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せめて私は、それを大切にしたいんだ。

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自分が書いた詩や小説等を集めています。
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2023年5月の記事一覧

【短編小説】白昼夢。

『白昼夢。』 (最後に簡単な後書きがあります) ** 風に揺れる木々を見上げていると、どこか遠くへ連れ去ってほしい、と思う。私が歩いてきて、これから前進しなきゃいけないこの道ではなく、どこか遠くの、誰も知らない、草原か無人島の浜辺か、異世界でも何でもいいけれど、どこか遠くへ、と願ってしまう。 本当は、妄想にもならないような淡い現実逃避だとわかっている。だから、木漏れ日の落ちた幹を見上げて、少し肌寒い、その木陰の恩恵に与って少しのあいだ目を閉じる。 昔から妥協と諦めば

【詩】眠り。

昔は、電話もメールもなかった。だからきっと、月を見上げては、文を読んでは、歌を詠っては、顔も知らない遠くの誰かを想ったのだろう。 御簾を上げて、夜風に願ったかもしれない。 月を介して、歌に乗せて、琴をつまびいては、愛を唄ったかもしれない。 * 今日は雨ですが、雲に隠れる前は空の低いところに、まるい月が出ていました。月夜の、あのモノトーンに似た静かな世界で、琴の音が響く景色は。まるで世界に色がついたように、穏やかに、緩やかに、温かな願いが薫るのかもしれない。 ***