【読書感想文】光のとこにいてね

読了2023/2/15
執筆2023年2月15日~18日

読んだ本:

一穂ミチ『光のとこにいてね』文芸春秋



結論から言うとめちゃくちゃ泣いた。悲しい、のとは少し違うのだけれど、でっかくて温かいものをぶわあっと想像して、膨らんで、それに裏打ちらされた全てのことが、言動が、波みたいに襲ってきて打ちのめされた。

それから途中、関係ないことで泣いた(なんで?)。あれは何の涙だったんだろう。すっごく温かいものを想像して、「光のとこにいてね」の言葉が纏う空気みたいなのを思い浮かべて、それで。

描かれていない藤野と結珠の信頼。ふたりだけの大切な時間みたいなものを想像して、その大きさと温かさを思い知った。うん、思い知った、という表現が合っているような気がする。別にネガティブな意味とかじゃなくて、痛感した、鮮明に思い浮かべた、というのにも近い。暖かすぎて、つう、と涙が伝っていて慌ててティッシュを掴んだ感じ。優しく守っていたいと思った。光のとこにあの子を連れていってくれる全てのものを。その願いそのものを。
特別は、共有した時間にも影響されると思っている。お互いしか知らない時間が生み出す特別。それは、果遠が遠く離れているあいだ結珠を支えた藤野への信頼にも存在すれば、同様に(あるいはそれ以上に)、僅かでの強烈な記憶として残る果遠との時間にも存在する。

「光のとこにいてね」このタイトルを考えたのが一穂ミチさんなのか別の誰かなのか知らないけれど、この言葉を思いついた人はすごい。温かさが、その物語が、こんなにも伝わってくるのだから。

結珠ちゃんと、藤野。あなたが(とか書いてるけどこれ公開するか悩んでる)結珠にしか見えない場面もあった。

――捨てるのはいつも弱いほう。残されるあなたは悪くない。――

そんなことも思ったし、果遠の傍から離れていった水人の優しさも、決意も不安もよくわかった。藤野はよくわからない。あんなに悲しくて温かいものを抱えながら、どうして送り出せるんだろう。

泣いた私は、きっとまだ全然、弱くてちっぽけなんだと思う。強くなったら、温かく全部抱えて手放して守っておくことができる?でもきっと、4人ともその全ての日々に、時間に、ふれる温かさがあったと思う。みんな、それを不幸せだとは思わないだろうし、藤野と結珠、水人と果遠、お互いへの思い入れも愛情も信頼もちゃんと美しく描かれていた。ただそれとは別方向に伸びる、ふたりの共振があっただけだった。何年ぶりに出会っても、目の端に捕えただけでお互いとわかる共鳴があるだけだった。

秘密を、他の人には絶対に踏み込まれたくない心の内側を、ひっそりと共有して。でも他人には(それがより言語化しやすい関係だとしても)何となく強がって繕って、心を開けないでいる。。ふたりの出会いに、再会に、僕は嫉妬でもしているんだろうか。

最後のシーンにはほっとした。安心した。どこへ行ったって、きっとあの子のそばには光がさすだろう。悲観的で、遠くのピストルスターをひたすら信仰する彼女も、どうか光のとこにいてほしい。



最近、僕の選ぶ本のセンスがいいのか、涙もろくなっているのか、感傷的なのか、偶然か、何かわからないけれど読んでよかったと思ったし、次読んだときも泣ける自分でありたいと思った。


世界観にふれあうあなたも、世界線が離れてしまった人も、僕が出会った人すべて。

みんな
光のとこにいてね。






***

ヘッダーは、雲の隙間から差し込む光をイメージしてこちらにさせていただきました。光の当たらないところもある、だけどあなたは「光のとこにいてね」。そんな(祈りや願いの)お話だった様にも思います。素敵な作品をありがとうございます。

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