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せめて私は、それを大切にしたいんだ。

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自分が書いた詩や小説等を集めています。
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2022年11月の記事一覧

【短編小説】生きろと息を吹きかけた

2022/11/22 12:51〜 *** 「おいおい、まだそんなぐだってんのかよ。」 バイトから帰ってきたあいつが呆れたように言う。 ミケたちがあいつを見上げていて、床に伸びた僕のことはもう障害物程度にしか認識していないみたいだった。 「…買い物、してくれたの。」 ビニール袋をがさごそして、あいつは肉やら野菜やらをテーブルに広げた。 「…じゃあ、後はよろしく。」 「…もしかして、後はやれって?」 これ貸しな、そう言ってあいつはこんな真冬にカップアイスの蓋を開け

【湊谷翔×ゆっずうっず】「夜明けに祈る」

(こちらは、ゆっずうっずさんに曲を添えていただいたコラボ作品です。) 『夜明けに祈る』 ドアを開けるほどの勇気はなくて 代わりに覗いた窓の向こう 誰かの話し声に 夜の街の風に 一歩先を行く明日を見ていた 届かない青の向こう 一歩先を行く明日を見ていた あの青は切り取れない あの夕陽に手は届かない それでもその先にある世界が見たくて 僕はまたカーテンを開けた 指先をすり抜ける風に泣いて それでも前を向くよって 開いた瞼の向こう 今日に差し込んだ確かな青に 明日の灯りを

【小説】見知らぬ地

2022年9月19日~2022年11月2日 (注意:とても長いので時間がある時にお読みください。読了目安時間は約20分です。) ***  見知らぬ地のような気がした。それが少しだけ寂しかった。 **  街の喧騒の頭上で、ホログラムスクリーンがニュースを伝えている。新たな構想発表の話題で、どこか皆浮足立っているような気がした。  ヴァーチャルリアリティ、VRと呼ばれる世界が普及し始めたVR元年以降、その世界は日々拡大してきた。ゲームに映画、買い物、旅行、ビジネス、授業