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電車の中、終業直前に対応した人のことを思い出していた。最後に書類の一番下にサインをもらって。そういえば、ファーストネームがあの人と同じだった。書類をまとめる段になってやっと、そのことをふわっと思いだしたのだった。 ――すぐには気がつかなかった―― その事実に、何故だか少し動揺していた。忘れかけるほどの時間が経ったとは思えなかった。けれど確かに、あの頃の記憶が遠のいていた。あの人と出会わず平凡な日々を、今まで過ごしてきたかのような。 あなたと同じ名前にふれても記憶がザラつ
僕は目が見えなかった。厳密には、右目は生まれた時から見えづらくて、でもそれでも、みんなとほとんど同じように生きていけていた。 だけどまだ小さい頃、兄弟たちと遊んでいたら、別の鳥の巣に近づいてしまったことに気がつかなくて。当然、僕の母さんより大きな体で攻撃されたら躱すことなんかできなくて、それで左目が見えなくなったんだ。 小さいうちはまだ、母さんがエサを運んできてくれた。兄弟たちは僕よりずっと早く、ひとりで食べ物を調達できたから、ひとり立ちできない僕はよくからかわれた