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デフトーンズマラソン ランキングと総評

これからお休みの方も、お目覚めの方も、そしてこの記事を偶然目にしてしまったそこのあなたも。

どうも。音楽好き男です。


前回のXTCマラソンもそこそこ好評だったみたいで嬉しいですね。今後ものんびりnote書いていこうと思ってますんでよろしくお願いします。


今回のアルバムマラソンのターゲットはコイツら。


Deftones

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まずはデフトーンズについて軽く説明をば。

1988年結成、1995年デビューのアメリカのバンド。音楽性はメタルに分類されることが多いが、シューゲイジングな轟音のサウンドスケープや独自のオルタナ感覚も持ち合わせ、「ヘヴィ・ロック界のレディオヘッド」とも言われることも。ニュー・メタルブームに商業的成功を収め、一躍シーンの寵児になり、その後はメタルコア・サウンドに変化しつつ、別方向からのさらなるアプローチも模索する。
ボーカルのチノ・モレノ、ギターのステファン・カーペンター、ドラムのエイブ・カニンガム、キーボード兼DJのフランク・デルガド。現ベースのセルジオ・ベガ、そして亡くなった旧ベースのチ・チェンがメインメンバーで構成される5人組バンド。スタジオアルバムは現在9枚あり、そのセールス、評価ともに常に安定的に高い水準で活動している数少ないバンドでもある。

アルバムのマラソン企画で扱うアーティストは個人的にも思い入れがあったり、よく聴いてるアーティストを対象にしてきたんですけど、今回のデフトーンズに関しては初見アルバムもいつもより多いし、何より聴き込んでこなかったバンドだったので、マラソンスタート前までは正直結構キツイかな?と思ってたんですけど、

全然そんなことなかったし、彼らの魅力に気づけたいちばん有意義なマラソンになりました!

アルバムランキングと総評でも詳しい内容はお伝えしていくつもりですけど、やっぱりディスコグラフィー全体に通底した「デフトーンズらしさ」を持っていてそれはどの作品もブレないのに、アルバムそれぞれにカラーもしっかりついていて、そのどれにも違った良さがあるのはデフトーンズというバンドの実力を改めて感じる次第でした。聴き込むほどに新しい発見があって楽しかったし、何よりランキング作成は過去一でシビアでしたね。


今回はそんなデフトーンズのスタジオアルバム全9枚を聴いて個人的な好み一存で番付しながら、軽くアルバムについての解説を挟みつつ、ああだこうだ感想をかましていきたいな、と思てますけどもね。


順位が気になるよ〜って人は目次を閉じてから見てみてくださいね。

ほな、下からいきましょう。
Let's Go!


9位:Adrenaline (1st / 1995)
https://open.spotify.com/album/30YN03R4Bjl8Qwz8wPRoXG?si=01s6R84hSBOIeDtWxC5o8Q&dl_branch=1

