に行ってまで殺戮してやる。という深層の表出はまぁ置いておいて、月が綺麗です。
最後に君に宛てた手紙を書いてから随分と時が流れてしまい、世の中は大きく変わり、僕も少し変わりました。きっと君も少し変わったし、君を取り巻く世界もじわじわとその色を変えてきたのでしょう。僕の返事を君が長らくも待ってくれていたことを素直に嬉しく感じるけれども、僕の身に起こったことをいちいち説明するのはとても野暮に思われるので致しません。ただ一つ言えること、それは、僕の腕力が今までの人生で最大最高に強化されているということです。在宅勤務という形而上の存在が鬼軍曹となって具現化し、私を鍛え直しました。腕力、言い換えればそれは膂力。高度に情報化され法秩序が可視化されるまでに発達した現代社会において最も不要とされる力かもしれません。しかしその無意味さが可愛らしい。すなわち腕力は可愛い。新説が生まれてしまいましたね。次に会ったときは必ず君をお姫様抱っこしたいと思っています。そう、濃厚接触です。
ランドセルが駆け抜けた空白に新しい願いをたなびかせる春が来ました。大きな月が僕たちを見ています。君と君に連なるものと、この星のあらゆる芽吹きに幸多からんことを願います。
テルより。
睡眠時間を削って免疫力を下げながら。
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