【読書感想文】さよなら、無慈悲な僕の女王。

読んだ本:
こがらし輪音『さよなら、無慈悲な僕の女王。』(実業之日本社文庫)

しばらく前から書店で見かけていた作品で、表紙とタイトルに惹かれていたので購入しました。



結論から言うとなかなか作家さんの方に言いたいことがあった(伝えたい/表現したい/届けたい思いがあった)ようだと感じます。こういうのは何処にでも成り立つ構造だろうと思うし、共感できる人もいれば、(無自覚に)主人公の母親の立場である可能性もないとは言い切れない。


ちなみに主人公の母親というのは、「父の急死以降過度で怪しげな健康サロンにハマった」ヤバいやつとして描かれています。

必ずしも健康サロン等が危ないという主旨ではありませんし最終的には母親とも和解しますのでご安心ください


捻くれ者であるのは僕もきっと同じだし、悲観的でもあるとは思うので、"善意よりも善行が遥かに価値がある"のも頷ける。というか、善意というものがそもそも気持ちの悪いものだと思っている。


善意と善行が対比されるのはその"善"という文字に由来するイメージによるものであって、(本文中でも主人公が回想するように)善意の結果が善行になるわけではない。もちろん、善意も何もない(悪意由来や偶然の産物としての)善行も存在する。

善意は人のためと言いながら自分勝手なものだ、というのはきっとこの作者の方も感じていて、それでこんな風なお話になったんだろう。それに縛られた学生時代を思い出して書いたのかもしれない。その悔しさや息苦しさを切り裂いてくれる存在を証明したくて、彼女を登場させたんだろう。

キャラクターに役割を感じることは必ずしも悪いことじゃないし、キャラクターに役割を付与することも物語を考える上で必要なことだ。だからこのお話は、伝えたい価値観だとか事象があって、そのために描かれた作品なんだと思う。



青春小説とか恋愛小説とか純愛物語とか、そういうんじゃない。

苦しくて逃げ場のないように思える現状にも本当は抜け道があること、それを示してがんじがらめの現状から救い出してくれる希望を描くこと。

きっと作者は、そういう世界を描きたかったのだろうと思う。


***

本当は別の作品の感想文を先に出す予定だったけれど、同じ世界観の続刊があるらしいので、そちらも読み終わってから書こうと思います。


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