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 まず初めに、今回のアルバムランキングは、下げるべきアルバムがなかったことが作成が難航した原因です。安定したセールス、評価を高い水準で...つって言ってましたけど、時系列順にマラソンすると本当にその通りで、どのアルバムも高いクオリティで、それでいて緩やかに変遷がある美しいディスコグラフィーだったんです。それゆえか、デフトーンズにとっての最高傑作1枚コレって言うのも決めづらくて、入門アルバムだったり、アルバムの歴史的評価はあまり聞かれないところなのかなと個人的な感覚では思います。
 と言うわけでアルバムの総評ですけど、正直、このアルバムが最下位にいるのは仕方ないことだと思います。今作はデフトーンズの核となるヘヴィなサウンドをまだ模索している発展途上の時期の作品で、2ndでセールスや評価が一定の水準に到達するんですけど、この段階ではまだ若手です。まだニュー・メタルサウンドではないんですね。
 しかし、内容はしっかり面白い。これはこれでデフトーンズの違った一面と芯になる部分を両方見ることができる、と言う点でも多少マニアックな視点ではあるけど、価値のあるアルバムです。まず、ヘヴィなサウンドが完成される前まではオルタナ・グランジ系のサウンドを鳴らしていたことがわかります。それこそオルタナ勢の中でもヘヴィなアリス・イン・チェインズやジェーンズ・アディクションあたりの方向性にも似ています。ギターはノイジーなザラザラした荒々しい音色で、冷ややかなサウンドはその時代(1995年)においてもなかなか存在感があったんじゃないかな、と思います。しかも、完全なニュー・メタルサウンドではまだないんですけど、そのリズムノリはすでにニュー・メタル然としています。今作の前年にほぼ同期で盟友でもあるコーンの1stが出てるのも考えるとちょうどニュー・メタル黎明期って感じですね。 今作には以降のデフトーンズを聴く上で重要な要素は断片的に詰め込まれています。ダークな中にもメロディアスで耳を引くフックの強さやトリッキーな展開にはすでに風格があり、以降にもそれは踏襲されていきます。
 パンキッシュで性急さは良いんですけど、やっぱりその後の洗練さと比べると緩急やダイナミズムには欠けるし、オルタナ風のスケールの小ささ(スタジアムよりもライブハウスが似合うサウンド)がデフトーンズのキャリアの中では浮いた1枚に感じたので、この順位です。個人的には結構好きなのでこういう背景がなかったらランキング真ん中ぐらいには持ってきてるかもしれないぐらいですね。
 でも、最下位に1stが来てるのってちょっと良くないですか?バンドの進歩があるってことじゃないですか。てなわけで、そんなデフトーンズがどのような変化を辿るのか見ていきましょう。


8位:Ohms (9th / 2020)
https://open.spotify.com/album/0VEFy5MsBiq0u2lWL0OwOd?si=dJSJUIG4TiyBZsSImx2oyA&dl_branch=1

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 とは言いつつもここで最新作を持ってきてしまいました。最悪ですね。フリが死んだので。
 この8位をどれにするかがいちばん悩みました。というのも、デフトーンズって駄作と呼べるアルバムを全く出してないバンドなんですね。1stだってキャリア全体を俯瞰してみたときの結果としてあの位置にはしましたけど、アルバムの精度は良いんです。だから、どのアルバムも下げるべき理由を見つけるのに苦労しました。何度も念押ししますが、今回は順位関係なくどのアルバムにも魅力があるし、この順位だって僕の好み一存だってのを忘れないでくださいね。
 肝心の中身の方はというと、ディスコグラフィーの中でもハードな部類に入るパワフルさが魅力のアルバムです。9弦ギターサウンドを取り入れたことでよりヘヴィにアップデートされています。それでいて一辺倒ではなくサウンド、リズム、曲調のバラエティにも富んでいて飽きさせません。曲のバランスも良くて、アルバム全体に心地いい緩急がついていて押し寄せてくるヘヴィネスにも胸焼けせずに聴き通せます。ただ、順位を落とした理由としてはデフトーンズ特有のダークな雰囲気の中にある高度なフッキングのセンスが今作は希薄かな、と感じたことです。それでも、良い曲はちゃんと入ってるんですけどね。僅差ですよ、僅差。
 初めにデフトーンズの結成メンバーのチノ、ステファン、エイブが集まって一緒に曲作りを始めたことから今作の制作が始まったんですが、チノのカラーが強く出た前作に対して、今作はステファンがフィーチャーされています。そのためか、ディストーション・サウンドがいつもより前に出て、音色ももっと鋭利になっているんですね。アグレッシヴでザクザクしたメタリックなサウンドが好きな方はこのアルバムから聞いてみるのも良いかもしれません。


7位:Around The Fur (2nd / 1997)
https://open.spotify.com/album/7o4UsmV37Sg5It2Eb7vHzu?si=KZ-PKXWgREyQjJUCM66IJg&dl_branch=1

