fragile


最近聞いている曲があって。タイトルが面白くて一度目にしたら忘れないような強烈さがある気もしています。

『泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて』(ツユ)


(以下、歌詞の解釈を含みます)



この強烈なタイトルとサムネイルの(ちょっと狂ったような女の子の)イラストを見ると、さぞかしどす黒い不協和音みたいな曲だろうと思うかもしれないのですが(僕はちょっと身構えた)、聞いてみるとそんなことないのですよね。

…で、すっかりここ最近のお気に入りになったという訳です。


ストーリーとしては、彼氏に新しく彼女(か好きな子=彼奴)ができて、嫉妬しているような女の子のお話です。

あれほど私を(特別に)愛してくれた貴方が、もう私を愛してくれない。それどころか、別の子にばかり目をかけて愛しているみたいだ。私は貴方からもらった愛(=翼)を疑ったことはないし、いまでも愛しているのに、あなたはもう私を振り返ってはくれないのね。
ああ悔しい。悲しい。そんなはずないのに。悔しい。悔しい。彼奴さえいなければ今も私が貴方の特別で、貴方のその視線を独占できていたはずなのに。
ねえ、どうして私じゃなかったの?
その場所にいるのは、この先もずっと私のはずだったのに。彼奴のはずがないのに。彼奴より、私の方がふさわしいに違いないのに。

こんなことを思って、彼奴が不幸になればいいと願っても罪悪感もなく悪びれもしない私は、きっとこの苦しさを抱えて、ひとり荒野を歩いてかなきゃいけないのね。

歌詞から想像した世界観

面白いのは”泥の分際で”とまで言い放ち、
”ごめんなさい”とすら思わないのに、
自分から離れていく貴方を認めているということです。


例えば、自分は愛されていると本気で(盲目的に)信じているなら、

『泥の分際で、貴方が彼奴のことを好きになるはずないでしょう?』
『確かに最近の貴方は少し冷たいけど、気の迷いだと証明してあげる』
『あんな奴に誑かされてはダメよ』

くらいの歌詞になりそうです。

でもそうではなく、貴方の気持ちが離れていっていることを認識して、信じられないし信じたくないけど、現実はそううまくいかないようだというのを心の奥では解っているのです。

だから、強がってみるのです。


――私から見ればなんの取柄もない(私の方が優れているはず、私の方が魅力的なはずの)泥の分際で、どうして貴方を奪うと言うの。どうして貴方はあの子ばかり見つめているの。(そんなはずないよね?)――

愛と恋愛における万能感のようなものを、空を自由に飛べる翼に例えて、それが失われ、黒い感情を抱く様子を堕天使と重ねているように思いました。



最後、自分を反逆者と称しているところも可愛くて好きです。

振られた子が全員、反逆者にはならないと思いますし、この子もそんな風には思っていないでしょうから、この子は自分が”反逆者”だという自覚があるのです。貴方を私から奪っていった彼奴が憎たらしいのも悔しいのも未練がましいのも、本当は正しくないのだと思っている。でも諦めきれないし納得もできない。彼奴を見下すのをやめられないし、謝ろうと思わない。

こんな私は正しくない。

――だから、この行き場のない思いを抱えたまま、貴方という大切も何もかも失って生きていかなきゃいけない定めを受け入れるしかないのよ。――


こんな風に、僕は想像しました。
だから、この子はとても良い子なのだと思います。

全部彼奴のせいに違いないのに、
泥の分際のくせに、

そんなことを思いながらも、
ひとり泣いて抱えていく可愛くていい子なのだと思います。

強がりで、その一面どこか脆い、本当はとても優しい子なのかもしれません。





そう思うと、タイトルもこの子の見栄を張った強がりに思えて、
とても可愛らしいく感じてしまいます。






***



この曲はノベライズされているようです。こちらを読んだ感想ではありませんので、解釈の違いがあってもご容赦下さい。



最後まで読んでくださりありがとうございます。読んでくださったあなたの夜を掬う、言葉や音楽が、この世界のどこかにありますように。明日に明るい色があることを願います。どうか、良い一日を。