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 デフトーンズのセカンドアルバムにして、バンドが巨大セールスを初めて獲得した出世作です。このアルバムで当時、トレンドにあったニュー・メタルの中心としてシーンに君臨。サウンドはよりギラギラとしたニュー・メタルの性悪な分厚いヘヴィさになり、1stのときよりも大幅にスケールアップ。キャッチーなフレージングにもさらに磨きがかかりました。人気曲の「My Own Summer (Shove It)」や「Be Quiet And Drive (Far Away)」も収録していて、そこからデフトーンズを知った人には一番馴染みのあるアルバムかと思います。チノのシャウトの量やキレ、クールなメロディとの対比もあってグッと聴かせてくれるようなポイントがたくさんあります。そして今作は特にヒップホップ色が出ています。こういった「サグいダークさ」みたいなのはこの作品の特色です。
 順位を下げたところで言うと、これは個人的な意見にはなっちゃうかもですけど、デフトーンズのアルバムって聴き込んでだんだんわかることが多くて、その点、このアルバムは一回でお腹いっぱいになるぐらいわかりやすい作品でもあったんですよね。だから、デフトーンズ入門向きのアルバムではあるけど、正直、以降の洗練さをみると若干物足りなさを感じてしまいました。ので、この順位。


6位:Gore (8th / 2016)
https://open.spotify.com/album/3tsXyEbUQehXPaRFCS8K1n?si=mkBf1u_eRS-6b3zgttcyZA&dl_branch=1

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 今回のランキングはどのアルバムも接戦なんですけど、今作と5位は特にデッドヒートしました。これは6位に置かないといけないアルバムでは全くないということを先に伝えておきたいですね。多分、今後も事あるごとに聴き続けるようなアルバムになると思えます。
 今作のカラーは前述の通り、ボーカルのチノの影響が強いです。というのも、デフトーンズでチノが持ち寄る音楽性の原点はそもそもニュー・ウェーヴ、ポスト・パンクにあります。デフトーンズでもカバーしたキュアーやデペッシュ・モード、コクトー・ツインズ、ジャパンなどのゴスな音楽性を持つバンドが影響元にあり、これまでもそういった要素はデフトーンズの作品の中でも盛り込まれてきました。
 ただ、メタルコアやニューメタルといった音楽性のバンドがその要素を強く反映するアルバムというのは珍しいはずです。ラウドな中にそういった要素がうまく親和しているのがデフトーンズならではの芸当ですね。今作もかなりヒット作になっていて、デフトーンズの変わらない実力を証明することにもなりました。
 効果的に使われるデジタルサウンドや気品のある荘厳な音像暗く重たい空気の中でも繊細さを纏い、これまで培ってきた音楽性をミックスしてデフトーンズにしか到達しようのない高次元の音楽性を披露しています。メタルの新しい地平をも模索する革新性と探究心、そしてデフトーンズにしかない開放感に溢れた快作です。


5位:Koi No Yokan (7th / 2012)
https://open.spotify.com/album/4PIVdqvL1Rc7T7Vfsr8n8Q?si=Vlq6kuLIQCi04Pvk--xZ5w&dl_branch=1

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 前作の「Diamond Eyes」以降、デフトーンズは第2フェイズというか、メタルコア・サウンドを基調としたスローでスケール感のある、メタル界でもオルタナ精神のある特異な存在になっていくんですけど、今作ではそのサウンドを踏襲しつつも、浮遊感のあるシューゲイザー的なサウンドスケープを展開したり、フランクが煌びやかなシンセを見せた、かと思えば強烈なディストーションを聴かせるような変化に富んだ音楽性が特徴です。5thアルバムの「Saturday Night Wrist」でもその片鱗は垣間見せてましたが、エモやシューゲイザーといった甘くメロディアスな要素をしっかりとデフトーンズならではの表現として獲得し、激しいサウンドにも違和感なく溶け込ませ、なおかつ中毒性のある謎のシナジーすら纏っています。チノの器用な歌唱能力、曲を粒立たせるバンドのテクニカルなリズムや展開の絶妙なコントロールは圧巻。
 とはいったものの、今作の浮遊感とかシューゲイザー的といったものも単なるシューゲイザーよりももっとクセの強いもので、没入するようなサイケなトランス感だけではなくて、閉塞と解放、音圧や安定した曲展開からの変化のパワースイッチとして機能するようなものもあって、シューゲイザーに求められているサウンド感からさらに可能性を探究するような高度なアプローチがあって、デフトーンズの持つドラマチックでどこか不気味な極彩色の世界が広がっています。


4位:White Pony (3rd / 2000)
https://open.spotify.com/album/5LEXck3kfixFaA3CqVE7bC?si=5g5xjsMER-imt1uowculBA&dl_branch=1

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 知名度、評価、セールスともに最高点を取る文句なしの傑作アルバムです。時期的にも音楽性的にもニュー・メタル期に分類するのが正しいんですけど、その一言では片付けられない魅力が存分に詰まっています。2000年、ニュー・メタルブームの渦中にあり、その頂点を捉えた、同ジャンルの金字塔的作品。ただ、ニュー・メタルの枠組みをも凌駕する破格の内容です。
 まずは前2作よりもさらにスケールアップ。轟音渦巻くパワフルな瞬間と、神秘的で透明感のある瞬間の緩急が特徴的で、どの瞬間においてもバンド全体が一体となって迫ってくるアグレッシヴさがあります。これまでになかったレベルでの躍動的なダイナミズムを獲得します。
 なんと言ってもここではこれまでもバンドに関わってはいたDJでキーボードのフランクが正式に加入することになります。このフランクがこのアルバムを傑作に押し上げる大活躍をしてくれています。というのは、デジタルサウンドの導入、そして「ブレイクビーツを吸収した、バンドの電子グルーヴの内包」にあります。
 デジタルサウンドはたびたびそれ以降でも効果的に使われ、場面に違った印象を与えます。これがフランクによるもので、後半の「Teenager」や「Passenger」ではよりフィーチャーされてるんですけど、同年に「Kid A」がある時代に先んじてメタル方面からそういった要素を取り込むハングリーさが、デフトーンズが今日まで最先端のバンドで居続ける大きな要因なんじゃないかな、と思います。
 そして気になってるかと思います「ブレイクビーツを吸収した、バンドの電子グルーヴの内包」についてですが、もともとDJの技術であったブレイクビーツによるリズムはヒップホップや90年代ビッグ・ビートを経てロック方面にも吸収されていきます。ここで、ヒップホップを大きい構成要素にするニュー・メタルの音楽性が反応するのは時間の問題だったと思います。今作ではそんなレイヴ、ヒップホップの縦方向のリズムノリが電子的な空気を孕んだままデフトーンズに直流したことで、今作の持つ音楽性が完成したのではないかと思います。特に「Rx Queen」や「Knife Prty」での正確に刻むようなビート感覚が追究されなくなっていくのは少し勿体ない気もするほどクールなものだったと感じます。残念ながらこれを強化したのはデフトーンズではなくリンキン・パークやプロディジーだったんですが、メタルの方向からここに辿り着いたのはデフトーンズが最初だったのかもしれないな、という少し期待を込めた感想を持ちました。


3位:Diamond Eyes (2010 / 6th)
https://open.spotify.com/album/1GjjBpY2iDwSQs5bykQI5e?si=6FMFboLlRgyimCFaJ_b5tQ&dl_branch=1

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 ベースを務めていたメンバーのチ・チェンが前作リリース後に交通事故で倒れ、意識不明の重体になるというアクシデントに見舞われ、本来制作途中だったアルバムのレコーディングを中止。チの容体が回復しないため、アルバムは未完のまま保留になってしまいます。チの代わりとしてベーシストをセルジオ・ベガに一時的に後任として招集。チは回復することなく「Koi No Yokan」リリース後他界してしまうので、今作以降はセルジオがベースを担当することになります。
 というハプニングもありながら制作された今作は、前述の通り、デフトーンズの第2フェイズを象徴する音楽性を獲得した作品で、バンドの多彩な武器がより拡張された最もデフトーンズらしい1枚
 ダークでヘヴィなメタルコア・サウンドは8弦ギターの導入によるものも大きく、トリッキーなリズムパターンをキーフレーズとして応用するようになるところからジェント的な要素も感じられます。とことんヘヴィなサウンドなのにキャッチーなメロディや強力なリフ、そしてチノのクリーンな歌唱と凶暴なシャウトの両立が今作の魅力。このあたりはBMTHなどにも継承されるような要素で、今聴いても嫌な古臭さを感じない質の高さと先見性、迫力があります。「ダークなカッコよさ」という点ではニュー・メタル期に成しえなかったところまで手を伸ばしています。ここが、ゴス要素の流入によるものだったのかなとも思ったり。
 今作で核となるシグネチャー・サウンドを見つけられたのも、次の過渡期の作品での模索なくしてはなかったことなんじゃないかな。


2位:Deftones (4th / 2003)
https://open.spotify.com/album/6252G7bGCVijXlqAjtjeDP?si=TFiJrrMXQk-AmQLO_tvsaA&dl_branch=1

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 というわけで、過渡期のデフトーンズが2作続きます。2位はセルフタイトル作。大成功を収めた3rd、そして絶頂を極めていたニュー・メタルからの脱却を図ったこの時期では、ニュー・メタル、メタルコア、その両方にも大別できない狂気の世界があります。
 今作、そして次作は(おそらく)デフトーンズのファンやメタルファンからの人気は微妙なアルバムかもしれません。(そもそもデフトーンズについてあんまりこういった議論がされてなかったり、僕がメタル畑の人ではないのもあって実感として議論されてるのかもあんまわからんってのがあるんですけど) しかし、この2作にこそ、他のデフトーンズでは聴けない特別な音楽があります。
 今作は鬱蒼としていてとにかくダークです。デフトーンズ史上いちばん暗いアルバムです。ネガなエネルギーがこれでもかと充満し、真っ直ぐ地の底に叩きつけられます。前作と明らかに違う音圧が脳内を埋め尽くします。この音圧はこれ以降、デフトーンズに欠かせない、そしてニュー・メタル期との大きく差別化になるポイントの一つで、デフトーンズの最も重要なキーワードでもありますね。
 チノのシャウトは今作では今までにないほど狂いきっていて、救いようがない絶叫。前作よりもテンポも下がり、より鈍重でドゥーム的なスピード感に接近するようになり、この要素も第2フェイズでのデフトーンズに通底した印象を持たせる要素でもあります。アルバム全体に邪悪な気が張り詰めていて、このコントロールできないほどの混沌とした緊張感はしっかり統制された「Diamond Eyes」ではなかったものです。デフトーンズはどちらかというと「メタル的なカッコよさ」、要するに、高度な演奏から出る緊張と緩和が生む爽快感、高出力のパワーシフトが面白いバンドではあるんですが、今作に関してはハッキリ言ってここが不完全です。爽快感に欠ける。だから、面白いんですね。
 とことんまで沈み込むというマゾなベクトルは今までのインテリなデフトーンズではなかったもので、その要素をうまく引き出して唯一無二の作風を作り上げているのはキャリア全体で見てもこのアルバムだけです。この異様な暗さの原因として考えられる要素は単に音が下がったからというだけではなく、前作の延長要素として、「反復」をより意識しているからなのではないかと思います。デフトーンズのカッコいいフッキングやアクセントのトリッキーなリズムがないことで、「抜けきらなさ」。爽快感を抑制しています。ダークな空気感からの解放のエネルギーを使わず、蓄積しながら膨らむんです。このヘヴィで陰鬱な「反復」が負のエネルギーをより凶悪に作り替えてるんですね。その証拠となるのが、フェードアウト曲がこのアルバムにだけ2曲あるということですね。もうこれに気づくと彼らがわざとこういうふうにアルバムを作っているとわかりますね。暗いというよりも抑制された中から滲み出る危険な狂気がこのアルバムを良い意味で「哀しい」ものにしていると思います。引きこもりの兄ちゃんがストレス抱えて外に刃物持ち出した時がいちばん怖いみたいな感じでしょうかね。知らんけど
 とは言っても、デフトーンズエッセンスが薄いわけではありませんし、そんなに気構えなくても聴けるアルバムではあります。ただそのアルバムの血のニオイに気づくまでは...。


1位:Saturday Night Wrist (5th / 2006)
https://open.spotify.com/album/4o1KnoVpzXZceJxyjELEQB?si=1_k30zBSTtuVgLrDzzN1nQ&dl_branch=1

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 1位は5thアルバムです。1stからプロデュースを担当していたテリー・デイトから離れ、主にアリス・クーパーなどを担当したボブ・エズリンをプロデューサーに付けた新体制での作品で、今作は前作と打って変わってデフトーンズ史上最も耽美な作品にしていちばんの異色作です。メンバー間の不和があり、特にチノとステファンの関係悪化から制作は難航し、レコーディングに2年も費やした力作です。そのため、異色作といったのはこのアルバムの持つ特別な違和感のためで、「デフトーンズ」という言葉でなければ接合できないほど統一感には欠けた作品でもあり、その主題となる音楽性の不在から、多くの要素を持ち込んだ作品となりました。内容をその要素の紹介とともに見ていきます。
 まずはエモ、シューゲイザー、そしてポスト・パンクからの強い影響から来るメロディの甘美さですね。ここでは、絶妙なフックで聴きどころを演出してきたデフトーンズにさらなる脱皮がありました。チノの引きずるような泣きの歌唱も儚げな印象を受けます。神秘的なコーラスや破滅的なシャウトを器用に交差させています。デフトーンズが上品な色気を纏うようになった瞬間ですね。
 次にリズム面では、スピード感はある程度のテンポが守られてはいるものの、立体的な複雑な変化を見せてくるなど、第2フェイズではしばしば見られるようになるトリッキーなリズミングも現れ始めます。
 そして多彩なサウンド表現を使い分けるチャンネルの拡張もここでの収穫が大きく出ています。ギターサウンドはデスコア的なヘヴィさからジリジリとしたシューゲイザー、そしてクリーンなオルタナ、不穏なエレクトロニカと目まぐるしく変色します。おそらくデフトーンズが演奏していなければ、もっと混沌とした闇鍋みたいな状態になったんじゃないかと思います。彼らのバランス制御にはやっぱり並々ならぬ感度がありますね。
 そして何よりそれらの多大な構成要素を繋ぎ合わせようとするときに重要になるのが曲の展開な訳ですが、ここで現れる脈絡のなさというか、アクセント、フッキングの才を絶妙なバランスで見せてきます。個人的にはここがフランクの仕事なんじゃないかなと思ってるんですが、このパーツのおかげで説得力を持って曲が収斂されていくんですね。特別な違和感というのはここで起きる、脈絡の無い奇妙な変化がデフトーンズの手腕によって曲に溶け込んでしまうことです。
 今回、そのポイントをうまく捉えられたのがおそらくボーナス・トラックとしてアルバムの最後に収録されているカーズのカバー曲「Drive」。ここで聴いた瞬間に「これはオマケ」だと確信できたことがこのアルバムの異様さを再認識する瞬間でもありました。まるで屋内と屋外のように曲のコーティングのされ方が違っていて、あの内容をアルバム1枚にしっかりパッケージするのに相応しい音圧のミックスがかけられていたことがわかったんですね。このアルバムは総体で聴いて面白いように作られてるんだ、とちゃんと気づけたことで、無理な雑多感を作っていない絶妙なバランスを改めて計測することができたように思います。


というわけで熱く語ってしまいましたが、デフトーンズ、アルバムランキングと総評はいかがだったでしょうか。僕個人としても半分以上このマラソンを通して初めて聴くことになったアルバムでしたが、まさか初めて聴いたアルバムをトップ3に入れることになるとはっていう感じでした。たくさん発見があって楽しいアルバムマラソンでした。

正直、今回のランキングは入門順にはならないと思うので、デフトーンズ知らないけど、これを読んで興味が出たよ〜って人はとりあえず「White Pony」を初めに聴くのをオススメします。如何せんクセの強いバンドではあるので、ハマらない人もいるかもしれませんし。

でも、面白いバンドであることは間違いないので、少しでもデフトーンズに興味を持ってもらえたら嬉しいです。


次のアルバムマラソンのアーティストは未定です。気が向いたらまたnoteにするのでね。


長々とお付き合いいただきましてありがとうございます。
ほな。



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